明け方から冷たい雨 | |
そして、みぞれに変わった | |
この日現れたのは、おむさんだけだった | |
ゆうちゃんである。 | |
とっても可愛い。 | |
「へへっ。僕、可愛いでしょ?」 | |
「うむ。可愛いぞ」 | |
「ゆうちゃんの可愛さは、どうやら基準値を超えたようだな!」 | |
「えっ、ほんと!?」 | |
「ただし……」 | |
「ただし?」 | |
「ただちに写真集が出版されるほどのレベルではない」 | |
がくっ | |
「はっはっは!」 |
この日、強い南風が吹き荒れた。 春の風である。 |
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「ね、おむさん。とうとう春が来たんだね」 | |
「そうだね。でも、まだ春が来ない所もあるよ」 | |
「季節は春になったのに、春が来ない所もあるんだよ」 | |
「え? どういう意味?」 | |
「災害に襲われた土地のことさ……」 | |
「う~ん、そうか……」 | |
「ここの春風を、送ることができたらいいのにね」 | |
「私に任せろ!」 | |
「どうするの、おかか先生?」 | |
「ふっふっふ」 | |
おかか先生は、大きく息を吸い込んだ。 すぅ~~~っ |
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はあ~~~~~っ | |
おかか先生の呼気は、春風となって届いただろうか。 | |
猫たちの体温が、かの地まで伝わっただろうか。 | |
それとも、まだまだ春は遠いのだろうか……。 | |
「むっ!?」 |
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「揺れを感じる……」 | |
ぐらぐらっ | |
「地震だああ~っ!」 | |
「ゆうちゃん! 避難するんだ!」 「うん!」 |
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「急げっ」 | |
「おかか先生が悪いんだ!」 | |
「そりゃ非難だ~っ」 |
名探偵ホおむズ 事件簿021 |
私は、シャーロック・ホおむズ。 私立探偵である。 |
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鋭い推理で犯罪を暴き、犯罪者を捕える。 それが私の使命である。 |
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だが ―― 災害時に被災者を救出するのも、私の大切な仕事なのだ。 |
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「うむ、その通りだ」 | |
「災害時を想定して、救助の訓練をしておこうじゃないか」 | |
「例えば……ここに、コンクリートの塊がある」 | |
「もしも、このようなガレキの下に、被災者が挟まれていたら……」 | |
「そんな時は、どうしたらいいだろう!?」 | |
「頭を使え!」 | |
「……頭を使えだと?」 | |
「そうか、わかった! でやあああ~っ!!」 | |
ゴキーン | |
「あいたたた!」 | |
「だ、だめだ! 割れない!」 | |
「頭を使えというのは、そういう意味ではないぞ……」 | |
「……」 |