☆ 「2年半遅れの六ケ所再処理工場」
「2年半遅れの東海第二原発」
~いずれも稼働させてはならない理由
2024年8月23日 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
8月17日(土)のNHKニュースと20日(火)のNHKニュースでは、2つの原子力施設が「そろって」2年以上完工が延期されることを報じた。
1.六ヶ所再処理工場が2年半延期
六ヶ所村の再処理工場は1993年に着工、当初は27年前の1997年に完成する計画で始まった。しかし度重なるトラブルで延期に次ぐ延期。
さらに東日本大震災により原子炉等規制法が改訂され、加えて基準地震動も、それまでの450ガルから700ガルへと引き上げられ、安全対策工事を行うための審査が長期にわたるなどの理由で、完工時期が不透明になっていた。
日本原燃はこれまで、2024年度のできるだけ早い時期(9月中)とする「目標」らしきものを掲げていたが、審査のために提出していた申請書約6万頁のうち約3100頁に誤りがあり、これではまともに審査はできないと、規制委から社内体制の見直しを命じられたのが2023年4月。
これほどの誤りが続出したのは、期限を必ず守れとの経営層から圧力が掛けられたことで、現場では資料のチェックもまともにしないままで提出したからだという。その資料は、経営層も中身をチェックせず規制庁にそのまま提出していた。これで審査が進むと考えたのだとしたら、認識力に重大な欠陥があるとしか思えない。
結果として原燃は無駄な作業を積み重ね、審査が何も進まない状況を作った。そうした問題があることを指摘し、改革することができる社内体制もなかった。
これは、審査を通して運転開始にこぎ着けようと考える社員がほとんどいないことを意味している。今のまま、創業もできないのに高額の給与が保証され、のらりくらりと仕事「らしきもの」をしていればよいとする感覚だ。
このような組織が、1日で原発1年分の放射性廃棄物を放出する再処理工場をこれから運転しようというのであるから、その恐ろしさは想像を絶する。
まともな組織が担っても危険な施設を、これだけ劣化した組織が運営するというのだ。2年半後に稼働させていいと思っている人には、ぜひ、実態を知るために原燃の作った書類を見ていただきたい。
2.再処理工場の危険さを示す事実
原発の放射性物質は、使用済核燃料プール以外では、炉心に集中している。したがって、運転中は圧力容器内の燃料を損傷させないように、これを防護することが最も重要となる。
そのため新規制基準では、航空機が故意に衝突することも前提とした対策として「特定重大事故等対処施設」(特重)まで準備することを定めている。
炉心の核燃料は、ペレット状に焼き固められており、ジルカロイ製の燃料被覆管(燃料棒)に入っている。さらに厚さ15cm程度の圧力容器と厚さ4cmの鋼鉄製の格納容器があり、鉄筋コンクリート製の建屋がある。
これを「5重の壁」と呼んで、強力な防護が施されていると宣伝する。
炉心溶融を引き起こしても、格納容器が損傷しなければ放射性物質の大量漏洩には至らないので炉心を冷却することができればいいとして「特重」から冷却用水とポンプを駆動するための電力を供給することになっている。
仮に中央操作室が機能喪失しても「特重」によって冷却できれば、炉心溶融を回避できる可能性があり、故意に航空機突っ込んできても放射性物質の大量漏洩を低減できるかもしれない。
では、再処理工場には「特重」はあるのか。
まず、再処理工程では、燃料棒は切り刻まれ、ペレットで焼き固められていた放射性物質は硝酸で溶かされ、最初から溶液状つまり「溶けて」いる。最初の2つの壁は、再処理工程の最初で消えている。
圧力容器はなく、代わりに容器や配管に内蔵されているが、その肉厚は、高レベル放射性廃液を貯蔵する容器でも2cm程度しかない。圧力容器のような頑丈なものではないのである。
格納容器も存在しない。再処理工場の構造上、容器や配管に建屋の壁程度しかないのだ。
そのうえ、溶液状になった放射性物質は、どこかに集中しているのではなく配管や貯蔵タンク、あるいは工程のあちこちに分散している。そのうえ、臨界事故を起こせば核爆発事故にもなる「プルトニウム」が分離されている。
すなわち、「ここを守りさえすればよい」という場所は存在しないのだ。
これでは何処かを冷却するとか、電力を送れば助かるという点が存在しないため、「特重」は新規制基準適合性審査でも要求されていない。よしんば、そうした施設を建ててみても意味はないだろう。
再処理工場に航空機が突入した場合、建屋は大規模に損壊し、その崩落した天井や航空機の機体、エンジン、或いは爆弾によって容器や配管類は損傷し、直ちに放射性物質が大量漏洩する。再処理工場の場合は、過酷事故が発生すれば直ちに放射性物質の大量漏洩につながる。
3.東海第二原発の2年半延期がもたらすもの
東海第二原発でも同様に完工時期の延期が明らかにされた。
防潮堤の建設中に欠陥工事が行われ、規制委も問題視、工事の申請からやり直すことになった。
これまで日本原電は再稼働に必要な安全対策工事の完工を9月としていたが、これを2026年末すなわち2年余り先送りすることにした。しかしながら、この欠陥をどうするつもりか。
原電は今の基礎部分は残したまま、内部や周辺の地盤で補強工事を行うとの考えを規制庁に対して示したが、規制庁は今後、この追加工事で十分な安全性が確保できるのかを審査する。その時間と工事時間を考慮して2026年末を完工時期としたようである。
この欠陥防潮堤に手を入れても、安全上の問題が解決するとは思えない。しかもその資金は電気料金から捻出されている。廃炉にするべきである。
4.誰のお金だと思っているのか!
六ヶ所再処理工場に話を戻そう。「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」(機構)によると総事業費が15兆1000億円になる見込みだと発表した。
これには、今後の延期に伴う追加分は含まれていない。これからもまだ、巨額の資金が投じられることになる。
この費用は、国民の支払っている電気料金と税金である。
六ヶ所再処理工場に湯水のように使えるのは、電気料金などに機械的に上乗せされて徴収できる仕組みがあるからだ。
世の中の事情は変わっているというのに、旧態依然とした体制が原子力を延命させる。再処理費用は、電力自由化の時代にもかかわらず、原発を保有していない会社からも徴収する仕組みを作ってきた。
送電線は大手電力会社が敷設したので、他の電力会社は送電線使用料(託送料という)を支払っているが、2020年まではこれに上乗せされていた。その後、ウラン燃料単価で決められた再処理に充てる費用(再処理拠出金という)は、原発会社がウラン燃料単価(グラム当たり約700円)で機構に拠出している。再処理が始まれば取り崩す。
しかし拠出金は年間800トンの再処理を行う前提で計算されているが、実際には年間200トンも処理できない。これは日米原子力協力協定など国際公約で「余剰プルトニウムは持たない」としたこと、さらに総量47トン程度で頭打ちにすることを決めているからだ。
今のプルトニウム総量は44.5トン、再処理できたとしても3トン弱しか取り出せず、これは再処理量に換算して約200トンである。
毎年プルサーマルで燃やせる量は2トン程度だから、取り出せるプルトニウムもその程度。200トン程度しか再処理できなければ、再処理工場には相当額しか支払われない。
一方で使用済燃料は貯まり続ける。
それで中間貯蔵施設をあちこちに作るという話になってくる。これでは六ヶ所再処理工場の建設費や運営費、操業期間中の合計約30兆円をまかなえるはずがない。
いずれは国民負担として、再処理拠出金が引き上げられ、さらにには税金も投入されるだろう。これが「GX法」の元で今後起こる未来だ。
六ヶ所再処理工場と東海第二原発、「延期」が決まった今こそ、事業廃止と原発廃炉に向けた運動をさらに強めていこう。これらが動き出せば、膨大な放射性物質が大平洋に拡散してしまう。汚染水問題は、この再処理工場と東海第二原発につながっているのだ。
『たんぽぽ舎・金曜ビラ』(2024年8月23日)
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