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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

埼玉の小学校教員が、残業代の支払いを求める裁判を提訴。「超勤4項目」以外の残業は違法な労働

2019年12月07日 | こども危機
  《『労働情報』連載 労働弁護士事件録33》
 ◆ 学校の先生には残業代が出ない?
若生直樹(Naoki Wako)日本労働弁護団会員(弁護士法人江原総合法律事務所)

 「学校の先生には残業代が出ない」。このことは、昨今、メディアなどを通じて耳にする機会も多いと思います。
 1971年に制定された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)は、公立学校の教員に対しては、時間外・休日手当は支給しないと定めています。
 給特法に基づき、公立学校の教員は、いくら時間外労働をしても、残業代は一切支給されていません。このような「働かせ放題」の制度は、教員の長時間労働に歯止めが利かない大きな要因となっています。
 昨今の調査では、非常に高い割合の教員が、いわゆる「過労死ライン」を超える時間外労働に従事している実態が明らかになりました。
 ブラックな職場環境を背景に、教員の道に進むことを諦める学生も増え、学校現場の人材不足はますます深刻となっています。
 しかし、教員はいくら働かせても良い、残業代は一切支給しないという扱いは、本当に許されるのでしょうか。過去には、その違法性を問う裁判がいくつも起こされましたが、裁判所は、教員側の訴えを退けてきました
 そのような中で、教職38年目、定年間近の小学校教員である田中まさおさん(仮名)は、学校現場の現状を、次世代を担う苦い人たちに引き継いではいけない、自分たちの世代で歯止めをかけなければならないという思いから、新たに訴訟を起こす決意をしました。そして、当職が代理人となり、昨年9月、埼玉県を被告として、残業代等の支払いを求める裁判を、さいたま地方裁判所に提起しました。
 裁判では、公立学校教員の時間外労働に対しても、労働基準法37条に基づく時間外割増賃金(残業代)が支払わなければならないと主張して、田中さんが従事した時間外労働に対する割増賃金の支払いを求めています。
 また、労働基準法に違反する時間外労働を長時間かつ恒常的に強いられ、私生活時間を違法に拘束されたことについて、国家賠償法1条に基づく損害賠償を求めています。
 ◆ 強いられる違法な超勤

 労働基準法は、1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならないという原則を定めています。
 この規制は公立学校の教員にも適用されますので、校長は、法が定める例外要件を満たさない限り、教員に時間外労働をさせることはできません。その例外の代表例が「36協定」の締結です。
 しかし、公立学校で36協定が締結されていることは通常ありません。
 給特法は、公立学校の教員については、①生徒の実習、②学校行事、③職員会議、④非常災害等やむを得ない場合の「超勤4項目」の業務に従事する場合であって、臨時または緊急のやむを得ない必要があるときに限り、例外的に時間外労働をさせることができると定めています。
 それを前提に、教員には基本給の4%相当の「教職調整額」を支給し、時間外・休日手当は支給しない、労働基準法37条の適用は除外する、としています。
 他方で、給特法は、上記に該当しない通常業務について時間外労働をさせることは、許容していません。
 このような法の枠組みからすれば、超勤4項目に該当しない通常業務について、36協定を締結することなく教員に時間外労働をさせることは、労働基準法に違反する「違法な」労働となるはずです。
 実際には、教員は、勤務時間外にも、超勤4項目に該当しない通常業務に従事しています。
 田中さんは、勤務時間中は授業の準備や児童の指導などで手一杯であること、近年の校長の権限強化を背景として、校長の意向により命じられた膨大な事務作業に教員は拘束されていること、そのため勤務時間内に業務を終えることは不可能な状況であることを、裁判の中で詳細に主張しています。
 これに対しては、校長は時間外勤務命令を出しておらず、教員が自主的に仕事をしているに過ぎない、だから労働基準法には違反しない、と主張しています。
 しかし、教員の本来の業務や、校長の関与の下で決められた業務に教員が従事しているのであれば、校長が時間外労働させたと法的に評価しなければなりません。
 すなわち、公立学校の教員は、労働基準法に違反する違法な時間外労働を強いられているというべきなのです。
 ◆ 時間外労働には対価を

 また、県は、給特法は、公立学校の教員には、「教職調整額」を支給する代わりに、労働基準法37条の適用を除外し、時間外・休日手当は支給しないことを定めている、だから残業代を支払う必要はないと主張しています。
 しかし、給特法は、超勤4項目の業務についてのみ時間外労働を許容した法律ですので、教職調整額を支払うことによって調整されるのは、超勤4項目の業務のみであるはずです。
 超勤4項目に該当しない通常業務の時間外労働については、給特法によっては許容されないのですから、労働基準法37条の適用も除外されない、と考えなければなりません。
 すなわち、公立学校の教員にも、時間外労働の対価である残業代の支給が認められるべきなのです。
 現在、教員の働き方改革に関する議論が進められています。しかし、教員の労働時間法制について抜本的・実効的な見直しが図られているとはいえず、教員の労働環境改善には程遠いのが現状であると思われます。
 公立学校の教員も、労働者として、人たるに値する生活を営むための最低限の労働条件が保障されなければなりません。
 このことは、子供たちのためにより良い教育活動をする上でも大前提となるはずです。
 裁判では、教員も労働基準法が遵守されるべきであることを強く訴えています。教員に働かせ放題を強いている現状の違法性を明らかにすることが、教員の労働環境改善につながると考え、引き続き裁判を全力で闘う所存です。
『労働情報 NO.988』(2019.12)

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