《「子どもと教科書全国ネット21ニュース」から》
◆ 歴史改ざんは日本の国技か
2008年度使用の高校歴史教科書の沖縄戦「集団自決」の記述から、「誤解する恐れがある」との検定意見によって、日本軍による命令・強制・誘導等の表現が削除・修正されていたことを知った沖縄県民は、その前年の2007年9月29日、宜野湾市,宮古島市、石垣市で復帰後最大となる11万5000人が集まり「教科書検定意見撤回を求める県民大会」を開催して、文科省へ検定意見の撤回と記述の復活を要求した。
また、沖縄県議会と県内41全市町村議会では検定意見撤回の意見書の採択も行われていた。
◆ 検定意見の撤回されないまま
第1次安倍内閣にとって、「美しい国」づくりを進める教育政策において歴史教育上目障りとなっている、①従軍慰安婦問題、②南京事件問題、③沖縄戦集団自決問題の3点セットが
日本軍を貶める「自虐史観」だとして攻撃し、削除することを内閣の暗黙の目玉としていた。そして、まず手を付けたのが沖縄戦集団自決から「軍命」を削除することであった。
しかし、これだけの全県民的な意思表明にもかかわらず、途中政権交代もあり得たが今日に至るまで検定意見の撤回はなされないままである。
その時の海外メディアは「アジアは沖縄の怒りをどう見たか」との問いに対し、「いつのまにか、(国家による)歴史教科書改ざんという悪意に満ちた行為が、あたかも日本の「国技」となったようだ」と述べた。
私も海外メディアの見方や思いに共感するところがあり、今回は表題にこの文言を拝借・引用させてもらうことにする。
◆ 閣議決定と「訂正勧告」
去る4月27日政府見解として
①「いわゆる従軍慰安婦」との記述は「従軍」と「慰安婦」の組み合わせも問題で、今後は単に「慰安婦」が適切である。
②戦時における「朝鮮半島から日本への労働者の移入」は、「募集」「官斡旋」など様々な経緯があり、「強制連行」または「連行」ではなく「徴用」を用いることが「適切」である。
これらの答弁書を菅内閣は閣議決定した。
閣議決定後の5月、加藤勝信官房長官は記者会見で「教科書検定規則に文部科学相が訂正を勧告できる規定がある」と述べ、暗に各教科書会社へ記述変更・訂正申請を迫ったのである。
文科省は、5月18日関係する教科書を発行する15社の編集担当役員を対象にした「臨時説明会」を開催し、記述変更・訂正する場合は「6月末までに申請」、「8月頃には訂正申請承認の予定」などとの日程までも伝えた。
その結果、山川出版社、実教出版、清水書院の3社が現在使われている中学社会科や高校の日本史教科書にある「いわゆる従軍慰安婦」という記述を消し、「従軍」を削除した。
この3社と合わせて東京書籍、帝国書院の計5社も「強制連行」の記述を削除し、「徴用」「動員」などに訂正して文科省へ申請した。
9月8日に文科省はこの5社からの訂正申請を承認したということである。
教科書会社にとっては社運を左右するほど重大な採択の可否がかかる記述問題だけに訂正申請をせざるを得ないとの強迫観念を植え付けられたという。
◆ 巧妙な手法での教育への政治介入
このことは、政府がその時々の政治的判断(政府見解)によって検定済み教科書の記述を変えさせることが出来るということと、会社自らの訂正申請という形を採らせた巧妙な手法での教育への政治介人であり、憲法の保障する学問、言論、表現、出版の自由の度重なる蹂躙に外ならない。
さらには、1993(平成5)年8月4日に発表された「慰安婦関係調査結果発表に関する内閣官房長官談話(河野談話以下同じ)」の実質否定であるといわざるを得ない。
河野談話は、概ね次の通りである。
それはほんの1例に過ぎないが、このような文書が慰安婦の募集活動をする業者が暗躍する各県警察署長宛て(手元にあるのは長崎、群馬、山形、高知、和歌山、茨城、宮城)に発出されたものである。
◆ 河野談話の根拠の1つ
紙面の都合でより詳細な引用は出来ないが、その文書は、政府機関の領事館、上海陸軍武官室、憲兵隊によって慰安所の設置とその運営方法が決定されたことを直接的に示す公文書である。時の河野洋平官房長官も当然この文書は目にした上で談話の根拠の1つにしたものと推測される。
しかし、第二次安倍内閣発足前の2012(平成24)年5月12日、自民党総裁選挙立候補に臨んで安倍晋三氏は「かつて自民党は歴代政府の政府答弁や法解釈などをずっと引きずってきたが、政権復帰したらそんなしがらみを捨てて再スタートできる。もう村山談話や河野談話に縛られることもない」と発言した(産経新聞「単刀直言」)。
周知の通り、第二次安倍政権は、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」や「日本会議国会議員連盟」等、歴史歪曲の中心的議員で構成する「なかよし内閣」であった。
海外メディアからは、日本の歴史認識への批判が相次いだ。2013年1月2日ニューヨークタイムズ社説は「日本の歴史を否定する更なる試み」と題して「犯罪を否定し、謝罪を薄めるどのような試みも、日本の戦時中の残忍な支配に被害を受けた韓国、そして中国やフィリピンを激怒させるだろう」。
同年1月17日ドイツシュピーゲル紙は「(岸信介)隔世遺伝の安倍:過去の危険にすり寄る日本の首相」等々。
◆ 沖縄守備32軍配属下で
そして、今年菅政権は検定合格済み歴史教科書の記述に削除を迫り、変更をさせるという挙に出たのである。
このことは、歴史認識問題で日本と対立する韓国や中国、台湾、フィリピンなどとの溝を一層深めることになるばかりか、石垣島に6か所、小浜島2か所、西表島3か所、そして沖縄諸島全域で130か所もあった慰安所は、すべて沖縄守備32軍配属下の各部隊の駐屯地に設置されていたことを、国・文科省は何と説明するのだろうか。
そして、何よりも「従軍」が削除された「慰安婦」という、軍の関与がみえない加害性の薄れた表現は、生徒たちにとって、なぜ韓国や中国などと歴史問題で対立するのかが理解できなくなるのではないか。
先生に説明を求めても教科書の表現以上の説明はご法度となれば、やはり、従軍慰安婦や強制連行から「従軍」「連行」を削除することの論理的矛盾をそのまま教壇に持ち込むこととなる。
これらを強制する国・文科省の指示は、まさに日本という国による歴史改ざんであり、この重大な出来事を何と表現すればよいか。
海外メディアのいう相撲と同格の「国技」と言うのが妥当かもしれない。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 141号』(2021.12)
◆ 歴史改ざんは日本の国技か
大浜敏夫(おおはまとしお・子どもと教科書を考える八重山地区住民の会世話人)
2008年度使用の高校歴史教科書の沖縄戦「集団自決」の記述から、「誤解する恐れがある」との検定意見によって、日本軍による命令・強制・誘導等の表現が削除・修正されていたことを知った沖縄県民は、その前年の2007年9月29日、宜野湾市,宮古島市、石垣市で復帰後最大となる11万5000人が集まり「教科書検定意見撤回を求める県民大会」を開催して、文科省へ検定意見の撤回と記述の復活を要求した。
また、沖縄県議会と県内41全市町村議会では検定意見撤回の意見書の採択も行われていた。
◆ 検定意見の撤回されないまま
第1次安倍内閣にとって、「美しい国」づくりを進める教育政策において歴史教育上目障りとなっている、①従軍慰安婦問題、②南京事件問題、③沖縄戦集団自決問題の3点セットが
日本軍を貶める「自虐史観」だとして攻撃し、削除することを内閣の暗黙の目玉としていた。そして、まず手を付けたのが沖縄戦集団自決から「軍命」を削除することであった。
しかし、これだけの全県民的な意思表明にもかかわらず、途中政権交代もあり得たが今日に至るまで検定意見の撤回はなされないままである。
その時の海外メディアは「アジアは沖縄の怒りをどう見たか」との問いに対し、「いつのまにか、(国家による)歴史教科書改ざんという悪意に満ちた行為が、あたかも日本の「国技」となったようだ」と述べた。
私も海外メディアの見方や思いに共感するところがあり、今回は表題にこの文言を拝借・引用させてもらうことにする。
◆ 閣議決定と「訂正勧告」
去る4月27日政府見解として
①「いわゆる従軍慰安婦」との記述は「従軍」と「慰安婦」の組み合わせも問題で、今後は単に「慰安婦」が適切である。
②戦時における「朝鮮半島から日本への労働者の移入」は、「募集」「官斡旋」など様々な経緯があり、「強制連行」または「連行」ではなく「徴用」を用いることが「適切」である。
これらの答弁書を菅内閣は閣議決定した。
閣議決定後の5月、加藤勝信官房長官は記者会見で「教科書検定規則に文部科学相が訂正を勧告できる規定がある」と述べ、暗に各教科書会社へ記述変更・訂正申請を迫ったのである。
文科省は、5月18日関係する教科書を発行する15社の編集担当役員を対象にした「臨時説明会」を開催し、記述変更・訂正する場合は「6月末までに申請」、「8月頃には訂正申請承認の予定」などとの日程までも伝えた。
その結果、山川出版社、実教出版、清水書院の3社が現在使われている中学社会科や高校の日本史教科書にある「いわゆる従軍慰安婦」という記述を消し、「従軍」を削除した。
この3社と合わせて東京書籍、帝国書院の計5社も「強制連行」の記述を削除し、「徴用」「動員」などに訂正して文科省へ申請した。
9月8日に文科省はこの5社からの訂正申請を承認したということである。
教科書会社にとっては社運を左右するほど重大な採択の可否がかかる記述問題だけに訂正申請をせざるを得ないとの強迫観念を植え付けられたという。
◆ 巧妙な手法での教育への政治介入
このことは、政府がその時々の政治的判断(政府見解)によって検定済み教科書の記述を変えさせることが出来るということと、会社自らの訂正申請という形を採らせた巧妙な手法での教育への政治介人であり、憲法の保障する学問、言論、表現、出版の自由の度重なる蹂躙に外ならない。
さらには、1993(平成5)年8月4日に発表された「慰安婦関係調査結果発表に関する内閣官房長官談話(河野談話以下同じ)」の実質否定であるといわざるを得ない。
河野談話は、概ね次の通りである。
①慰安所は、軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。私の手元には「1937(昭和12)年12月21日付在上海日本総領事館警察署長(氏名省略)より長崎県水上警察署長(同略)宛て依頼状」の写しがある。この依頼状は、陸軍慰安所の設置について在上海の軍(上海派遣軍)と領事館が深く関与したことを示す公文書である。
②慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。
③戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、(中略)いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めてその出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。
④われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。
それはほんの1例に過ぎないが、このような文書が慰安婦の募集活動をする業者が暗躍する各県警察署長宛て(手元にあるのは長崎、群馬、山形、高知、和歌山、茨城、宮城)に発出されたものである。
「皇軍将兵慰安婦女渡来ニツキ便宜供与方依頼ノ件(見出し)本件二関シ前線各地二於ケル皇軍ノ進展二伴ヒ之ガ将兵ノ慰安方二付関係諸機関二於テ考究中処頃日来当館陸軍武官室憲兵隊合議ノ結果施設ノー端トシテ前線各地二軍慰安所(事実上ノ貸座敷)ヲ左記要領二依リ設置スルコトトナレリ 記 領事館(5項目)憲兵隊(2項日)武官室(2項口)目」。
◆ 河野談話の根拠の1つ
紙面の都合でより詳細な引用は出来ないが、その文書は、政府機関の領事館、上海陸軍武官室、憲兵隊によって慰安所の設置とその運営方法が決定されたことを直接的に示す公文書である。時の河野洋平官房長官も当然この文書は目にした上で談話の根拠の1つにしたものと推測される。
しかし、第二次安倍内閣発足前の2012(平成24)年5月12日、自民党総裁選挙立候補に臨んで安倍晋三氏は「かつて自民党は歴代政府の政府答弁や法解釈などをずっと引きずってきたが、政権復帰したらそんなしがらみを捨てて再スタートできる。もう村山談話や河野談話に縛られることもない」と発言した(産経新聞「単刀直言」)。
周知の通り、第二次安倍政権は、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」や「日本会議国会議員連盟」等、歴史歪曲の中心的議員で構成する「なかよし内閣」であった。
海外メディアからは、日本の歴史認識への批判が相次いだ。2013年1月2日ニューヨークタイムズ社説は「日本の歴史を否定する更なる試み」と題して「犯罪を否定し、謝罪を薄めるどのような試みも、日本の戦時中の残忍な支配に被害を受けた韓国、そして中国やフィリピンを激怒させるだろう」。
同年1月17日ドイツシュピーゲル紙は「(岸信介)隔世遺伝の安倍:過去の危険にすり寄る日本の首相」等々。
◆ 沖縄守備32軍配属下で
そして、今年菅政権は検定合格済み歴史教科書の記述に削除を迫り、変更をさせるという挙に出たのである。
このことは、歴史認識問題で日本と対立する韓国や中国、台湾、フィリピンなどとの溝を一層深めることになるばかりか、石垣島に6か所、小浜島2か所、西表島3か所、そして沖縄諸島全域で130か所もあった慰安所は、すべて沖縄守備32軍配属下の各部隊の駐屯地に設置されていたことを、国・文科省は何と説明するのだろうか。
そして、何よりも「従軍」が削除された「慰安婦」という、軍の関与がみえない加害性の薄れた表現は、生徒たちにとって、なぜ韓国や中国などと歴史問題で対立するのかが理解できなくなるのではないか。
先生に説明を求めても教科書の表現以上の説明はご法度となれば、やはり、従軍慰安婦や強制連行から「従軍」「連行」を削除することの論理的矛盾をそのまま教壇に持ち込むこととなる。
これらを強制する国・文科省の指示は、まさに日本という国による歴史改ざんであり、この重大な出来事を何と表現すればよいか。
海外メディアのいう相撲と同格の「国技」と言うのが妥当かもしれない。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 141号』(2021.12)
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