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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

「家族は今やぜいたく品」若者の貧困と過酷労働

2012年12月21日 | 格差社会
 ●『若者の逆襲 ワーキングプアからユニオンへ』木下武男・著/旬報社/定価1,365円
  『労働情報』《時評自評》
 ◇ 『若者の逆襲』を書いて
木下武男(昭和女子大学)

 『若者の逆襲』は「ガテン系連帯」の共同代表を私がつとめたその運動体験と、研究者としての分析という二つの視角にもとづいています。
 『若者の逆襲』は、今の時代における三つの危機と、その危機を克服できていない隘路を感じながら書きました。
 第一は、日本の労働運動が危機的な状況にあることです。
 全労連、全労協という全国組織の組合員が2000年以降、急速に減少しだしています。さらに団塊世代の活動家の定年退職は運動に打撃を与えています。この危機的状況を打開するには、労働運動の世代交代をはかる以外にはありません。しかし、ここにネックがあります。
 それは、日本社会に大きな世代間の「断絶」が存在していることに労働運動は十分に気づいていないことです。
 『若者の逆襲』では若者のおかれている過酷な現実の分析とともに、自己責任論によるだけでなく、無力感、諦念感におちいっている若者の精神状況、さらにはそれをふまえた運動の作り直しについても検討しました。
 第二は、2000年後半から、貧困と過酷労働はすさまじい勢いで若者にのしかかってきていることです。
 「家族は今やぜいたく品」という言葉があるように若者は家族形成不能な生活水準に落とし込まれています。
 また、「正社員になりたい者はどこにもいる」という労働市場圧力に若者はさらされています。これは、規制なき労働市場が2000年代以降、急速に広がったからです。
 しかし、ここにネックがあります。それは日本の労働組合は、流動的な労働市場を規制する経験をほとんどもっていないということです。
 『若者の逆襲』では労働相談活動や労働者の組織化を紹介しつつ、今後の方向性について論じました。
 第三は、いっそう過激な新自由主義勢力が台頭しつつあることです。
 橋下・石原・安倍という個々の人物の極右的な政治方向もさることながら、労働組合としては彼らがなぜ日本の民衆の支持を得ているのか、そのことの深刻さを直視すべきだと思います。
 貧困・格差・雇用不安の時代のなかで打開の方向が民衆に理解されず、しかも状況はどんどん悪くなる、なにも変わらない。
 この時代閉塞感こそが彼らにとって絶好のチャンスなのです。
 この新自由主義勢力と対抗する上でもネックがあります。
 それは、彼らの台頭の基盤でもある貧困・格差・雇用不安の現実にたいして社会労働運動がまだ目にみえる有効な運動を展開できていないということ、それと、日本を変える長期的な方向性と戦略を提示できていないことです。
 『若者の逆襲』では、抽象的な理論分析ではなく、聞き取りによる実例をまじえています。
 人びとは貧困で過酷な労働のもとにおかれ、どんなに理不尽な仕打ちをされても立ち上がりません
 ワーキングプアの3名の聞き取りから、ユニオンにたどり着くルートを探りました。
 また、本書では4つの団体の先進的な経験を紹介しています。
 『若者の逆襲』が、戦後労働運動のなかで一筋の光を放った2006年からの新しい運動にとって、再び陣容を整え、歩を進めるための議論の一助になれば幸いです。
『労働情報』852号(2012/12/1)

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