この定義に対して、オックスフォード大学教授トワイクロス博士が1999年に、「身体的(フィジカル)」「精神的(メンタル)」「社会的(ソーシャル)」の他に、「霊的(スピリチュアル)」という概念を加えるべきだと提唱しました。しかし、この提言は、さまざまの宗教をもつ国、あるいは無宗教の国などの考え方を統一することができず、全加盟国の3分の2以上の賛成がなされなかったため、現在も討議中ということです。
霊的(スピリチュアル)に良好であるということはどのような状態でしょうか。きわめてシンプルに考えれば、自分という存在に対して不安のない状態とでもいえるのでしょうか。精神的(メンタル)に不安がないと言うよりは、もっと根源的なものと思われます。では、スピリチュアルに苦痛(ペイン)がある状態というはどのような状態でしょうか。
スピリチュアルペインは、「自分という存在の揺らぎや不安」とでも言ったらよいのかもしれません。宗教家や哲学者でもない私たちは、普段は「何のためにいきているのか」などと深くは考えません。命に関わるような病気や不慮の事故、老いを感じた時のように平穏な日常が破綻するような状況に出会った時、初めて、「なぜ自分は生まれてきたのか」、「何のために生きるのか」、「毎日こんな生活をしていくことに意味があるのか」、「なぜ自分はこんな病気になったのか」、「なぜ今、自分が死ななければならないのか」という問いを発します。
怪我や疾患などによる身体の痛みのケアには薬を用います。精神的な病やストレスのケアには薬やカウンセリングがあります。失業や障害などによる経済的困窮のケアには社会福祉制度があります。しかし、スピリチュアルペインは、薬や社会制度などで取り除くことはできません。
スピリチュアルケアについて、「人生のあらゆる事象に意味や価値を見出すことができるような、適切な思考法や有益な情報を効果的に伝えることによって、対象者が自分自身で、「心の免疫力」や「心の自己治癒力」を高めていくよう導くこと。」語っている人がいました。
自分自身でさえ安易に答えることのできないスピリチュアルな問いに対して、それも、死に直面している人に寄り添いながらその問いの答えを導くためには、人間に対する深い洞察や愛、宗教的なものに対する畏敬や哲学に対する造詣が必要とされるのではないでしょうか。スピリチュアルケアが必要であることに疑問はありませんが、ケアに携わる人を
育成するのは簡単ではないような気がします。
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