◆ 道徳教科書検定「郷土愛」の怪
「パン屋」なぜ「和菓子屋」に (東京新聞)
小学校の道徳の初めての教科書検定が、思わぬ「郷土愛」論議を呼んでいる。「国や郷土を愛する態度」などを学ぶ題材を「パン屋」から「和菓子屋」に修正した教科書が合格したため。文部科学省は「パン屋がダメというわけではない」と火消しにやっきだが、騒動からは画一的な「道徳教育」の危うさが浮かび上がる。(木村留美)
◆ 文科省「どう直すかは発行者」
「なぜ修正が必要だったのか」と、首をひねるのは、東京都町田市内でパン屋を営む男性(74)だ。もともとは和菓子屋になりたかったが十代でパン屋に就職し、独立。半世紀以上パンを作り続けてきた。
「パン屋でも日本が好きだし、ずっと地元に根差して仕事をしてきたつもり。郷土愛のあるなしは職業ではないでしょう」と残念がる。
二十四日に公表された検定結果で、「パン屋」を「和菓子屋」に直したのは東京書籍の小学一年用の教科書。
「にちようびのさんぽみち」という題材で、当初は一年生のけんたが日曜におじいさんと散歩に出かけ、パン屋でお土産を買い、自分の町を好きになるストーリーだった。
この題材は国の学習指導要領で示す「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度を学ぷ」ことを目的としていたが、検定は「『我が国や郷土の文化と生活に親しみ愛着を持つこと』という内容について扱いが十分ではない」と意見を付けた。
これを受けて東京書籍は設定を「和菓子屋」に変更、「お店のお兄さんから季節感のあるカキやクリでつくることを教えられ、けんたは初めて見た和菓子についてもっと知りたいと思った」ことも加えられた。
◆ 細かい注文「忖度招く」
この「修正」には、ネット上でも「戦時中みたい」などの異論が噴出。「和菓子屋なら文科省に納得してもらえるだろうと忖度させる空気が嫌」といぶかる声もあった。
文科省の担当者は「パン屋が問題なのではない」と強調し、「伝統、文化に関する部分をどう直すかは発行者の創意工夫による部分で、パン屋を温存させる方法もあったはずだ」と説明する。
ただ、東京書籍の教科書担当者は「修正にかけられる時間は三十五日で時間的な問題があった。パン屋の設定を維持し伝統、文化の話をしようとすれば複雑になる。一、二年生にわかりやすいように、和菓子屋に変えた」とする。
道徳は二〇一八年度から成績をつける「教科」になる。
学習指導要領は『命の尊さ』など二十二項目を挙げ、その網羅を求めている。今回の検定で、国の「注文」の細かさが浮き彫りになった。
新潟大の世取山洋介准教授(教育法)は「指導要領で大枠が決まっているので、検定で指摘するとしたら細かいことしかない。だが、道徳は他の学問のように通説がある学問ではない。政権与党の支持する世界観が反映されやすく、特定の価値観を押しつけることになりかねない」と危ぶむ。
実際、別の教科書では「アスレチックの遊具」の設定も「パン屋」と同様の理由で「和楽器店」に修正されている。
教育評論家の尾木直樹氏は「本当の意味の愛国心や文化伝統とは違うものだ」と嘆く。
道徳を「特別の教科」に格上げした学習指導要領について尾木氏は「戦前の教育勅語に近づいている。『美しい日本』を掲げる安倍首相の思想そのもの。その好みを官僚や出版社が忖度している」とみる。
「機械的に内容項目を満たすことを求めると、教科書は子どもたちの日常と懸け離れたものになる。道徳嫌いになりかねず、かえって道徳心が育たない」
『東京新聞』(2017年3月28日【ニュースの追跡】)
「パン屋」なぜ「和菓子屋」に (東京新聞)
小学校の道徳の初めての教科書検定が、思わぬ「郷土愛」論議を呼んでいる。「国や郷土を愛する態度」などを学ぶ題材を「パン屋」から「和菓子屋」に修正した教科書が合格したため。文部科学省は「パン屋がダメというわけではない」と火消しにやっきだが、騒動からは画一的な「道徳教育」の危うさが浮かび上がる。(木村留美)
◆ 文科省「どう直すかは発行者」
「なぜ修正が必要だったのか」と、首をひねるのは、東京都町田市内でパン屋を営む男性(74)だ。もともとは和菓子屋になりたかったが十代でパン屋に就職し、独立。半世紀以上パンを作り続けてきた。
「パン屋でも日本が好きだし、ずっと地元に根差して仕事をしてきたつもり。郷土愛のあるなしは職業ではないでしょう」と残念がる。
二十四日に公表された検定結果で、「パン屋」を「和菓子屋」に直したのは東京書籍の小学一年用の教科書。
「にちようびのさんぽみち」という題材で、当初は一年生のけんたが日曜におじいさんと散歩に出かけ、パン屋でお土産を買い、自分の町を好きになるストーリーだった。
この題材は国の学習指導要領で示す「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度を学ぷ」ことを目的としていたが、検定は「『我が国や郷土の文化と生活に親しみ愛着を持つこと』という内容について扱いが十分ではない」と意見を付けた。
これを受けて東京書籍は設定を「和菓子屋」に変更、「お店のお兄さんから季節感のあるカキやクリでつくることを教えられ、けんたは初めて見た和菓子についてもっと知りたいと思った」ことも加えられた。
◆ 細かい注文「忖度招く」
この「修正」には、ネット上でも「戦時中みたい」などの異論が噴出。「和菓子屋なら文科省に納得してもらえるだろうと忖度させる空気が嫌」といぶかる声もあった。
文科省の担当者は「パン屋が問題なのではない」と強調し、「伝統、文化に関する部分をどう直すかは発行者の創意工夫による部分で、パン屋を温存させる方法もあったはずだ」と説明する。
ただ、東京書籍の教科書担当者は「修正にかけられる時間は三十五日で時間的な問題があった。パン屋の設定を維持し伝統、文化の話をしようとすれば複雑になる。一、二年生にわかりやすいように、和菓子屋に変えた」とする。
道徳は二〇一八年度から成績をつける「教科」になる。
学習指導要領は『命の尊さ』など二十二項目を挙げ、その網羅を求めている。今回の検定で、国の「注文」の細かさが浮き彫りになった。
新潟大の世取山洋介准教授(教育法)は「指導要領で大枠が決まっているので、検定で指摘するとしたら細かいことしかない。だが、道徳は他の学問のように通説がある学問ではない。政権与党の支持する世界観が反映されやすく、特定の価値観を押しつけることになりかねない」と危ぶむ。
実際、別の教科書では「アスレチックの遊具」の設定も「パン屋」と同様の理由で「和楽器店」に修正されている。
教育評論家の尾木直樹氏は「本当の意味の愛国心や文化伝統とは違うものだ」と嘆く。
道徳を「特別の教科」に格上げした学習指導要領について尾木氏は「戦前の教育勅語に近づいている。『美しい日本』を掲げる安倍首相の思想そのもの。その好みを官僚や出版社が忖度している」とみる。
「機械的に内容項目を満たすことを求めると、教科書は子どもたちの日常と懸け離れたものになる。道徳嫌いになりかねず、かえって道徳心が育たない」
『東京新聞』(2017年3月28日【ニュースの追跡】)
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