音楽療法のライブ日記

音楽療法士がお届けする、日々の活動記録と情報発信のブログです。

『若い頃の話が頻繁になること』に関する認知症研究

2020-09-05 20:48:54 | 研究関連
今は亡き義母がアルツハイマー病を患っていく10年近い年月の中で、
懐かしい昔話を繰り返したり、懐かしい歌を口ずさんだり、
自分の中で記憶として残っていることを
意識して伝えているかのように何度も話をしていました。
昔の生活や家族のつながりを教えてもらい、学ぶことも多くありました。

アルツハイマー病の最初のサインは僅かな記憶損失と行動の変容です。
脳の中の海馬は記憶形成に重要であり、影響される最初の場所であり、
研究においても重度になると海馬の損傷で神経細胞が死滅し、
今言われたことが記憶として残らないようになることが分かっています。

ただ、そんな中でも長期記憶は残されていることが多く、
自分が歩んできた若い頃の話を頻繁にするようになります。
特に過去の体験の記憶とされるエピソード記憶及び
自伝的記憶として自己のアイデンティティ形成に深く関わってきた
10代から20代の記憶が長い人生に生き続けることが多くの研究で示されています
その記憶の隆起を示す頑強な曲線を「レミニセンス・バンプ」と言います。

『<わたし>は記憶でつくられる(山田義裕.2012)』から。
自伝的記憶をめぐるはなしにおいて、興味深いのは、10代から 20代にかけて、
出来事の想起数の比率がグーンと上がって いる部分です。
これは,「想起の盛り上がり」(Reminiscence Bump)とよばれてい ます。
思春期から青年期にかけての記憶が、なぜ後々まであざやかに残るのかについては、
以下に挙げるいくつかの理由が考えられています。
・出来事の新奇性や示差性(卒業,就職,結婚,出産など)
・認知的パフォーマンスの高さ
・記憶の検索に関する文化的要因(結婚などの適齢期の規範)
・自己アイデンティティの確立期と重なる 卒業,就職,結婚,別離などの、
 若い年代での個人史の出来事
これらの記憶も,その時々で微妙に修正されて再構築されていくわけです。

『老いと記憶(増本康平.2018)』第1章の「思い出の記憶」から。  
人は何歳の時の経験を思い出しやすいのでしょうか?
生まれてから現在までの人生を振り返る時、想起される経験を
時系列に並べるとレミニセンス・バンプと呼ばれる特徴的な曲線を描きます。
65歳以上の健常な高齢者41名に、良い思い出、悪い思い出も含め、
人生における重要な出来事を尋ねた結果を示したものです。
これをみると10代から20代にかけて経験した出来事を多く思い出しています。
人生を振り返る時、特定の時期に生じた出来事が煩雑に思い出される理由は、
いくつか考えられます。
10代後半から就職、結婚、出産といったその後の人生に
大きな影響を及ぼす出来事を他の時期よりも経験することがあります。
初めて経験する出来事は何度も繰り返される出来事よりも際立ち、
感情的なインパクトも強いため想起されやすいと考えられます。
いずれにしても、この特徴的な曲線は、人生を振り返る際、
各年代での経験がまんべんなく想起されるのではなく、
特定の時期の経験が想起されやすいことを示しています。

『脳はなぜ都合よく記憶するのか(ジュリア・ショウ.2016)』から。
・・・つまり、人は10代と20代の記憶を持ち続けるようだ。
記憶はたいてい人生の特定の時期に集中しているらしい。
これは「レミニセンス・バンプ」と呼ばれる現象で、
・・・レミニセンス・バンプは、人は人生の時期をすべて均等に
覚えているわけではないことを示している。

『認知症高齢者への音楽療法に関する展望』から。
-「思い出深い音楽」と記憶に関する学際的研究を通して-
(西村ひとみ.2007.近畿音楽療法学会誌)
60歳代~90歳代の114名の研究対象者に「思い出深い音楽」3曲に関して
‘いつ頃の記憶’‘内容’の結果から得たレミニセンス・バンプを考察しました。
やはり、13歳~20歳までの記憶がピークを示しました。

その他、多くのレミニセンス・バンプと自伝的記憶に関する研究があります。

長い人生に生き続けてきた大切な記憶を語る「その時」を
共有しながら大切に関わっていけることを願います