2021年9月21日付で総合教育政策局長に出世した時点で、藤原章夫氏の略歴・写真等を載せた、「2023年4月から採用予定の大学生向け」の文科省『入省案内パンフ』(22年2月28日発行)の、31~32頁。藤原氏が天下り斡旋を禁じた国公法違反で17年1月20日、停職1か月処分となった事実を記載せず、隠蔽している。このため「職歴詐称の処分歴隠しだ」と批判する人は多い。
★ 新文部科学事務次官の天下り斡旋「停職」歴(『紙の爆弾』)
取材・文・永野厚男
霊感商法や高額献金等で多くの家庭を崩壊させながら、〝世界平和統一家庭連合〟を名乗る旧統一教会。同教会の政治部門・国際勝共連合の憲法改〝正〟案は、「政府の権限強化、一般市民の権利制限=緊急事態条項新設」や「集団的自衛権行使含む自衛隊明記」等、自民党の改憲四項目と瓜二つだ。 このように保守系政治勢力と癒着する旧統一教会に対する解散命令を十月十三日、東京地裁に請求したのは文部科学省。同省は、今回は一見、一般市民の味方のように見える。
しかし政府・文科省は、六年前に停職一カ月の懲戒処分になった藤原章夫・初等中等教育局長(五十九歳)を、今年八月八日付で事務方トップの文部科学事務次官に、同じく停職三カ月の懲戒処分となった藤江陽子・総合教育政策局長(五十九歳)を、事務方ナンバー2の文科審議官に任命するという、払税者である一般市民の感覚とは異なる、異常な人事異動を強行した。なお二一年九月時点で、推定年収は事務次官が二三一七万円余、文科審議官が二一八三万円余だ。
★ 文部官僚処分と教員〝君が代〟処分は違う
国家公務員(文部官僚等)・地方公務員(公立小中高校の教職員等)とも、懲戒処分(いわゆる厳重注意や文書訓告とは異なり、給与減額や履歴搭載等の不利益を与える)は、重い順に免職・停職・減給・戒告だ。免職処分は窃盗・性犯罪等を犯した教職員等に対し発令する。停職処分はこの免職処分の一歩手前、重い処分だ。藤原章夫氏が停職一カ月処分になった事実を振り返ろう。
〇七年六月三十日成立、○八年末施行の改正国家公務員法は、「各府省等職員が退職・離職する職員又は職員であった者について、営利企業等への再就職(天下り)の斡旋(あっせん)を行うこと」を禁止した。しかし文科省大臣官房人事課等は、この改正法施行後も天下り斡旋の違法行為を組織的に犯し続けた。
だが、天網恢々(かいかい)疎にして漏らさず。内閣府の再就職等監視委員会(以下、監視委)は一七年一月十九日付で、文科省が一五年、吉田大輔元高等教育局長を、同省と利害関係のある早稲田大学教授に天下り斡旋し、国家公務員法に違反したと認定する、調査報告書を公表。「文部官僚らが監視委の調査に虚偽の報告をし、隠蔽工作をしていた事実」も明らかにした。
これを受け当時の松野博一文科大臣は翌二十日、第一弾として、元人事課長で大臣官房付となっていた藤原章夫氏ら計七名を停職や減給の懲戒処分にすると発表した。
文科省は一七年一月二十三日、松野氏の下に再就職等問題調査班を設置し、調査を開始。松野氏は三月三十日、「一○~一六年に国家公務員法に違反する違法事案が計六二件あった」などとする最終報告を公表し、「歴代事務次官八人を含む三七人を処分した」と述べた。人事課長当時十一件もの違法行為に関与した藤江氏は、被処分者で最も重い停職三カ月となった。
ところで、東京都教育委員会は〇三年十月二十三日、当時の横山洋吉教育長ら官僚が保守系都議らと癒着し、「公立小中高校等の卒業・入学式で、教職員は式場舞台正面に掲揚した国旗に向かって起立し国歌を斉唱する。国歌はピアノ伴奏。不起立・不伴奏教職員は懲戒処分にする」等、”君が代”強制を強化する”10・23通達”を発出。横山氏の後任の中村正彦教育長は〇六年三月十三日、生徒にも”君が代”時に起立・斉唱させる”指導”を強制する、”3・13通達”まで発出した。
大学教授らが反対アピールを出し、五四校もの都立高校保護者・卒業生有志が、「憲法十九~二一条が規定する、個々人の思想・良心・信教・表現の自由への侵害だ」と抗議し、撤回を求める申入れを都教委に出している。
それでも都教委は校長に”君が代”起立等の職務命令を出させ続け、不起立・不伴奏の教職員に対し「地方公務員法の職務命令違反だ」として、一回目戒告、二・三回目減給、四回目以降停職(出勤停止・無給で、教員の命である授業ができない)という、他県等にない(橋下徹氏首長就任以降の大阪府市を除く)重い懲戒処分を機械的に出し、被処分者は延べ四八四人に上る。
現・元教職員らはこれまで処分取消し訴訟を闘い(五次訴訟は東京地裁で係争中)、一次訴訟で一二年一月十六日、戒告は容認しつつ、「減給以上の処分は重きに失し社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え違法」と判じ、取消しを命じる最高裁一部勝訴判決を勝ち取り、機械的累積加重処分システムは崩壊した。
しかし都教委はこの後も、減給等処分取消しで給与減額分は支払ったものの、謝罪は拒否。さらに現・元教職員のうち、現職には戒告処分を出し直す、いわゆる再処分を出し続けている。
二一年五月の憲法記念日にちなみ、朝日新聞が行なった「公立学校で君が代を起立・斉唱しなかった教員を教委が処分してよいという最高裁判決に納得できるか」の世論調査で、「納得できない(六五%)」が「できる(三一%)」を大きく上回った。都教委の出した”君が代”処分は特定の思想に基づく政治的な処分ゆえ、不当と考える人が多数なのだ。
一方、違法行為を犯し定年後の天下り先を確保させ、税金から多額の退職金を得た上に、さらに私腹を肥やそうとするエゴイスト文部官僚らに下った処分に、「反対」という一般市民は皆無。むしろ「軽すぎる」と言う人もいる(当時の報道インタビュー等)。
従って政府・文科省は、藤原章夫氏・藤江氏を高官に就けた今回の人事を撤回するべきだ。
★ 処分後の出世・再雇用でも格差
都教委は”10・23通達”での”君が代”処分開始以降、定年=年金支給年齢が六十歳だった数年間、戒告の不起立等教職員の「六十五歳までの再雇用」を拒否し続けた。「年金支給年齢の六十五歳への引き上げ」の途上にある近年、都教委は”君が代”不起立等教職員を六十歳時点で再任用するようになったものの、六十五歳まで雇わず、年金支給年齢に達する年度末での雇い止めを強行している(二二年三月に六十三歳の都立高校教諭・川村佐和さんを、あと二年雇わなかったケースもある)。
また、教職員の職層化を進めてきた都教委は、主幹教諭と教諭の間に”主任教諭”という職を設定している。”君が代”不起立で戒告処分を受けたことのある教諭が”主任教諭”選考を申し込んだが、不合格になっている。
これに比し、文部官僚は温室の中にいる。戒告より二段階重い停職の懲戒処分歴のある藤原章夫氏と藤江氏は前述通り、事務方トップにまで出世した。
また、前記・天下り斡旋事件で一七年三月三十日、戒告より一段階重い減給一〇分の二、四カ月の懲戒処分となった藤原誠氏(六十六歳。”首相官邸直系”の異名を持つ)は定年延長後、六十一歳超の一八年十月に文部科学事務次官に出世した。三年近く事務次官の座にいたが、「大臣官房長時代に学校法人理事長と複数回会食していた事案」も発覚し、六十四歳を過ぎた二一年九月に退官。だが、民間企業に天下った後、六十五歳手前の二二年、東京国立博物館の館長に再度の天下りをした。
このように教職員に比べ文部官僚は”上級国民”として優遇扱い。「法の下の平等」を定めた憲法第十四条違反で、不当な格差・差別だといえる。
★ 幹部の処分歴を隠蔽し、学生に宣伝する文科省
都教委の臨時的任用教員(産休・育休等教員の代替で授業等を持つ)の受験申込書は、以前「賞罰」欄を設定していたが、二二年二月下旬、「刑罰・処分歴」欄に突如変更(ベテラン弁護士によれば「賞罰欄なら刑事罰ではない処分は記入しなくてよい」)。前出の川村さんが、この突如変更された様式の受験申込書で提出したところ、都教委は「三月末付の不合格決定通知」を一カ月以上経った五月初めに郵送してきた。”君が代”不起立等教員を、体罰・セクハラ等の被処分者と同一視し、不合格にさせようと謀んでいるのだ。
一方、「二三年四月から就職希望の大学生向け」の文科省『入省案内パンフ』は「二一年九月に総合教育政策局長に出世した藤原章夫氏」を大きく載せた。だが同氏の略歴は、「一六年六月に就いた内閣官房教育再生実行会議担当室長(内閣官房内閣審議官・内閣官房副長官補付)を辞し、大臣官房付となった時点で停職処分となった事実」を明記していない(本記事タイトル写真)。
藤江氏についても、前年度のパンフに「二〇年七月にスポーツ庁次長に出世」として紹介した際、「官房付の時、停職処分となった事実」を隠している。
正直者の川村さんは不合格。一方、大学生に幹部職員の処分歴を隠蔽、つまり履歴を詐称してまで出世コースを宣伝する文科省。こんな矛盾は、政権を変えて正常化させるしかない。
最後に一五年夏、私立灘中学校(神戸市)が、従軍慰安婦や河野談話を明記した学び舎の歴史教科書を採択すると、同校OBの盛山正仁文科大臣は一六年はじめ、和田孫博校長(当時)に電話で「政府筋からの問い合わせ」と明言した上で、「なぜあの教科書を採用したのか」と詰問している。
この事案について九月十四日の就任記者会見で、朝日新聞記者が、「国会議員が教科書採択を巡り、個別の学校に照会することは政治による圧力という認識はなかったか」等、質問。盛山氏は「圧力をかけるとかを意図したつもりは一切ありません」と述べるに留まった。
筆者の取材に、高嶋伸欣(のぶよし)琉球大名誉教授は「公的立場にある議員が政治介入した社会的責任を自覚していない発言。切り返さず弁解の機会を与えてしまった文科記者クラブの記者たちもだらしない」と語っている。
永野厚男(ながのあつお)
文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
『紙の爆弾』2023年11月号
※永野厚男・教育ジャーナリストから
田中聡史・都立特別支援学校教諭から、以下のコメントを頂いたので、紹介します。
東京都立学校の教育現場では、この20年間、教職員に対する処分の厳罰化が進められてきた。しかし、教育行政のトップに近い文部科学省の官僚に関して、このような「寛大な」人事が行われていることは、明らかな二重基準である。教育行政がこのような矛盾した人事をしているようでは、教職員の遵法意識は育たないし、社会は良くならない。
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