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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

いま変わらないとほんとに終わってしまう<2>

2011年09月16日 | 日の丸・君が代関連ニュース
 ◆ オキナワ、フクシマ、そしてヒノキミ<2>
 ―― いま変わらないとほんとに終わってしまう ――


 ◆ 天皇の神格化と学校教育
 明治以降、近代天皇制国家を確立していく上で、学校教育が果たした役割は多大なものがあります。自由民権運動など政治の在り方についての根本的な議論や要求を抑えつけながら、天皇の神格化は、紀元節や天長節などの国家祝祭日に行われる学校儀式を重要な場面として形成されていきました御真影を前に、立って整列して礼をする。「君が代」を斉唱する。教育勅語の奉読を聴く。校長の講話を聴く等々。それまでの日本の暮らしにはなかったこのような厳粛な儀式の形が、キリスト教の礼拝儀式に基づいて次第に整えられたものであることは、佐藤秀夫氏の研究が明らかにしています(同氏著『教育の文化史1 学校の構造』阿吽社 2004年)。
 天皇神格化はまた、御真影を災害から守ろうとして殉職した教員達の存在によっても強化されました。その最初の一人が、1896(明治29)年6月15日の明治三陸大津波で殉職した栃内泰吉氏です。
 岩手県だけでも23,309名の使者が出たというこの大津波の際、宮古と釜石の間、当時の箱崎村の尋常小学校訓導であった彼は、御真影を身体に括りつけた姿で発見された後亡くなりました。
 彼の殉職を讃える声が上がる一方で、この時はまだ、徳富蘇峰主宰の『国民新聞』では、写真のために命を犠牲にするのではなく、生きて国家に尽くすべきではないかという主張が掲載されています。またこれに対して「御真影に殉ずるのは理屈ではなく感情なのだ、この感情こそが国民として大切なのだ」(『教育時論』)と殉職を讃える反論が交わされてもいました。
 しかし、その後も火災などから御真影を「奉護」しようとして殉職する教員が出ることとも相まって、後者の論調が圧倒的になっていきます。校舎外に建てられるようになった石やコンクリート造りの奉安殿は、御真影は教員が命に変えても守らなければならないものと位置づけられたことを意味します(岩本努『「御真影」に殉じた教師たち』大月書店 1989年)。子どもや親は、それほどに有難い存在であると天皇を意識していくことになります。
 ◆ 象徴天皇制と「日の丸・君が代」
 それまでありもしなかったことが、ずっと前からあった大切な慣行かのように意識されていく。権力的意図をもって長い時間をかけ、「なぜ」「どうして」と疑問さえ浮かばぬように運ばれていく。戦後、新しい憲法の第1条で「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」と規定されました。象徴としての天皇の地位は、神聖にして万世一系の存在であることではなく、国民の総意に根拠をおくことが明記されたのです。しかしよくよく考えてみれば、この規定は第19条で侵してはならないとされた「思想・良心の自由」と根本的に矛盾します。天皇についてどう考えるかも国民一人ひとりの自由にまかせなければならないのに、予め国民の総意として天皇の地位を規定しているからです。
 この矛盾を意識させないで、それこそ「自然の内」に大多数の国民の総意を形成するためには仕掛けが必要です。明治以降、天皇の侵しがたい地位を国民に刷り込ませるために、学校教育が大きな役割を果たしたことはすでに経験済みです。戦後の日本社会では、天皇を象徴とする国民の総意を形成するために、「日の丸・君が代」の学校教育への導入が執拗に図られて来たのです。御真影が「日の丸」に、紀元節などが入学式や卒業式に代ったに過ぎません。
 この5月30日から7月19日にかけて、最高裁は「日の丸・君が代」の強制に疑問をもつ者の精神を虐殺するかのように、処分等の撤回を求める11の訴えをことごとく退けました。虐殺という表現をあえて使ったのは、1997年4月、諫早湾干拓事業で有明海から湾の奥を締め切るために、まるでギロチンのように、分厚い鋼板が続けざまに海面に落とされていくテレビニュースを思い出したからです。
 訴えを退けるにあたって最高裁は、式典での起立斉唱は「儀礼的所作」であると根拠づけました。これはピアノ伴奏も含めて、懲戒処分を課してまで強行してきた戦後の教育行政の権力的意図に目を瞑るものです。「主権の存する」国民の基本的人権が、国家の在り方の根本に関わって大きな制約を受けることを認めるものです。「日の丸・君が代」の強制に従えないことは、「思想・良心の自由」を飛び越えて、この国の政治権力の基盤にかかわる問題であることが露わになったのです。
 (続)

『都高退教ニュース』(2011/9/5 NO.79)

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