
《多面体Fから》
★ 支配統制と軍国化に抗する都教委包囲・首都圏ネットの総決起集会2025
2月9日午後、文京区民センターで都教委包囲・首都圏ネットの「総決起集会」が行われた(参加70人)。卒業式を前に行われるこの集会、今回で21回になるという。
2003年の10.23通達で都教委の統制はより厳しくなり、被処分者が激増し、包囲ネットはずっと闘い続けてきた。わたしも2006年には参加し08年から校門前ビラ撒きにも参加していたので、かなり古い時期からの一参加者である。
今年のメイン講演は昨年と同じく大内裕和さんだった。昨年のタイトルは「21世紀型ファシズムと戦争にどう立ち向かうか」だった。流れは似ているが、いっそう理論化が進んだ。
そこで今年はアウトラインの紹介に留め、教員や自衛隊の動きを監視している方の現場からの報告を少し詳し目にした。大内さんの講演は昨年2月18日の記事も参考にしていただけるとよいと思う。6
★ 教育の新自由主義改革の40年と現在
大内裕和さん(武蔵大学教授)
●教育における新自由主義
1984年 中曽根首相は臨時教育審議会を設置し、「戦後政治の総決算」と名付けて教育の自由化、個性化ということが論議された。
自由化、個性化というのはたんなるスローガンではなく、今日から考えればば明らかに教育行政の支配構造の転換だった。
しかもそれは戦後の教育の対立構造、文部省と日本教職員組合との対立構造を支配層の側から打ち崩すということを狙い、明確に階級意識をもって行われたと思う。
しかし、「国家の教育権」対「国民の教育権」という立て方は臨教審以降、立てにくくなった。
公教育であるはずなのに市場化する、民営化する、教育を私事化・私物化する(privatization)、これが大きな課題となった。
新保守と呼ばれたが、明らかに新自由主義を伴った支配の転換であったことは今日からみて明らかだろう。
「国民の教育権」の側は教育現場の自由を主張していた。単純にいうと「私」はいいものだ。国家に対し私を対置する。
だが私事化が権力の中枢に入ってくると、この理論装置はうまくいかない。この立て方では、階級化、階層化を加えることはとても難しい。
なぜ「教育の自由化」「教育の個性化」は受け入れられたのか。
1970年代後半から都市中間上層は明らかに増えた。所得が年々上昇してきたので、多い人は別に公教育がどうなっても、大学の授業料が上がってもそれを支払えるという構造になった。日本の主要駅のほとんどの場所に大手塾や予備校が建物を構え、公立中学校のサービスの悪さ、それは学校を民主的にするのではなくて、私立を選びましょうという話になる。
●1990年代における新自由主義の本格稼働
1995年日経連の「新時代の『日本的経営』」で労働者を3分類(A 長期蓄積能力活用型グループ、B 高度専門能力活用型グループ、C 雇用柔軟型グループ)し、Aのみいままでの正社員として差別化を図り、多数派の労働者B、Cは不安定雇用に陥れられる。
これはたんなる文書では終わらなかった。
1999年の労働者派遣法改悪で派遣業種が拡大され、2004年には製造業まで派遣が解禁された。1990年から2022年に非正規労働者数は激増し労働者の平均年収も世帯所得中央値も大幅に下がった。
「新時代の『日本的経営』」発表と同じ1995年「自由主義史観」が登場したことは、新自由主義と国家主義の結合をはっきり示している。
●21世紀のファシズムのスタートとしての「10.23通達」と教育基本法「改悪」
石原都政の2003年「10.23通達」による日の丸君が代強制は「学校現場の自由」を圧殺し、教職員組合への攻撃であることは明らかだ。「10.23通達」への反対運動は、21世紀のファシズムに対する反対運動のスタートだったといってよい。
第一次安倍内閣による2006年教育基本法「改悪」以降、学校現場に新自由主義と国家主義が浸透することになった。
日の丸・君が代の強制、教科書検定の強化、道徳の重視といった国家主義。
新自由主義は、学校「経営」改革、人事考課制度の導入、主幹教諭や指導教諭など教員の職階の導入、というかたちで教師集団の専門職自治を破壊するということが日々進行している。
教員の長時間労働と「生きがい」喪失で、ついに教員のなり手が減り「教員不足」問題が深刻化し、公教育の機能不全が起こることになった。
新自由主義が二つの段階になった。初期の段階は、公教育の縮小と市場化の拡大だった。「ゆとり」教育や学校週5日制は、公教育を減らすものだった。その分、民営・市場化が進んだ。
いまは違う。ICT教育や経産省・官邸主導の教育改革、なんと大学入試・高校入試そのものに私企業が入ってきた。それまでは受験準備への参入だったが、いまは受験そのものに入って来る。
公教育が小さくなり、公教育そのものが、悪い意味で私企業化するといってよい。
新自由主義により、ネットカフェ難民やワーキングプアなど「格差と貧困」が深まり、これに対し年越し派遣村など反貧困の社会運動が一定の役割を果たした。
●岸田政権「出世払い」制度と経済的徴兵制
2021年発足した教育未来創造会議(議長は岸田総理)が、奨学金返済への「大学卒業後の所得に応じた『出世払い』制度の導入」を提言した。在学中は負担ゼロというものなので、親や大学から一定以上の支持を得た。
だが出世払いというものの所得ゼロでも返済しないといけない。これは奨学金が親負担から本人負担に変わったというだけだ。これは貧しい家庭出身への経済的徴兵制の動きであることは明らかだ。
岸田政権は市町村に自衛官募集のための名簿提供を迫った。多くの大学生協に自衛隊募集パンフを置き、文化祭で自衛隊ブースを設置している。小中学校でも、職業体験というかたちで入っている。
軍事費予算も増え、2023年からついに防衛関係費が文教予算を上回った。1980年ころは経済大国だったが、2020年代以降、経済小国+軍事大国となった。
問題なのは、自衛隊への応募者減少という社会問題だ。ならばなんとかするしかない。ありうる方向は2つある。
ひとつは徴兵・核武装実行のための9条改憲、もうひとつは奨学金という名の借金を抱え、貧困に苦しむ若者への「経済的徴兵制」だ
●21世紀ファシズムと戦争にいかに対峙するか?
重要なのは、21世紀ファシズムは、新自由主義グローバリズムの延長上にでてきたことと考える。
アメリカは究極の格差社会となった。ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットの3人の富豪の資産が、アメリカの下位50%の資産合計額と同じというところまで究極の格差社会が成立した。
日本も同じだ。純金融資産1億円以上を有する富裕層が2000年に83.5万世帯だったのが2021年には148.5万世帯に増え、一方貯金ゼロ世帯が2021年には2人以上世帯で22%、単身世帯では33.2%に上る。
新自由主義グローバリズムの進展が格差社会の深刻化と少数のパワーエリートによる寡占支配を生み出している。
そういうなかで、自治体選挙や昨年の衆議院選は、ネットを通じたデマとファシズムが吹き荒れている状況だと思う。
中国でも上位数パーセントの富裕層が、共産党員でもあるが支配層となっている。
しかも「新たな貴族制」(寡占支配)をつくり上げたアメリカと中国が「アジア・太平洋」の覇権を巡って争っている。
われわれの9条や憲法がすごく問われている。新自由主義グローバリズムの矛盾が階級闘争により是正されなければ21世紀ファシズムが到来する。21世紀ファシズムが世界戦争の要因となる危険性は大だ。
つまり21世紀ファシズムとの対決が世界戦争を阻止できるかどうかを決する。各職場、各地域で力を合わせて21世紀のファシズムを阻止するためにがんばりましょう。
■現場からの報告
●都教委からの新たな攻撃
東京日の丸君が代第五次訴訟原告 Kさん
第五次訴訟はいよいよ3月24日に東京地裁で最終弁論を迎える。開廷は朝10時15分631号法廷で、終了後、日比谷図書文化館で報告集会を行う。
5次訴訟で取消を求めているのは、2016年3月の卒業式での戒告処分だ。
このときの処分を理由に2022年3月に再任用の任期を打ち切られた。今日はその後、本年度4月に起きた新たな都教委からの攻撃について話したい。
わたしは2022年3月31日に再任用を打ち切られた後、4月から5月まで都立A高校、その後23年3月末まで都立B高校の時間講師を務めた。
2022年秋、都教委のHPに9月30日付けで臨時的任用教員・時間講師の実施要項がアップされた。その要項にはなんと、昨年度まではなかった刑罰処分歴という項目があった。
来年度は時間講師からも排除されるのではないかとの懸念があったが、まさか都教委もそこまではしないだろうと思っていた。11月1日、都立高校で時間講師をしている教員は現職選考の対象になるということで、B高校副校長が手続きをしてくれて次年度については名簿通りにしてもらえることになった。
2023年度は9月13日都立C高校副校長から講師の依頼があり10月から12月まで時間講師をした。C高校の副校長も現職選考の手続きをしてくれたが、講師をしている時間が短いということで現職選考の対象にはならないと都教委にいわれたそうだ。
今年度(24年度)は4月9日にB高校副校長から時間講師の依頼を受け、講師登録の申し込みをした。4月12日にB高校に行き国語科教員と打合せを行い教科書も受取り授業の準備を進め、副校長からの連絡を待った。しかしいつまで経っても連絡がない。
4月23日、やっと連絡があった。「都教委から登録の承認ができないことになった、理由の説明はなかった」という内容だった。
その後人事部職員課から4月26日付けの「時間講師不合格」の通知が送られてきた。
昨年まで都立高校で時間講師をしておりなんの問題もなかったわたしが、いきなり不合格になった理由は2016年3月の卒業式での不起立による処分しか考えられない。
都教委は命令に従えない教員にはどこまでも徹底して現場から排除しているのだと思った。
数年前までの事前告知では、再任用の教員は更新されないが、時間講師のことまでは触れられていなかった。昨年までは実際に時間講師をした。2022年の要項から時間講師からも排除することになったとしたら、これは被処分者に対する新たな攻撃だ。
東京都は深刻な教員不足を抱えている。時間講師と臨時的任用教員の不足も深刻だ。公立小学校でも本年度で40人の欠員でスタートし、夏休み明けには80人の欠員になったと聞く。産育休・病休の代替はもちろん見つからないので副校長まで動員してなんとか凌いでいるけれども、多忙のため病休ドミノが起こっているそうだ。
都立高校でも同じだ。それなのに働きたい教員を排除するというのは、都教委は学校のこと、教員のこと、生徒のことを何も考えていないということだと思う。
戒告処分を受けたことによりわたしは再任用の任用を打ち切られ、非常勤教員にも任用してもらえなくなり、経済的に大きな不利益を受けたし老後の生きがいも損なわれた。そしてさらに時間講師として都立高校で授業を行うことができなくなったのだ。
戒告処分を受けて8年も経つのに、わたしにとって戒告処分による損害はまだ終わっていない。戒告処分が取り消されなければわたしは二度と都立高校の教壇には立てないのだ。大好きな都立高校の「汚点」こそ、わたしにとって非常につらいことだ。
この不当な処分をなんとかして取り消させ10.23通達を撤回させるまで絶対にあきらめない。今後とも五次訴訟へのご支援をお願いします。
●3年目を終えてますます混迷に陥ったスピーキングテスト
中学校英語科教員Kさん(東京教組特別区支部長)
2022年度から3年生対象に始まったスピーキングテスト(ESAT-J)は、23年度に1、2年生も対象に加えた。
1年生には、10月28日から11月5日にネットで申し込むよう連絡をする。申込時間は9-17時と厳しく決まっている。
4-5日前になると都教委が区教委に、だれが申し込んでいないか連絡してくる。担任に連絡があり保護者に電話する。ところが保護者はほとんど家にいないので電話に出ない。保護者が出るまで電話をかけ続けるが、保護者が電話に出るころには受付時間を過ぎているので次の日ということになる。それほど結構大変で「簡単にできる」と書いてあるが、ものすごく大変だ。
必要事項を入力するとパスワードが発行されるが、都内の中学生はなんと7万人くらいいる。たいてい同じ時間にまとまって入力してくるのでパスワードが出ない。そうすると保護者が学校に電話してきて「パスワードが出ないんですが、どうすればいいのでしょう」。
学校はわからないから何もできない。仕方ないから「ナビダイヤルに電話してください」というが、ナビダイヤルも話中で何度電話してもつながらない。電話受付も9-19時なので、話中でも19時になると切れてしまう。
そうすると保護者が電話してきて「うちの子、もうテスト受けられないんでしょうか、どうすればいいんですか」、「わからないですよ、しょうがないからかけ続けてください」、保護者はもう泣いている。
結局何人もの保護者がその時間に申し込めない。面白いように都教委が次の日、電話してきて締切日を2日延ばす。いままで15日までにと保護者にいってきたのに「なんていい加減な」と思うが。それがまかり通っていて、先生たちも「どうせ延びるじゃない」と言っているのが現状だ。
2年生もスピーキングテストを受けるが、申込期間が12月2日から20日、どう考えても忙しい時期だ。学校も点数付けで忙しいし保護者も働いている人は大変だ。
その時期に日程を設定しそのなかでやらないと、また電話がかかってくる。こちらは通知表を付けているときに「まだ申し込んでいない●組の〇〇さんに連絡を取ってください」と副校長がうるさくてたまらない。それで電話するが、出ません。その繰り返しだ。
2年生で手がかかるのは、転校生がいることだ。1年のときにもらった15桁と8桁の番号で、都教委はそれを持っていると思っている。持っているわけがないではないか。
しょうがないので、学校に保管してあるものを使うが、個人情報なので、いっせいに配るわけにはいかない。個人ごとに細かく切って生徒手帳に入れ、お家で保護者に申し込んでもらうよういうが、必ずなくす。仕方がないのでまたコピーして生徒手帳に入れて渡すが、親がなくすこともある。母に渡したが、職場でなくしたらしい。またコピーを取りと、すごい手間だ。
なにが働き方改革かという感じだ。仕事が増えている。
テストそのものは100点満点だが、評価は、80-100点取れば20点、65-79点取れば16点、1-34点なら4点と4点刻みの5ランク評価だ。つまり満点でも80点でも20点。65点と80点で4点分の差がつく。「こんな雑だったんだね。これどうにかならないの?」と教員も実際に担当してみてやっとわかる。
本当に雑だし、子どもにも保護者にも大変だし、働き方改革にも逆行している。「百害あって一利なし」とはこのテストのことだ。
●「首都防衛」を掲げる小池都政の下で進む教育への自衛隊浸透
戦争に協力しない!させない!練馬アクション Iさん
わたしたちは練馬で反基地運動をしている。練馬には朝霞駐屯地、練馬駐屯地があるほか、小池都知事が住んでいる。かつて石原都知事が練馬駐屯地創立記念日に出席し三国人発言をしたが、小池も出席し続けている。
・小池都知事が進める「東京都安全教育プログラム」
麻布十番にシェルターを建設、地下鉄駅を避難所に指定し国民保護訓練を推進している。2年前に練馬、昨年は中野、今年はつい先日品川区で住民を動員して実施した。学校でも防災訓練の一環としてJアラート訓練が行われている。
東京都の安全教育プログラムにダンゴムシのポーズをとる「弾道ミサイル発射時訓練」が入っている。昨年練馬の小学校でも行われた。
・自衛隊の児童・生徒への働きかけ
練馬駐屯地で、23年9月東京都市大学付属中学、24年10月品川区立荏原第五中学の生徒が職場体験をした。それを自衛隊がXで宣伝しまくっている。
基本教練として「敬礼、整列、行進」があるが、まさに軍事教練だ。防衛講話は「日本の安全保障環境」「防衛大綱等に関する講話」とある。
自衛隊概要説明では、自衛隊にはこんな仕事があり、給料はこれくらいだ(処遇)との説明もある。「体力検定」の時間もあるが、これは「徴兵検査」だ。
駐屯地に来てもらうだけでなく、学校へ出向く出張講話もある。
練馬では2021年12月石神井中学の2年生216人が防災講話を受け、例のダンゴムシポーズをとった。
また防災訓練・防災フェアでは、今年1月26日、しながわ水族館で防災フェアが行われた。軽装甲機動車や高機動車等が展示され着せ替え(制服試着)もあり、家族連れが並ぶ。
中学3年生には自衛隊高等工科学校の勧誘ハガキが送られている。これは法定受託事務ではない。住民基本台帳法11条を根拠にしている。
板橋区では電子化されていて区職員が名簿をつくり自衛隊に渡す。イヤだという人は外した名簿だが、逆にいえばイヤだというのはこいつらだというリスト作りにもなる。
今年の防衛予算には、石破首相肝いりで自衛官の給料引上げなどが組み込まれている。そのなかに「進学支援給付金の拡充」が入っている。貧困徴兵制の本格化である。
・自衛隊明記改憲先取りの公共財化=実質改憲の進行
改憲論議で、憲法に自衛隊が明記されると、自衛隊のことを教え、協力するのが当たり前、批判すると「反公共的なやつら」ということになる、との反対意見がある。
しかし現実はもっと進んでいる。練馬区教委は「自衛隊に協力するのは当たり前でしょう」といい、練馬区役所1階では自衛隊に協力し「自衛官募集展」が行われている。実質的に改憲が進んでいるといわざるをえない。
このほか、○東京教組の方から「教員不足と給特法」、○高校の社会科教員から「平和教育の取組み」のスピーチがあった。このサイト(クリック)で少し見ることができる。
新自由主義と国家主義の結合により、少数支配と格差・貧困が世界中で拡大し、日本では統制と軍事大国化が進んでいる。
その結果が、この日現場から報告があった3つの事例、日の丸君が代五次訴訟、スピーキングテスト(ESAT-J)、自衛隊の教育への積極広報として、現実に表れていると思った。
『多面体F』(2025年02月18日)
https://blog.goo.ne.jp/polyhedron-f/e/12120ccfb49b16ff61d43801fc5f30a6
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