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紅茶の島のものがたり vol.1 冨井穣

2009年04月03日 | 金曜(2009年4月~):冨井穣さん
第1話
南国リゾートの沖縄で紅茶作り?





 目を閉じて想像してほしい。沖縄で茶畑に囲まれて、紅茶を飲んでいる光景を。
 沖縄で紅茶? ビーチサイドでトロピカルドリンク片手に涼むのではなく、炎天下にせっせと茶葉を摘み、熱い湯を沸かして紅茶を飲む?ちょっと考えただけで、体じゅうからじわじわ汗が吹き出してくる。
 また中には、サンゴ礁の海と原色の草花に彩られた亜熱帯リゾートの沖縄に、茶園があることを知らない人もいるだろう。「お茶の産地は?」と聞かれてパッと思い浮かぶのは、里山の斜面に段々畑が連なる、のどかな農村風景だ。まして紅茶には「洋風、おしゃれ、上流階級」といった印象が付きまとい、日ごろ口にするお茶は緑茶やウーロン茶のほうが圧倒的に多い。沖縄では緑茶にジャスミンの花弁を混ぜた「さんぴん茶」もよく飲まれ、どうも紅茶と沖縄が結びつくイメージはわいてこない。
 そんな声をよそに、高き理想を掲げて、沖縄で紅茶作りに励む青年がいる。目指すところは、一事業として採算ラインに乗せるとか、沖縄ブランドとして知名度を上げるとか、そんなレベルではない。彼の口からは当然のように「世界一」ということばが飛び出してくる。
「沖縄が紅茶生産に最適の場所であることは、お茶業界では昔からの常識です。ダージリンやアッサムのように、ヤマシロの名を世界にとどろかせたい」
 青年の名は山城直人。うるま市石川の山城地区で3代続く、お茶農園の若き場長である。彼が取り組んでいるのは、茶葉を有機無農薬で栽培し、手摘みして自社加工する純沖縄産の紅茶作りである。
 ここで一つ、疑問を感じる人がいるだろう。紅茶とほかのお茶は、何が違うのか。
 意外かもしれないが、日ごろ私たちが「~茶」と呼ぶ飲み物の中で、紅茶と緑茶、ウーロン茶は、実は同じ茶樹から作られている。ツバキ科ツバキ属の常緑樹で、学名は「カメリア・シネンシス」。つまり、静岡でも沖縄でも、中国でもインドでもスリランカでも、栽培されている茶樹は「カメリア・シネンシス」なのだ。
 では、これらのお茶はどんな基準に従って分類されるのか。それは、製造法の違いである。
 簡単に言うと、茶葉の中に含まれている酸化酵素の働きを利用して、茶葉を発酵させたものが紅茶、摘採後すぐに加熱処理を施し、発酵を止めたものが緑茶になる。そして、酸化酵素をある程度働かせた半発酵茶が、ウーロン茶というわけだ。
 いずれにせよ、紅茶と緑茶は同じ茶樹から作られる兄弟のようなもの。もともとは山城の家も先代の父・豊の代までは緑茶農園を営んでおり、山城は幼いころから水まきや苗植え、茶摘みなど、家の仕事を手伝いながら生い育った。


text:冨井穣