《子どもと教科書全国ネット21ニュースから》
◆ 朝鮮学校無償化排除に異議あり
~9.13東京地裁判決と今後の闘い
◆ 惨い!不当判決宣告一悲鴫が上がる
2017年9月13日、東京地裁前には傍聴希望者含め1600人の人が結集した。女子高校生は民族衣装であるチマ・チョゴリを着ている。以前は通学にも来ていたが、チョゴリ切り裂き事件などの事件が相次ぎ、今は学校に来てから着替えている。裁判所前にはメディアも多数駆け付けた。
裁判長が開廷宣言、そして「主文1、原告らの請求をいずれも棄却する。2、訴訟費用は原告らの負担とする」と宣告するや、他には何も言わず去って行った。
法廷には一瞬何とも言えない雰囲気が広がり、やがて「何だこれは!」「不当判決!」という声が飛んだ。涙ぐむオモニの姿もあった。原告生徒たちは打ちのめされた表情で退廷した。
門前に「不当判決」「朝高生の声届かず」という旗が表示されると、待ち望んでいた人々から悲鳴に近い叫びが上がり、うずくまって泣きじゃくる女性もあちこちに。そして「朝鮮学校の子どもをいじめるな!」「朝鮮学校を差別するな!」など自然に出てくる叫びでシュプレヒコール。学生たちが金曜行動で歌っている歌をみんなが精いっぱいの声で合唱した。
悪夢だろうか。99%勝てると信じていた東京判決。万が一負けるとすれば、4月1日に裁判長が交代していることだけが懸念材料と思っていたのだが..。
◆ 裁判に至るまで
2010年4月から制度化された通称「高校無償化法」によって、教育への支援が世界最悪レベルの日本で、外国人学校生徒にも支援金が支給されることになった。
当時31校からその対象校は43校に拡大したが、その中に、朝鮮学校と同じように文科省省令による分類(ハ)に入る学校が2校ある。
どちらも朝鮮学校より後から申請し、一校は(ロ)に分類し直し、もう一校は(ハ)ではあるが当面の間認可という状態で支給されている。
(ハ)の項目が省令改悪によって削除され、朝鮮学校だけが永久に申請できない状態が作られた。
2012年12月の政権交代で安倍政権が誕生するや、まず最初に行ったのが、朝鮮学校不指定決定だった。
政権誕生後の2日後、下村文科大臣は「拉致問題に進展がなく、朝鮮総連と関係の深い朝鮮学校に無償化法を適用することは国民の理解が得られない」と不指定理由を述べた。
翌2012年2月20日、全国10校の朝鮮学校に無償化不指定の通知が送付された。その中には不指定理由として「(ハ)の削除により、審査対象にならないこと。規定13条に適合すると認めるに至らなかった」ことが書かれていた。
2013年1月24日、愛知と大阪で国を相手取った訴訟が提起され、広島・福岡と続き、最後に2014年2月17日に東京で朝鮮高校生62人が原告となる訴訟が起こされた。
大阪と広島は不指定取り消しと無償化指定義務という訴訟、ほかの3か所は国賠訴訟である。
◆ 広島・大阪、真逆の判決
5か所の裁判のうち、2017年には3か所で地裁判決が言い渡された。7月19日、広島地裁は原告敗訴、7月28日、大阪は原告全面勝利という真逆の判決だった。
国側の主張は(ハ)の削除はさすがに法的に問題があると思ったのか、主として「規定13条」問題を前面に出してきた。
規定13条とは「学校運営が適正に行われているか」を問うもので、国側は「生徒に支給された支援金が朝鮮総連にわたる懸念がある」と主張し、その証拠として公安調査庁の調査、産経新聞の記事、民団新聞記事、拉致家族会の要請などを提出した。
そして、さらに朝鮮総連は教育基本法16条の「教育への不当な支配に服することなく~」に違反しているとまで主張した。
これらの主張を丸ごと容認したのが広島判決だった。
◆ 司法の役割を果たした見事な大阪地裁判決
一方大阪地裁判決は、国の提出した証拠は朝鮮学校への支援金支給に反対する立場からのもので、客観性がないこと、大阪朝鮮高級学校は「私立学校法」に基づく財産目録や財務諸表が作成され、理事会等の開催や府知事の随時立入検査でも法令違反を理由とする行政処分を受けたことがないことなどから「規定13条」に適合すると断言した。
そして教育基本法16条は行政の教育支配を禁じているものであること、朝鮮総連と朝鮮学校の関係は歴史的経緯を考えれば、民族教育を支援するのは当然であると断言した。司法が果たすべき役割をしっかり果たした見事な判決だった。
夜の報告集会では、高校2年生の女子学生が「私たちは朝鮮学校で、自国の言葉や歴史を学び、朝鮮人として堂々と生きたいだけなのに、なぜ除外されるのかやるせない気持ちでいっぱいでした。今日の判決を聞きながら、この社会で生きていていいと言われた気がしました」と発言した。何ともやるせない言葉だ。
◆ 司法責任を放棄した東京判決
東京地裁の140ページにも上る主文理由には、(ハ)の削除の違法性については何も書かれていないし、不指定処分の理由については明白な事実誤認を犯している。
口頭弁論で原告側が証拠として提出した自民党新聞には、野党時代に影の文科大臣だった下村氏が「このまま審査が進んだら朝鮮学校は審査合格してしまう。だから審査終了前に審査対象からはずすのがいい」という発言記事が掲載されている。
そして5か所の訴訟中唯一文科省の役人を証人尋問したときには、喜田村弁護団長の2時間に及ぶ尋問で、文科大臣の不指定理由と、送付された不指定理由の矛盾について、証人はしどろもどろの回答しかできなかった。
「無償化法」の「すべての子どもに学ぶ権利を保障した」趣旨に反し、政治的理由で排除、不指定にしたのは明らかに違法であるにもかかわらず、裁判長は東京朝鮮学校の個別調査もせずに国の主張だけを容認して請求棄却を判断した。結論も論理も誤っている。
その判決について朝日新聞は「説得力を欠く追認判決」と報じ、毎日新聞は判決後の文科省幹部の「国連安全保障理事会が経済制裁を決議しているのに、日本政府が朝鮮学校に就学支援金を出すわけにはいかない」という発言を紹介している。まさに政治的理由での不指定の証拠だ。
◆ 今後の闘い
夜の報告集会では弁護団から「かえって闘志がわいてきた。控訴して闘う」と力強い発言があり、参加者1100人はみな新たな闘いへの意思を確認した。
韓国の「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」共同代表のソン・ミヒさんは3か所の裁判に立ち会い、「民族教育の権利のため、ともに生きていくため、東アジアの平和のためにともに頑張ろう!」と励ました。
今、朝鮮学校は地方自治体からの補助金も停止されるなどの攻撃も受けている。背景には、共和国のミサイルや拉致問題を利用して戦争を煽り、朝鮮学校攻撃を制裁の一環と位置付けている安倍政権の敵視政策がある。
しかし、国連人種差別撤廃委員会からは「朝鮮学校差別を止め、無償化適用と補助金復活を行うための具体的な施策を報告するよう」勧告されている。
朝鮮学校を政治の人質にして差別排除する恥ずべき政策を改めさせていくために、世論を喚起し、さらなる闘いを展開しよう。(もりもとたかこ)
【注】
支援金支給にあたって文科省は省令規則で外国人学校を、(イ)国交があり、大使館を通じて教育課程が確認できる学校、(ロ)国際的に実績のある学校評価団体の認証を受けている学校、(ハ)それ以外の学校と分類し、(イ)(ロ)には支援金支給。朝鮮学校のように(ハ)に該当する学校は第3者機関の審査を受けて文科大臣が認可するとした。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 116号』(2017年10月)
◆ 朝鮮学校無償化排除に異議あり
~9.13東京地裁判決と今後の闘い
森本孝子(「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会)
◆ 惨い!不当判決宣告一悲鴫が上がる
2017年9月13日、東京地裁前には傍聴希望者含め1600人の人が結集した。女子高校生は民族衣装であるチマ・チョゴリを着ている。以前は通学にも来ていたが、チョゴリ切り裂き事件などの事件が相次ぎ、今は学校に来てから着替えている。裁判所前にはメディアも多数駆け付けた。
裁判長が開廷宣言、そして「主文1、原告らの請求をいずれも棄却する。2、訴訟費用は原告らの負担とする」と宣告するや、他には何も言わず去って行った。
法廷には一瞬何とも言えない雰囲気が広がり、やがて「何だこれは!」「不当判決!」という声が飛んだ。涙ぐむオモニの姿もあった。原告生徒たちは打ちのめされた表情で退廷した。
門前に「不当判決」「朝高生の声届かず」という旗が表示されると、待ち望んでいた人々から悲鳴に近い叫びが上がり、うずくまって泣きじゃくる女性もあちこちに。そして「朝鮮学校の子どもをいじめるな!」「朝鮮学校を差別するな!」など自然に出てくる叫びでシュプレヒコール。学生たちが金曜行動で歌っている歌をみんなが精いっぱいの声で合唱した。
悪夢だろうか。99%勝てると信じていた東京判決。万が一負けるとすれば、4月1日に裁判長が交代していることだけが懸念材料と思っていたのだが..。
◆ 裁判に至るまで
2010年4月から制度化された通称「高校無償化法」によって、教育への支援が世界最悪レベルの日本で、外国人学校生徒にも支援金が支給されることになった。
当時31校からその対象校は43校に拡大したが、その中に、朝鮮学校と同じように文科省省令による分類(ハ)に入る学校が2校ある。
どちらも朝鮮学校より後から申請し、一校は(ロ)に分類し直し、もう一校は(ハ)ではあるが当面の間認可という状態で支給されている。
(ハ)の項目が省令改悪によって削除され、朝鮮学校だけが永久に申請できない状態が作られた。
2012年12月の政権交代で安倍政権が誕生するや、まず最初に行ったのが、朝鮮学校不指定決定だった。
政権誕生後の2日後、下村文科大臣は「拉致問題に進展がなく、朝鮮総連と関係の深い朝鮮学校に無償化法を適用することは国民の理解が得られない」と不指定理由を述べた。
翌2012年2月20日、全国10校の朝鮮学校に無償化不指定の通知が送付された。その中には不指定理由として「(ハ)の削除により、審査対象にならないこと。規定13条に適合すると認めるに至らなかった」ことが書かれていた。
2013年1月24日、愛知と大阪で国を相手取った訴訟が提起され、広島・福岡と続き、最後に2014年2月17日に東京で朝鮮高校生62人が原告となる訴訟が起こされた。
大阪と広島は不指定取り消しと無償化指定義務という訴訟、ほかの3か所は国賠訴訟である。
◆ 広島・大阪、真逆の判決
5か所の裁判のうち、2017年には3か所で地裁判決が言い渡された。7月19日、広島地裁は原告敗訴、7月28日、大阪は原告全面勝利という真逆の判決だった。
国側の主張は(ハ)の削除はさすがに法的に問題があると思ったのか、主として「規定13条」問題を前面に出してきた。
規定13条とは「学校運営が適正に行われているか」を問うもので、国側は「生徒に支給された支援金が朝鮮総連にわたる懸念がある」と主張し、その証拠として公安調査庁の調査、産経新聞の記事、民団新聞記事、拉致家族会の要請などを提出した。
そして、さらに朝鮮総連は教育基本法16条の「教育への不当な支配に服することなく~」に違反しているとまで主張した。
これらの主張を丸ごと容認したのが広島判決だった。
◆ 司法の役割を果たした見事な大阪地裁判決
一方大阪地裁判決は、国の提出した証拠は朝鮮学校への支援金支給に反対する立場からのもので、客観性がないこと、大阪朝鮮高級学校は「私立学校法」に基づく財産目録や財務諸表が作成され、理事会等の開催や府知事の随時立入検査でも法令違反を理由とする行政処分を受けたことがないことなどから「規定13条」に適合すると断言した。
そして教育基本法16条は行政の教育支配を禁じているものであること、朝鮮総連と朝鮮学校の関係は歴史的経緯を考えれば、民族教育を支援するのは当然であると断言した。司法が果たすべき役割をしっかり果たした見事な判決だった。
夜の報告集会では、高校2年生の女子学生が「私たちは朝鮮学校で、自国の言葉や歴史を学び、朝鮮人として堂々と生きたいだけなのに、なぜ除外されるのかやるせない気持ちでいっぱいでした。今日の判決を聞きながら、この社会で生きていていいと言われた気がしました」と発言した。何ともやるせない言葉だ。
◆ 司法責任を放棄した東京判決
東京地裁の140ページにも上る主文理由には、(ハ)の削除の違法性については何も書かれていないし、不指定処分の理由については明白な事実誤認を犯している。
口頭弁論で原告側が証拠として提出した自民党新聞には、野党時代に影の文科大臣だった下村氏が「このまま審査が進んだら朝鮮学校は審査合格してしまう。だから審査終了前に審査対象からはずすのがいい」という発言記事が掲載されている。
そして5か所の訴訟中唯一文科省の役人を証人尋問したときには、喜田村弁護団長の2時間に及ぶ尋問で、文科大臣の不指定理由と、送付された不指定理由の矛盾について、証人はしどろもどろの回答しかできなかった。
「無償化法」の「すべての子どもに学ぶ権利を保障した」趣旨に反し、政治的理由で排除、不指定にしたのは明らかに違法であるにもかかわらず、裁判長は東京朝鮮学校の個別調査もせずに国の主張だけを容認して請求棄却を判断した。結論も論理も誤っている。
その判決について朝日新聞は「説得力を欠く追認判決」と報じ、毎日新聞は判決後の文科省幹部の「国連安全保障理事会が経済制裁を決議しているのに、日本政府が朝鮮学校に就学支援金を出すわけにはいかない」という発言を紹介している。まさに政治的理由での不指定の証拠だ。
◆ 今後の闘い
夜の報告集会では弁護団から「かえって闘志がわいてきた。控訴して闘う」と力強い発言があり、参加者1100人はみな新たな闘いへの意思を確認した。
韓国の「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」共同代表のソン・ミヒさんは3か所の裁判に立ち会い、「民族教育の権利のため、ともに生きていくため、東アジアの平和のためにともに頑張ろう!」と励ました。
今、朝鮮学校は地方自治体からの補助金も停止されるなどの攻撃も受けている。背景には、共和国のミサイルや拉致問題を利用して戦争を煽り、朝鮮学校攻撃を制裁の一環と位置付けている安倍政権の敵視政策がある。
しかし、国連人種差別撤廃委員会からは「朝鮮学校差別を止め、無償化適用と補助金復活を行うための具体的な施策を報告するよう」勧告されている。
朝鮮学校を政治の人質にして差別排除する恥ずべき政策を改めさせていくために、世論を喚起し、さらなる闘いを展開しよう。(もりもとたかこ)
【注】
支援金支給にあたって文科省は省令規則で外国人学校を、(イ)国交があり、大使館を通じて教育課程が確認できる学校、(ロ)国際的に実績のある学校評価団体の認証を受けている学校、(ハ)それ以外の学校と分類し、(イ)(ロ)には支援金支給。朝鮮学校のように(ハ)に該当する学校は第3者機関の審査を受けて文科大臣が認可するとした。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 116号』(2017年10月)
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