令和6年(行ウ)第62号 行政文書不開示処分取消等請求事件(第1事件)
令和6年(行ウ)第63号 保有個人情報不開示処分取消等請求事件(第2事件)
◎ 釈明権行使の申立て(要旨)
2025年7月29日
東京地方裁判所民事第38部B2係御中
第1事件及び第2事件原告ら訴訟代理人 弁護士 三宅 千晶
先月3日、最高裁判所第三小法廷は、本件における裁判所の訴訟指揮に大きな影響を与える判決を出しました。
この判決の事案では、警察庁が作成・保有する表形式の保有個人情報ファイル簿における不開示事由の存否が争いになっていたのですが、国は対当事者の求問に対して本件と同様に回答を避け、あるいは内容のある回答をしませんでした。
高裁の裁判長も、釈明権を行使して、審理に必要な事項について被告に釈明を求めることはありませんでした。その結果、不開示事由の存否について、十分な審理が尽くされることのないままに、判決が出されてしまいました。
これに対して最高裁は、事案を判断するに際し、情報公開法が、開示請求のあった情報が記録されている行政文書は、原則として開示しなければならないと定めていることをまずもって確認しました。
そして、このような定めや、争いになっている文書から伺える事実関係に照らせば、裁判長が釈明権を行使するといった、適切な働きかけをした上で審理判断を行わなかった場合には、審理不尽の結果、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法が生じうる、と判示しました。
最高裁令和7年6月3日判決は、主として一部不開示決定における不開示部分の区切り方が主として問題となった事案です。しかしながら、林道晴裁判官、渡辺恵理子裁判官、平木正洋裁判官の補足意見が、法廷意見について、
「情報公開法に基づく不開示決定の取消訴訟の審理の在り方を踏まえ、本件では裁判所側からの働きかけが十分ではなかった結果、本件各号情報該当性の判断方法を誤った点が問題であると指摘している」、「つまり、法廷意見は、情報公開法に基づく不開示決定の取消訴訟の審理や裁判所側の釈明の在り方に照らし、原審の審理や判断方法には問題があったとしているのである」
と説明しているところからすると、最高裁令和7年6月3日判決の考え方は、本件を含む「情報公開法に基づく不開示決定の取消訴訟」一般に当てはまることがわかります。
ではなぜ、最高裁令和7年6月3日判決は、判決の射程を広く及ぼそうとしたのでしょうか。その背景には、情報公開訴訟における証拠や主張の手がかりの偏在の問題があります。
この点については、宇賀裁判長意見が明確に問題構造を指摘しています。宇賀裁判長はこう述べます。
「不開示決定取消訴訟においては、一般的には、原告は、当該行政文書を保有しておらず、その内容を知り得ないのであるから、本件各号情報に係る不開示決定が逸脱・濫用であることを立証する手掛かりを得ることはきわめて困難であるのに対して、被告は当該行政文書を保有しており、その内容を知っているのであるから、どの行政文書のどこに不開示情報が記録されており、それがいかなる理由で不開示情報に当たるかを、不開示情報の内容自体を明らかにしない範囲で説明することは容易なはずである。」
と。そして情報公開訴訟におけるこの問題構造は、文書の存否が争いになっている本件においても、同様に当てはまります。
原告が開示を求めている「情報」を作成し保存・管理しているのも、当該情報が記載された文書を探索しあるいは探索できるのも、専ら行政機関です。原告が、文書の存否を判断するための事実や、証拠の手掛かりを得ることは、極めて困難です。不可能と言ってもいいくらいです。
対する被告は現に「情報」を管理し、文書を探索した当事者ですから、文書の作成や保存の経過について説明することは容易であるはずです。というよりも、この法廷にいる者のうち、文書の存否や探索方法にっいて答えられるものは、被告しかいないのです。
国民が真に主権者として選挙権を行使し、選挙の時のみの主権者で終わらないためには、政府情報を常時知り、そして意見を表明していく必要がある。国民主権という憲法の理念を基礎に、主権者から信託を受けて国政を行う政府が、主権者である国民に対して説明責任を果たす。そのために国自身が自ら創設した制度が、情報公開制度です。
それにも関わらず、ひとたび訴訟になると、国は「当事者対等の原則」を掲げて、自らに不利益な事実はあえて主張しなくなってしまいます。本件でも国は、自ら制定した情報公開法の存在意義を自ら無に帰すような行為を行なっています。
原告からの求問に対しては、被告準備書面(7)の回答にもあるように、実態と乖離しているとしか考えられないような回答に終始し、あるいは「回答の要はない」と述べるのみで、提訴から1年5ヶ月以上が経過して現時点においてもなお、文書の存否の前提となる事実関係すら、明らかになってはいません。そうである以上、本件について審理を尽くすためには、裁判長が釈明権を行使して、被告に釈明を行わねばなりません。
このあと、裁判長から、具体的な釈明の内容についても説明があると思いますが、被告がこれに対して回答をせず、よって文書の存否や一部不開示について、十分な主張立証がされたと言えない場合には、最高裁令和7年6月3日判決の林裁判官補足意見が示唆するように、本件の処分をいずれも取り消すという内容の判決を、出さざるを得ないはずです。
以 上
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます