2009年06月29日 18時33分00秒 | B地点 おむ



 

僕は静かに横になって
夢を見ていた
僕は水際にいた
寂しい場所だった
そして僕はいつの間にか
水の中にいた
僕は必死に泳いだけれど
次第に引き離されてしまい
独りぼっちになってしまった
たとえようもない心細さ
僕は叫んだ ―― おかあさん!
自分の声で目が覚めた
……夢でよかった
ふと見ると
隣に先生が寝ていた
先生の尻尾が
僕の足に触れていた
先生の体温が感じられた
先生も僕の声で目覚めたらしい
先生も夢を見ていたのだろうか
先生は何も言わなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


本邦初の写真とは

2009年06月26日 14時48分00秒 | B地点 おむ

 

 

オムイ外伝シリーズ 第五部(人情濃厚篇) 第22話



話は、五年ほど前に遡る。
当時オムイは、公儀隠密忍群に属していた。
忍びとしての並外れた伎倆によって当代随一と目されていたオムイは、例外的に公方(将軍)にも目通りを許されていた……。
時の将軍、徳川家呵呵(とくがわ・いえかか)である。

「オムイよ、よッく聞けい!」
「幕府は今般、極秘裡に写真術を導入することにした」
「写真術!? 精密な絵姿を一瞬で写し取るという、異国の術でございますね?」
「うむ。写真術は隠密の諜報活動に寄するところ大であろう。向後は必須の術になると申しても過言ではあるまい」
「これが異国より伝来の、写真機でございまするか!」
「その写真機を、おぬしに委ねる。試し撮りをしてみい」
「ははッ」
「我が国での写真撮影はこれが嚆矢。つまり歴史的な一枚じゃ! このわしを撮ってみよ」

こう言って、将軍がポーズを決めた。
オムイは緊張して、ファインダーを覗く。
「……し、しばし待て! 急にもよおしてきた」
「まだ撮るな! 撮るなよ!」
カシャッ

「も、申し訳ございませぬ! 撮ってしまいました……」
「な、何と?」
「変なところを撮りおってーッ!」
「許せん! 手討ちじゃ、打ち首じゃーッ」
―― かくしてオムイは、将軍に追われる身となった。幕府は、オムイを抹殺してこの件を隠蔽しようと考えたのである。
つまり、将軍家の威信にかかわる秘密とは、将軍の恥ずかしい事実および写真なのである。
この秘密を携えて逐電したオムイは、以後、幕府との果てしない闘いに身を投じることになる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


密書ん・いんぽっしぶる

2009年06月23日 18時17分00秒 | B地点 寄り目ちゃん

 

 

オムイ外伝シリーズ 第五部(人情濃厚篇) 第21話



「オムイは、公儀の秘密を握っているのだ……」
「幕府の死命を決するほど重大な秘密なのだ」
「オムイはそれを、密書にしたためたのですね?」
「うむ。その密書を、どうしても奪わねばならぬ」
「だが、貴様の力では、オムイには勝てまい……」

 

「はあ。おっしゃる通りです」

しょぼん

「オムイを倒さずともよい。だが、ともかく密書を奪うのだッ」
「ゆけ~いッ!」
「ははッ」
すたすた

「参ったな~。えらい役目を仰せつかっちゃったな」
かくして、抜け忍オムイのもとへ、
あまり強くない追忍が訪れたのだった。
「む、幕府の手の者か?」
「なあオムイ、密書を渡してくれよ~」

「ふん。笑わせるな」
「頼むよ、なッ? 密書はどこにあるんだ?」

「勝手に探せ! お前が見付けたら、くれてやる」
「だが、お前に見付けられるかな……?」

「ほ、ほんとに勝手に探していいのかい?」

「ああ。好きにしろ」

「……」

「……」
「ま、まさか……」
「この中?」

「そこには無いぞ」
「そうか~」
「も、もしかして、この下?」
「……無いなあ」
「頼むよ~! 密書のありかを教えてくれッ」

「断る」
「なッ、この通り! お願いだから!」

「くどいッ」
「なあ~、頼むよ~」

「とっとと帰れ!」
かくして追忍は、すごすごと帰っていったのだった。
「ふん。たわけが」
「密書は、小さく畳んで、俺がいつも握っているのだ!」
「もう何年も握りっぱなしだから、汗が浸みて、臭くなってしまった……」
「く、くッさ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


愛には誤解が含まれている

2009年06月22日 18時34分00秒 | B地点 おかか

 

 

この日はなぜか、おむさんのお気に入りのリュックが無かった。
そこでおむさんは、不本意ながら、カメラバッグに乗っていた。いや、上半身だけ乗せていた。
「う~ん……これって、いまひとつだなあ」
「いつものリュックじゃないと、落ち着かないなあ」
「よし! 私に任せろ!」

「えっ?」
「お前のリュックを、探してきてやるぞ」

「ほんとですか!?」
……しかし、おかか先生はいつまでたっても帰って来なかった。
「先生、どこ行っちゃったんだろ? 心配だなあ」
「よ~し、先生を探しに行こう」
「ただいま。遅くなってすまんな」
「ほら、お前のリュックを持って来たぞ! ……あれっ? あいつ帰っちゃったのか?」
「……」
「ちょっと乗ってみるか」
「ん~」
「なかなか快適だなあ」
「あっ、先生ー!」
「し、しまった! 奴が戻って来たぞ」
「おかか先生! 僕のリュックを持って来てくれたんですね!」

「しかも、僕のために、温めてくれてたんですね……!」

「い、いや、実は、その……」

「先生は優しいなあ……!」

「よ、よせよ。照れるじゃないか……」
おむさんはこうして、お気に入りのリュックの上で、くつろぐことができたのだった。
「先生、どうもありがとう!」

「な、な~に。たいしたことじゃないさ……」
「……ちょっと誤解されたけど、まあ、いいよな」



『かなり実話』を参照されたし


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


たくましいヒナたち

2009年06月21日 19時07分00秒 | B地点 おむ

 

 

僕は、カメラのお兄さんの膝の上で、
川を見ていた。
「あっ」
ちゃぷちゃぷ すいすい
「カモの親子だ……」
「ヒナは……やっぱり三羽か……」
ここには、何組か、カモの親子がいる。

二日前には、この親子のヒナは、羽だった。


※二日前(19日)撮影

その前には五羽だったらしい。減ってしまったんだ。カラスにやられたのかもしれない。


※撮影日、同上

そして、昨日、気付いたんだけど、

また一羽減って、羽になってしまったんだ……。


※前日(20日)撮影

たまたま親とはぐれたのかな、だったらいいな、って思ってたんだけど。


※撮影日、同上

でも、今見ても、やっぱり三羽だ。
カモのヒナが生き延びるのも、難しいんだな……。
あ~あ……。
「私たちと同じだな」
「えっ?」
「お前と、私と」
「それから、ほら」
「あそこに、よっちゃんもいる」
「なるほど」
「僕たちも、カモのヒナ三羽のようなものですね」
よっちゃんは、元気だ。
僕たちは、よく一緒に過ごす。
よっちゃんも、川面を見つめている。なんだか、寂しそうだ。
僕たちは、カモのヒナ三羽と同じなんだ。たくましく生きてるし。
以前の仲間は、いなくなってしまったし。
「……そうだ! ねえ先生!」
「僕たちがヒナなら、さしずめカメラのお兄さんが親ですね!」

「それはない。奴は頼りないからな」
「……先生って、けっこうドライだなあ」