◎ 意 見 陳 述 書
2024年5月29日
東京地方裁判所民事第38部 御中
第62号事件原告兼第63号事件原告
岡田正則
岡田正則と申します。現在、早稲田大学法学学術院教授で、行政法を担当しています。本件に関わる内閣法・日本学術会議法・行政機関情報公開法・個人情報保護法・公文書管理法といった法律も、行政法の一部です。
このような専門分野の関係から、私は、国や地方自治体の情報公開・個人情報保護に関する審査会のほか、各種の審議会・委員会の会長や委員を長年務めて参りました。
1 日本学術会議会員任命拒否に関わる文書不開示の違法性について
2020年7月の日本学術会議総会で次期会員候補者としての推薦が決定され、私は着任の準備を進めていましたが、着任期日直前の9月29日の夕方に、同会議事務局長から、「任命されないことになった」旨の連絡を受けました。「理由はわからない」とのことでした。
任命拒否は法令上で認められていないにもがかわらず、任命権者の内閣総理大臣がこれを行ったのです。明らかな違法行為でした。
10月・11月の国会で、菅総理大臣は、拒否理由を問われても答えようとしませんでした。
私は、専門家としての責任からみても、こうした事態を見過ごすことはできないと考え、法律家1162名とともに、拒否理由の根拠となる文書の公開請求を行い、また、任命を拒否された他の5名とともに、自己情報の開示請求を行いました。
しかし、不開示処分に対する審査請求の裁決を経た後の現在に至るまで、任命拒否の根拠・理由のわかる行政文書は「不存在」を理由に何一つ開示されていません。これは、法的にみると、きわめて異様な事態です。
6名の任命拒否を実質的に判断したのが当時の内閣官房副長官の杉田氏であったことは、国会審議で明らかとなっています。
一方、内閣官房の関係機関は任命拒否の根拠となる文書は「不存在」だとしているのです。杉田氏はいったい何を根拠として任命拒否の判断をしたのでしょうか。可能性は次の3つに限られます。
①第1に、任命拒否の根拠文書が不存在の状態で官房副長官が判断した可能性です。
この揚合、官房副長官の判断は根拠がない判断であり、まったく恣意的で、違法であることは明らかです。
②第2に、官房副長官の判断後に内閣官房が任命拒否の根拠文書を内閣府に移管した可能性です。
この場合、内閣府の開示文書にもその根拠文書は含まれていませんので、やはり官房副長官の判断が恣意的であり、違法であることは明らかです。
③第3に、官房副長官の判断後に内閣官房が任命拒否の根拠文書を廃棄した可能性です。
この場合、公文書管理法に違反する違法な文書廃棄が内閣官房において行われたことになります。
以上のとおり、いずれの揚合であっても、任命拒否の根拠文書の不存在は違法になります。そして、原告6名は、これらの違法行為の結果として、任命拒否の対象とされた上で拒否に関する根拠を知り得ない状態に置かれています。人格権を侵害されているといえます。
2 理由もなく拒否対象とされたことの理不尽さ
当時の菅内閣総理大臣は、国会で「人事に関することなので答えられない」などと、6名があたかも人事上で欠格事由を有するかのような答弁をしていました。仮にそのような事由があるのであれば、該当者本人にその事由を開示しても人事上の支障が生じることはありません。
また、この点の説明をすることは、推薦の決定をした学術会議という機関に対する最低限の責任です。
しかし、現在に至るまで、まったく説明がありません。これは、違法行為を隠蔽するためだと考えざるをえません。そして、何の根拠もない任命拒否であったといわざるをえません。
内閣総理大臣のこうした対応によって、6名は拒否理由をさまざまに憶測される対象とされ、この結果、インターネット上などで中傷の対象とされることになりました。
私個人についていえぱ、2020年10月から11月にかけて、根拠のない中傷にさらされました。
それだけでなく、担当の法学部ゼミのホームページやツイッターに心無い書き込みが多数なされて、学生に対する攻撃も行われました。
このような状況は、一人の研究者・教育者として耐え難い事態です。
またこれは、日本の学術にとってもきわめて有害な事態でもあります。
根拠のない内閣の行為が学術に対する誤解を招き、萎縮させ、イノベーションを阻害するからです。
1000を超える学協会や全国のほとんどすべて弁護士会が、さらには多くの大学人や市民団体が、任命拒否に関する批判の声明を出したのはこのためです。
3 裁判所への要望
学術会議会員任命拒否が違法であるだけでなく、「文書不存在」などを理由として任命拒否の根拠を開示しない内閣官房・内閣府の判断も違法です。そして、こうした違法行為が、学術会議の人事上の支障を現実に招いているのです。
裁判所が、情報公開・個人情報保護に関する判断を通じて、このような違法な状態を是正し、日本の政治と学術の健全なあり方を回復する役割を果たすことを望んでいます。
以上
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