墨汁日記

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やせがまん

2005-05-20 20:05:56 | 仕事
 俺は屋根屋で五年ぐらい働いた。
 屋根屋の事を建築業界では「板金屋」と呼んでいる。

 板金屋と呼び称される職業はたくさんある。
 自動車のボディーのへこみやキズを修理する車の修理屋さんは金偏のバンキンヤ。(板金の『板』の字が、金偏に反)
 ブリキ板やステンレス板を加工して新幹線のトップから厨房のフードなどの製品を工場で造る仕事もバンキンヤ。
 全国で普通に流通しているバンキンヤは以上の二つだが、東京にはさらに建築板金なるものが存在する。東京の建築現場では金属屋根の施行をする業者を「板金屋(バンキンヤ)」と呼ぶ。
 
 しかし、建築業界になじみのない一般の人には「屋根屋」の方がとおりがいいかもしれない。「建築板金」は地域により「ブリキ屋」「トタン屋」「銅板屋」などとも呼ばれる。
 仕事内容は、かわら屋根以外の金属製屋根の施行。
 学校の体育館のトタン屋根や、建て売り住宅のコロニアル屋根などの施行を得意とする。そして屋根の水回りであるトヨやトイの取り付けも板金屋の得意技だ。
 頼まれれば、部屋内のステンレスばりや金属製フードなどの取り付けもおこなう。

 建築は男の世界。男の世界ではやせがまんがまかりとおる。

 コイルと呼ばれる金属の巻き板は凶器。
 コイルとは厚さが0.4ミリから1ミリぐらいの金属の平板をトイレットペーパーのようにグルグル巻いたもの。平板の全長は板の厚さにもよるが数十メートル。幅は用途にあわせて1メートルから45センチまでいろいろある。
 このコイルが板金屋の飯のタネ。
 板金屋はそいつを金物ばさみでじょきじょき切り、ベンダーで折り曲げた後にハンマーやドリルで各家庭の屋根に取り付ける。

 コイルの小口はカッターの刃並の鋭利さを持つ。
 常にカッターの刃並の鋭利さを持つ金属の平板を取り扱う建築板金では、指を切る怪我が非常に多い。
 しかし、指を切ったからといっていちいち泣き言を言っていると同僚にあきれられ馬鹿にされる。
 少しの怪我じゃビクともせず、平気のフリをするのが建築業界の男なのだ。

 平気のフリの具体例。

 現場で、1.2ミリのドリル刃で穴開け作業中に、誤って自分の指を爪ごと貫通。
 それでも声の一つもあげず、ドリルを正転から逆転に設定し直してドリル刃を指から自力で引き抜く。
 血がドクドクと流れる指を示して職長に冷静沈着に報告。

「すいません。ドリルで自分の指を貫通しちゃいました。」

「オイ!思いきり指を貫通してるじゃないか!破傷風になるぞ!すぐに医者に行け!ウチヤマ、お前が運転して病院まで連れて行け。」(だいたい、こういう場面では一番使えない奴が付添い役になる。)

 しかし。ここでホッとして仲間に病院に連れて行ってもらう様じゃただのけが人だ。
 建築の男は、こんな時でも自分の怪我より現場の事を気遣う。

「いや、二人も人間が欠けちゃ現場の仕事が遅れます。俺一人で病院に行けますから。」

 そう言い放ち、頭に巻いていた汗だらけのタオルを血だらけの指に巻きつけると自力で車を運転して病院まで行く。

 ここまでやって、はじめて。建築業界じゃ「あいつは男だねぇ。」ということになる。
 ドリルで指を貫通させると痛いぞ。俺は貫通させた事ないけどね。 


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