日本の教育基本法は「学力世界一」のフィンランドにも影響を与えている
中嶋博 早稲田大学名誉教授に聞く
「PISA・TIMSSショック」という言葉を覚えていらっしゃるだろうか。
2004年12月7日,まず,OECDが2003年におこなった「生徒の学習到達度調査(PISA)」の結果が発表され,当日,全国紙各紙の夕刊1面トップで報道された。
「読解力8位→14位/数学応用力1位→6位」「日本の15歳”学力トップ”陥落」。
追いうちをかけるように,IEA(国際教育到達度評価学会)が2003年におこなった「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」でも,日本の子どもの平均学力は下がった,とされた。これが,「PISA・TIMSSショック」である。
明けで2005年1月,中山成彬文部科学大臣(当時)は,「総合的学習の時間」や学校五日制などの見直しが必要と述べた。さらに2月には,学習指導要領の前倒し改訂を,中央教育審議会に要請した。その後の教育基本法改定の動きと合わせ,「競争の活発化による学力向上」が声高に叫ばれ続けている。それは,教育の現場にも,大きな影響を及ぼさずにはおかないだろう。
だが,ちょっと待ってほししい。それは,正しい処方箋なのだろうか。
PISAでもTIMSSでも,文句なしに”学力世界一”の折り紙をつけられたフィンランドは,じつは競争とは無縁,日本の教育基本法を参考にして,平等を徹底しで追求しできている。
フィンランドでも,かつては競争が追求されていたが,その誤りに気づき,教育改革が叫ばれていた1962年から翌年にかけて,日本の教育基本法を伝え,「これは大変役に立つ」と言われた日本人がいらした。その当人である,中嶋博早大名誉教授が,快くインタビューに応じて下さった。これは,その記録である。
1.フィンランドの”高い学力”とは
◎OECDのおこなっているPISAと,IEAのTIMSSとは,調査の性格がちがう,とのことですが。
中嶋:そのとおりです。IEAの名誉会長は,私の恩師にあたるT.フセーン教授ですが,その調査は1960年代からおこなわれでいました。
その第1回調査で,日本がイスラエルとともに数学で世界一になった,ということが注目されました。ただ,かねてから私は,日本の場合,調査に協力したのは,いわゆるエリート校で,日本全体を示す科学的なものとは違うのではないか,と考えていましたが。
その後も,理科と数学のテストで,日本と韓国が突出していたというのは事実です。しかし,近年問題にされてきたのは,その好成績が,人格形成における「なんらかの犠牲において」おさめられているのではないか,ということです。
両国とも塾教育です。それから詰め込み教育。そして子どもたちは,非常にストレスを感じてしまっているのではないか,と。
そこで,OECDの調査が,2000年と2003年に行われるのですが,これは新しい学力調査というべきものだと思います。
◎「新しい学力」とはどういう内容なのですか。
中嶋:Cross-CurricularCompetencies(クロス・カリキュラム・コンビタンス),教科横断能力といいますが,問題解決能力,総合分析力,忍耐力,批判的思考,コミュニケーション能力,こういつたものまで入れた能力を調査しようとしています。
図表1を見で下さい。表に「リテラシー」とありますね。ふつう,日本では,これを「応用力」と訳しでいますが,じつはこれ自体新しい言葉で,2003年の報告では"Leam-ingforTomorrowTsworld"つまり「明日の社会のための学習」としているものなのです。
フィンランドの政府が発表したもので,私の記憶の確かなところを言います。「我が国の15歳児の生徒の学力は世界一となった。ところが誤解しては困る。これは今日のカリキュラムの得点を反映したものではない。これは,明日の社会において必要とされる知識と技能を,どの程度子どもたちが身につけたかを測定した結果が,このような結果となっていることにご注意いただきたい。」
フィンランドは,明日の社会をリードすると誇らかに言っているわけです。
(続)
じっきょう「地歴・公民科資料№63」
中嶋博 早稲田大学名誉教授に聞く
「PISA・TIMSSショック」という言葉を覚えていらっしゃるだろうか。
2004年12月7日,まず,OECDが2003年におこなった「生徒の学習到達度調査(PISA)」の結果が発表され,当日,全国紙各紙の夕刊1面トップで報道された。
「読解力8位→14位/数学応用力1位→6位」「日本の15歳”学力トップ”陥落」。
追いうちをかけるように,IEA(国際教育到達度評価学会)が2003年におこなった「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」でも,日本の子どもの平均学力は下がった,とされた。これが,「PISA・TIMSSショック」である。
明けで2005年1月,中山成彬文部科学大臣(当時)は,「総合的学習の時間」や学校五日制などの見直しが必要と述べた。さらに2月には,学習指導要領の前倒し改訂を,中央教育審議会に要請した。その後の教育基本法改定の動きと合わせ,「競争の活発化による学力向上」が声高に叫ばれ続けている。それは,教育の現場にも,大きな影響を及ぼさずにはおかないだろう。
だが,ちょっと待ってほししい。それは,正しい処方箋なのだろうか。
PISAでもTIMSSでも,文句なしに”学力世界一”の折り紙をつけられたフィンランドは,じつは競争とは無縁,日本の教育基本法を参考にして,平等を徹底しで追求しできている。
フィンランドでも,かつては競争が追求されていたが,その誤りに気づき,教育改革が叫ばれていた1962年から翌年にかけて,日本の教育基本法を伝え,「これは大変役に立つ」と言われた日本人がいらした。その当人である,中嶋博早大名誉教授が,快くインタビューに応じて下さった。これは,その記録である。
1.フィンランドの”高い学力”とは
◎OECDのおこなっているPISAと,IEAのTIMSSとは,調査の性格がちがう,とのことですが。
中嶋:そのとおりです。IEAの名誉会長は,私の恩師にあたるT.フセーン教授ですが,その調査は1960年代からおこなわれでいました。
その第1回調査で,日本がイスラエルとともに数学で世界一になった,ということが注目されました。ただ,かねてから私は,日本の場合,調査に協力したのは,いわゆるエリート校で,日本全体を示す科学的なものとは違うのではないか,と考えていましたが。
その後も,理科と数学のテストで,日本と韓国が突出していたというのは事実です。しかし,近年問題にされてきたのは,その好成績が,人格形成における「なんらかの犠牲において」おさめられているのではないか,ということです。
両国とも塾教育です。それから詰め込み教育。そして子どもたちは,非常にストレスを感じてしまっているのではないか,と。
そこで,OECDの調査が,2000年と2003年に行われるのですが,これは新しい学力調査というべきものだと思います。
◎「新しい学力」とはどういう内容なのですか。
中嶋:Cross-CurricularCompetencies(クロス・カリキュラム・コンビタンス),教科横断能力といいますが,問題解決能力,総合分析力,忍耐力,批判的思考,コミュニケーション能力,こういつたものまで入れた能力を調査しようとしています。
図表1を見で下さい。表に「リテラシー」とありますね。ふつう,日本では,これを「応用力」と訳しでいますが,じつはこれ自体新しい言葉で,2003年の報告では"Leam-ingforTomorrowTsworld"つまり「明日の社会のための学習」としているものなのです。
フィンランドの政府が発表したもので,私の記憶の確かなところを言います。「我が国の15歳児の生徒の学力は世界一となった。ところが誤解しては困る。これは今日のカリキュラムの得点を反映したものではない。これは,明日の社会において必要とされる知識と技能を,どの程度子どもたちが身につけたかを測定した結果が,このような結果となっていることにご注意いただきたい。」
フィンランドは,明日の社会をリードすると誇らかに言っているわけです。
(続)
じっきょう「地歴・公民科資料№63」
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