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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

校則の制定は『子どもの権利条約』第12条の子どもの意見を表明する権利の対象である

2020年02月29日 | 人権
  《子どもと教科書全国ネット21NEWS》
 ◆ 子どもの権利の視点から考える 「校則」のあり方
平野裕二(ひらのゆうじ・子どもの人権連代表委員)

 ◆ 校則・生徒指導のあり方が再び問題に
 校則のあり方があらためて社会的議論の対象になっている。
 大きなきっかけとなったのは、生まれつき茶色の髪の毛を黒く染めるよう強要されて不登校になった大阪府立高校の女子生徒が、これは「指導の名の下に行われたいじめ」であるとして、大阪府を相手取って損害賠償を求める裁判を提起したことである(2017年10月)。
 提訴が明らかになったことによって多くのメディアも校則問題に注目するようになり、同年12月には、いじめ問題に取り組んできたNPO関係者が発起人となって「“ブラック校則”をなくそう!プロジェクト」が発足した。
 同プロジェクトがインターネットを活用しておこなった実態調査(2018年3月発表)により、生まれつき茶髪の生徒に対する「黒染め指導」、下着の色の指定、身だしなみ(スカートの長さなど)についての細かい規定など、行き過ぎではないかと考えられる校則が依然として存在することが明らかになった(荻上チキ・内田良編著『ブラック校則-理不尽な苦しみの現実』東洋館出版社・2018年も参照)。
 厳格な校則や生徒指導は以前(とくに1980年代)にも「管理教育」として問題にされたことがある。
 1990年7月には、神戸市(兵庫県)の高校で、登校時間ぎりぎりに駆けこんできた女子生徒が教員の閉めた鉄製の門扉と校門の壁に頭部を挟まれて死亡した事件も起きた(校門圧死事件)。
 この事作を契機に文部省(当時)は校則や生徒指導のあり方に関する実態調査を実施し、翌年4月10日付で「校則見直し状況等の調査結果について(通知)」を発して、指導のあり方を含む「校則の積極的な見直し」を学校現場に促している。
 その影響もあって、男子生徒への「丸刈り」強要がほぼ姿を消すなど、一見すると理不尽な校則は多少なりとも減ったように思われた。
 しかし、実際には必ずしもそうではなかったことが、前掲プロジェクトの調査等により明らかになったものである。
 内田良・名古屋大学准教授は、前掲『ブラック校則』の編著者対談で、「一つの形を指定してそれ以外を許さないやり方」(男子丸刈り・女子おかっぱという髪型指定など)から「基準をつくって厳しく指導する形」(たとえば耳/襟足にかかるまでは認めるなど)に規制の仕方が変わったと指摘している(232頁)。
 ◆ 学校現場に定着してこなかった子どもの権利条約

 その後、1994年4月に日本は国連・子どもの権利条約を批准し、翌5月に条約が国内で発効した。
 しかし文部省(当時)は、5月20日付で発出した通知「『児童の権利に関する条約』について」で、「校則は,日々の教育指導に関わるものであり,児童生徒等の実態,保護者の考え方,地域の実情等を踏まえ,より適切なものとなるよう引き続き配慮すること」などと述べるに留まり、子どもの権利の視点からあらためて校則を見直すことも、見直しにあたって子どもの意見を聴くことも、求めなかった
 さらに、国連・子どもの権利委員会に提出した定期報告書では、日本政府の立場として、「校則の制定、カリキュラムの編成等は、児童個人に関する事項とは言えず、第12条1項でいう意見を表明する権利の対象となる事項ではない」という独自の見解を打ち出している(第3回報告書〔2008年〕パラ205、第4回・第5回報告書〔2017年〕パラ38)。
 このような姿勢は、子どもの権利条約をはじめとする関連の国際文書や子どもの権利委員会の見解とはまったく相容れない。
 条約の翌年に国連総会で採択された「少年非行の防止に関する国際連合指針」(リャド・ガイドライン)ではすでに、「規律の維持に関する方針を含む学校方針の策定と実施ならびに意思決定の場面には、生徒の代表が参加していなければならない」とはっきり述べられている。(パラ31)
 子どもの権利委員会も、2001年に採択した一般的意見1号(第29条1項:教育の目的)において「子どもは校門をくぐることによって人権を失うわけではない」と明言し(パラ8)、権利の実現を学習・経験するプロセスとしての学校における意見表明・参加の重要性を強調している。
 ◆ 理不尽な校則見直しの動き

 理不尽な校則に対する批判の声の高まりを受けて、林芳正文科相(当時)も国会で「児童生徒が話し合う機会を設けたり、保護者の意見を聴取するなど、児童生徒や保護者が何らかの形で参加した上で決定するのが望ましい」「(児童生徒から)校則の提案があったときに、児童生徒の自尊感情の低下を招かないようにするのは大事なことだ」などと答弁した(2018年3月29日、参院文教科学委員会で日本共産党の吉良佳子議員の質問に答えたもの)。
 不十分ではあるものの、校則策定には子どもも参加することが望ましく、また子どもからの提案には適切に応答する必要があることを指摘した点は、一歩前進と評価できるかもしれない。
 こうした流れを受けて、各地で校則見直しの動きが少しずつ進みつつある。

 大阪では、冒頭で触れた裁判を受けて府教育庁が府立学校(高校・特別支援学校・中学校)に校則の点検と必要に応じた対策を支持し、2018年3月までに197校中90校が何らかの形で校則を改正した(同年4月16日発表)。
 東京都教育委員会も、2019年9月4日に通知「人権尊重の理念に立った生活指導の在り方について」を発出し、「全ての教育活動は、生徒の人権の尊重を基本として行うこと」「生来の頭髪を一律に黒染めするような指導は行わないこと」などを学校現場に求めている。
 中学校を中心として、制服(標準服)の男女差を廃止・緩和する学校・自治体も増加中である。
 具体的には、女子生徒にも希望に応じてスラックスの着用を認めるという対応をとるところが多い。
 性別違和を有する子どもへの配慮もあって、いわゆる「ブラック校則」が問題化する前から進んでいた動きではあるが、増加のペースが速まっている印象がある。
 今後、標準服という名の事実上の制服を維持する必要があるのかどうかについても議論がおこなわれていくことを期待したい。
 また私は、少なくともスカート着用の強制については、子どものジェンダー・アイデンティティにかかわらず人権侵害であって許されないと判断すべき段階に至っていると考えている。
 さらに、大阪府(府立高)、世田谷区(区立中)、岐阜県(県立高)など、校則をホームページで公開する動きも広がってきた。
 校則について家庭や地域で議論するきっかけにもなり、歓迎すべき動きではあるが、校則の内容を理解して入学したのだからという理由で生徒の意見表明を封殺するために利用されないよう、注意が必要である。
 他方、このような校則見直しの流れはいまなお限定的であり、見直しの過程で子どもたちの声が十分に聴かれているともいえない。
 国連・子どもの権利委員会から学校等における子どもの意見表明・参加の推進を繰り返し勧告されてきたこと(2019年1月にも同趣旨の勧告がおこなわれた)も踏まえ、児童生徒の意見表明・参加を積極的に保障していくことが必要であり、さらには、学校の構成員全員を対象とする「権利と責任」憲章のようなものへと、校則のあり方を変えていくことも求められる。
『子どもと教科書全国ネット21NEWS 130号』(2020.2)

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