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おむさんである。 |
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こんな風に、毛刈りが行われたわけである。
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おかか先生がやって来た。 「おい、調子はどうだい?」 |
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「あ、先生。こんにちは」 |
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「毛刈りの跡はどうなった? 見せてみろ」 |
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「……おしりは、この通りです」 |
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「うはー!」 |
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「後ろ足は、こうです」 |
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「前足も、ちょっとね」 |
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「腰は、こうです」 |
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「やっぱり寒いですね」 |
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「くは~! 確かに寒そうだな!」 |
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「……あらためて見ると、先生の被毛は素敵ですね」 「ん? そうか?」 |
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「そうですよ。ふかふかで、ふわふわで。素晴らしいですよ」 |
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「こんな被毛で良けりゃ、取り換えてやりたいよ」 |
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「……えっ!?」 |
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「あ、ありがとうございます」 |
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「そこまで言ってくれるなんて……」 |
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「その気持だけで、寒さも吹っ飛びますよ」 |
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「いやあ、参ったよ」 |
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「腰のあたりに、ベトベトしたものが付いちゃってさ」
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「洗っても落ちなくて、結局、毛を刈ってもらったんだけどね」 |
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「ほら、こうさ……」 |
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「いや、文句を言ってるんじゃないんだよ。決して!」 |
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「だって、みんなのお陰で、大事に至らずに済んだんだからね」 |
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「みんなには、もの凄く感謝してるんだ。いくら感謝しても、し足りないくらいさ」 |
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「でもね、それはそれとして、ほら、ルックス的に。ちょっとね……」 |
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「夏でもないのにショートカットなんて。しかもこんな、部分的に……」 |
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「みっともないよね……」 |
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「あ~あ。自業自得かもしれないけど、悲しいなあ」 |
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「……」 |
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「うっ」 |
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「う、ううっ」 |
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「うえっ」 |
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「うえ~ん」 |
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以下、ドキュメンタリーである。 |
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私(作者)は、穏やかな気持でのんびりクリスマス・イブを過ごそうと、この日もおむさん・おかか先生の許を訪れたのだった。 |
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しかし、私の前に現れたおむさんの身には、とんでもないことが起きていた。 なにやらネバネバ・ベトベトした異物 ―― 接着剤か糊のようなもの ―― が、おむさんの腰から尻尾・臀部、そして後肢にかけて、べっとりと付着していたのである。 |
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被毛にかなり染み込んでいるこの物質、色は無色透明~乳白色。粘性は、この時点では「生乾きのペンキ」のような感じであった。(が、この日の夜には、硬化していたそうである。) 私は鼻を近付けて嗅いでみたが、ほぼ無臭で、シンナーのような揮発性の臭いはなかった。 |
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ご覧の通り、土やらホコリやら葉っぱやらゴミやらが、多量にくっついてしまっている。 もしも、これらを無理に取ろうとするならば、被毛をもむしり取ることになるだろう。 |
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顔にまで、若干量が付着している。 さすがのおむさんも、表情が暗い。 |
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この時に私が考えたことは ―― 一、この異物に毒性があれば、舐めると危険である。 一、肛門や尿道口が固まってしまうと、危険である。 私はとりあえず、肛門と尿道口が塞がっていないかどうかを確認した。 |
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異物に触れてみた印象では、どうも簡単に落ちそうにない。毛刈りが必要になるかもしれない。 私は以前、おむさんの毛をちょっぴり刈ったことがある(細雨に憂う/弱者の味方で剣の達人)。だが今回は、とても私の手には負えそうにない。負えるとしても、この真冬に毛刈りをするのは、ためらわれる。 |
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私はその場から地域猫ボランティアAさんに写メを送ってご相談申し上げた。 その返事を待つ間に、同じくボランティアのBさんが、日課の給餌のため、現地においでになった。 そこへ写メの返事も来たので、私のケータイを使いつつ、対応について協議がなされた。 |
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実にタイミングが悪いことに、私は翌日の早朝から泊まりがけで出かけねばならなかった。従って、私には保護預かりができない。 結局 ―― Aさんがこの日のうちに保護。一泊の後、病院にてシャンプー。異物はろくに落ちなかったそうで、やはり毛刈りが行われた。(なお、ワクチン接種も施された。) その間、おむさんを案じながら旅をする私のために、Aさんはメールで逐次、詳細に状況を知らせて下さった。 |
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そのまま病院でもう一泊してから、おむさんはリリースされた。 リリース後、特に問題は生じていない。 |
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2009年12月23日。
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![]() | そして、その日の夕方 ―― 。 「ねえ、おかか先生」 |
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「シンジ君のこと聞きましたか」 |
![]() | 「うむ。さっき聞いたよ」 |
![]() | 「よかったなあ。……そうだ、写真も見たぞ」 |
![]() | 「ほら、これが、今日のシンジ君の晴れ姿だそうだ」 |
![]() 撮影日 08月13日 | 「四ヶ月ほど前は、こんなだったのにな……」 |
![]() | 「どっこいしょっと」 |
![]() | 「……色々なことがありましたねえ」 |
![]() 撮影日 08月14日 | 「こんなことも」 |
![]() 撮影日 10月20日 | 「あんなことも……」 |
![]() | 「どっこいしょっと」 |
![]() | 「……そうさなあ。色々あったなあ」 |
![]() 撮影日 08月12日 | 「こんなことや」 |
![]() 撮影日 08月13日 | 「あんなことが……」 |
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「……」 |
![]() | 「よかったですねえ」 |
![]() | 「うむ」 |
![]() | 「よかったなあ……!」 |
![]() | おむさんとおかか先生の胸は、様々な思いで一杯だった。 |
![]() | そんな、冬の日の黄昏であった ―― 。 |
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もう一度、シンジ君の話をしよう 奇蹟の話を 現代のシンデレラ・ストーリーを |
![]() 撮影日 同上 |
シンジ君の姿が初めて確認されたのは、08月10日だった |
![]() 撮影日 同上 | |
![]() 撮影日 08月12日 |
シンジ君は、おむさんやおかか先生のテリトリーに、幸運にも、迎え入れられた |
![]() 撮影日 同上 |
こんなことも、時々あったけれど |
![]() 撮影日 08月13日 |
シンジ君は、おかか先生の信頼を勝ち得た |
![]() 撮影日 08月14日 |
おむさんも、シンジ君の味方となった |
![]() 撮影日 08月18日 |
だがシンジ君は、この頃から既に、猫風邪に罹患していた |
![]() 撮影日 09月04日 |
09月初めの時点では、被毛も酷い状態のままだった |
![]() 撮影日 同上 | |
![]() 撮影日 同上 |
それでもシンジ君は、強く生きていた |
![]() 撮影日 10月14日 |
09月から10月にかけて、シンジ君は素晴らしい回復を見せた |
![]() 撮影日 11月15日 |
みすぼらしかったかつての面影は、もう無い |
![]() 撮影日 同上 | |
![]() 撮影日 同上 |
だが、猫風邪は慢性化していた |
![]() 撮影日 12月10日 |
12月10日、ボランティアさん達による捕獲、即、病院へ搬送 ―― ウイルス検査の結果は、残念ながら、FIV陽性だった |
![]() 撮影日 同上 |
引き続き短期保護 ―― |
![]() 撮影日 12月11日 |
その間、給餌はもちろんだが |
![]() 撮影日 同上 |
投薬も行われた |
![]() 撮影日 同上 |
当初は、こんなこともあったけれど |
![]() 撮影日 12月16日 |
シンジ君には、新しい環境に適応する力があった |
![]() 撮影日 同上 | |
![]() 撮影日 12月18日 |
風邪が治ってきたので、12月17日から18日にかけて、シンジ君は入院して去勢手術とワクチン接種を受けた |
![]() 撮影日 同上 | |
![]() 撮影日 同上 |
さすがに疲れたらしいけれど |
![]() 撮影日 12月20日 |
術後の経過は良好だった |
![]() 撮影日 12月22日 | |
![]() 撮影日 同上 |
そして遂に ―― 飼い主さんが決定した |
![]() 撮影日 12月23日 | |
![]() 撮影日 同上 |
12月23日、この写真が撮影されてから数時間後、シンジ君は飼い主さんの家へと搬送された |
![]() 撮影日 同上 |