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発達障害の増加と愛着障害 №209

2014-01-21 14:49:50 | インポート
 心の病は社会環境の歪みを映しだす鏡だともいわれています。近年、統合失調症が軽症化してきた一方でうつ病や不安障害、境界性パーソナリティ障害を中心とするパーソナリティ障害、依存症、摂食障害、発達障害が増加しているということです。
 統合失調症が軽症化してきた理由として考えられているのが、社会の規範や縛りが緩くなったために、統合失調症の人にかかる精神的緊張が薄らいでいるのではないかということです。個人主義で他人への関心や干渉が希薄な社会環境のほうが、統合失調症の人にとって暮らしやすいのではないかといわれています。
 しかし、うつ病や不安障害、境界性パーソナリティ障害を中心とするパーソナリティ障害、依存症、摂食障害、発達障害はなぜ増加しているのでしょうか。
 うつ病は働く人達だけでなく、主婦や高齢者、若者や子どもにまで増加しています。パニック障害をはじめとする不安障害は遺伝的要因も考えられますが、短期間で遺伝的要因が変化することは考えられません。境界性パーソナリティ障害や摂食障害は、1980年代から急激に目立ち始めたといわれています。
 特筆されるのが「発達障害」の増加で、とりわけ増加率が目立つのが自閉症スペクトラムで、この30年間で数十倍に有病率が上がっているようです。学習障害やADHDも増加し、ADHDの有病率は5~6%、学習障害は10%に上るとも言われています。発達障害は統合失調症と同じくらい生物学的要因が強く、高い遺伝率もつものと考えられてきましが、統合失調症の有病率が横ばいか減少傾向なのに対して、発達障害は増加し続けているということです。
 精神科医の岡田尊司先生は「愛着崩壊」(サブタイトル~子どもを愛せない大人たち~)という著書の中で、その根本原因は、乳幼児(2歳位まで)の頃に十分に母親等の養育者と接する時間が少なかったからではないかと言っています。愛着(アタッチメント)は、イギリスの児童精神科医ボウルビィの、人と人との親密さを表現しようとする愛着行動についての理論です。子どもは社会的、精神的発達を正常に行うために、乳幼児の頃に、少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持しなければならず、それが無いと、子どもは社会的、心理学的な問題を抱えるようになるという理論です。
 離婚や経済的な問題等によりやむを得ず働きに出なければならないため、乳幼児の時期に十分接する時間が持てない環境が根本にあるのではないかということです。祖父母が近くに住んでいれば預けることもできますが、ほとんどの場合は保育所に預けることになります。愛着障害による子どもをつくらないためには、安心して子育てができる環境を社会全体が支えるシステムが必要です。

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東大を目指すロボット №208

2014-01-08 16:40:50 | インポート
  1月7日付けの日経新聞に東大入学を目指しているロボットの記事が掲載されていました。このプロジェクトは、国立情報学研究所が中心となって、細分化された人工知能分野を再統合することで新たな地平を切り拓くことを目的に、2021年度に東京大学入試を突破することを目標に研究活動を進めているということです。
  思い起こせば、今から17年前、平成9年(1997年)5月、IBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」が、当時チェスの世界王者だったゲイリー・カスパロフと対戦し、「コンピューターに負けることなどない」と豪語していた世界チャンピンを破り話題となりました。一昨年(2012年)1月には、東京・将棋会館(東京都渋谷区)で富士通研究所の伊藤英紀研究員が開発したコンピュータ将棋ソフトの「ボンクラーズ」が、当時日本将棋連盟会長だった米長邦雄永世棋聖と対局し、「ボンクラーズ」が113手で勝利しました。
  コンピュータによる翻訳の世界でも、膨大な対訳文を統計的に分析して規則性を見つけ出す、「機械学習」が突破口となり、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の翻訳ソフトは「特許の出願など対訳データが豊富にある分野なら90%以上の精度で翻訳が可能になった。」ということです。これまで困難と思われていた通訳の機械化が実現する日が近づいています。
 現在のところ、国立情報学研究所が推進しているロボットの能力は「代ゼミ」のセンター模試で平均点以下ということです。それでも、私立大学の学部のほぼ半数で合格可能性80%以上のA判定が出るところまではきているということです。プロジェクトリーダーの新井紀子教授は、「もし、AI(人工知能)が東大に入学できる能力をもったら社会が変わる。文章を要約できるレベルになれば、ホワイトカラーで影響を受けない職種はない。」と言っています。
 製造業では無人工場というのがありますが、電話番以外の無人オフィスが出現する可能性もあるわけです。労働から解放され、余暇時間が増え、理想的なライフスタイルが築けるのであれば良いのですが、知的な労働までロボットに奪われ十分な賃金が得られなくなる大量失業時代になってしまう恐れもあります。
 コンピュータに仕事を奪われず使いこなすには、創造性に富み、コンピュータを操るプログラミング技術が不可欠となりますが、果たしてそうしたクリエイティブな業務に携われる人がどれだけいるのでしょうか。なかなか楽観的な気持にはなれません。
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「発達障害かもしれない大人たち」(2) №207

2014-01-07 16:04:48 | インポート
 自閉症スペクトラムに属する人の特徴や生きづらさについて、林先生は次のようなことをあげています。
 ①物事に固執し柔軟な考え方ができない。
 ②物事に対する認識が狭小で、独特な考え方をもっていることが多い。 
 ③納得がいかなくても頑張ってしまい、疲れ果ててしまう。
 ④能力のばらつきが多く、できることとできないことの差が大きく、自尊心を持ちにくい。
 ⑤表情を読みとるのが苦手で、暗黙の了解ができない。細かいところまで言われないとできない。
 ⑥外からの刺激と概念を結ぶセンサーが少ないので、感情表出が苦手である。 
 こうした生きづらさをどのように社会と適応させていったらよいのか、林先生は、本人と周囲の人達のケアとして以下のことをあげています。
<発達障害をもつ本人にできること>
 ①苦手なことは、手伝ってもらったり、迷惑にならない範囲で人にまかせる。
 ②できないからといってあきらめず、できるように工夫する
 ③自分がどのような人間かを知り、ひとのせいしない。
<発達障害の周囲の人がとるべき態度>
 ①頭ごなしに否定しない。失敗しても叱ったり、怒鳴ったりしない。
 ②得意、不得意があることを理解し、可能な限りほめる。
 ③ 一つ一つ丁寧に理を説いて諭すよう努める。
 ④してはいけないことをしたとき、しっかり叱る。
 自閉的特性を持っている人は、選択すべき可能性が多いと、それを絞り込んで決断することができず「結局どうすべきかわからない。」という状態に陥り、脳がフリーズしてしまい、仕事が進まない、できないという事態に陥ります。こまかく手順を教えても想定外の出来事が起こるとパニックになってしまうので、想定外のことが起きても大丈夫だと安心させておくことが必要だと言います。
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「発達障害かもしれない大人たち」(1) №206

2014-01-07 15:59:20 | インポート
 落ち着きがない、忘れ物が多い、人の話を聞かない、できることとできないことの差が多く、集中力が足りない。以前は、こうしたことは、家庭のしつけや教育の問題であり、脳機能の障害であるということはほとんどありませんでした。
 この本の著者、精神科医師の林寧哲先生は、ご自身のことを「アスペルガー障害を経た広汎性発達障害」と診断しています。ご自身が長いこと自分が発達障害であることを知らずに苦しんできた体験があるのだそうです。そうしたことから、社会の中で普通のことに対してどのようにふるまったら良いのかわからずに困ったり、他人に迷惑をかけたりしている人たちの多くは、アスペルガー症候群を含む自閉症スペクトラムに属する人たちだったり、その他の発達障害だったりする場合が多いのではないか、とこの本を書いたきっかけを話しています。
 発達障害については、平成17年4月に施行された発達障害者支援法で、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。」とされています。
 自閉症スペクトラム(「スペクトラム」は「連続体」ということで、自閉的特性の程度が軽いものから重いものまでを含んでいる)については、その特性が強くなると対人関係がほとんど構築できなくなってしまうので、本人が生きづらいという感覚におちいることはなく、むしろ、自閉的特性が軽い人、特定不能の広汎性発達障害といわれる人達が対人関係で一番苦労しているのではないかといいます。
 アスペルガー障害(症候群)は、自閉的な特徴を有してはいるものの、言語発達の遅れがなく、重大な認知の遅れ、適応上の障害が希薄であるとされています。つまり、言語発達の遅れがあるかないかが、自閉症スペクトラムとの診断上の違いということです。
 学習障害は他の能力は普通なのにもかかわらず、漢字の読み書きや算数など特定の科目に限って著しく能力が劣る場合を言います。
 注意欠陥多動性障害は、衝動性が高く脳の活動が不安定であり、耐性が低く、我慢が苦手なことが特徴ですが、ほぼ薬でコントロールできることが多いといっています。
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「仮面うつ」と「微笑みうつ」 №205

2013-11-25 15:52:09 | インポート
 「仮面うつ」の人は、「うつ病」でありながら、便秘や食欲不振などの消化器症状、頭痛・めまいなどの神経症状、身体各部の慢性的な痛み等どちらかというと身体症状を訴え、精神症状としての「うつ症状」についてはあまり訴えません。
 そのため内科に受診し、うつ病の診断がつかないことが多いのです。睡眠障害、寝付きが悪い、朝早く目覚める、眠りが浅い、食欲低下、性欲低下、だるい、下痢、便秘、腹痛、頭痛、筋肉痛、四肢痛、肩こり、しびれ、めまい、動悸、発汗、口のかわき、胸やけ、息苦しさ、胸の圧迫感、熱感、目のつかれ、食べ物の味がしない、頻尿など多彩な症状がみられます。最近では、「過食」の人もみられるようです。
 身体の症状が全面に出てくるため、精神症状がマスク(仮面)されているという意味で、「仮面うつ病」と呼ばれています。特にサラリーマンに増加しており、仮面うつ病患者では自殺することがあるので注意しなければならないといわれています。頑張りやさんの学生や、猛烈サラリーマンタイプに多いようです。外出したくない、人に会いたくない、ボーッと閉じこもって何もしない、出社しない、登校しないなどが特徴です。
 また、最近、中高年の間に「微笑みうつ」といわれる症状を呈する「うつ病」の人が増加傾向にあるといわれています。集中力がなくなり、仕事上のミスも目立つようになり、ボーっとしていることが多くなるので、周囲の人がそれとなく指摘しても、にこにこと微笑みを浮かべて元気そうに振る舞うので、「大丈夫かな」と思ってしまいます。しかし、じつはうつ状態にあるのを隠そうとして無理に明るくしているに過ぎません。心療内科などの受診を勧めても、医師の前でさえにこやかに振る舞うので、医師も診断にとまどうようです。
 「微笑みうつ」には、うつ病特有の日内変動という生活リズムの変化が見られるといわれます。午前中はボーっとし、それでいて話しかけると明るく振舞い、午後から退社まで頑張り通すというのがパターンです。これが続くと、ストレスはますますたまり、突然、蒸発や自殺といった最悪のケースも考えられます。重傷のうつ病の場合は自殺する気力も起きませんが、「微笑みうつ」のような軽症のうつ病の場合はまだ気力が残っているので、むしろ危険だと言われます。
 「微笑みうつ」は、仕事や人間関係からくるストレスが主な原因で、真面目で責任感が強く、体面を気にして自己犠牲をいとわないタイプがかかりやすいうつ病といわれています。「微笑みうつ」は「うつ病」でも軽症な場合が多いようですが、危険なのは、本人に悩みがあっても周りの人に気づかれないようニヤニヤと体裁笑いをして振る舞うので、「病」が進行してしまうところだといわれます。
 「仮面うつ」も「微笑みうつ」も、特に職場や家庭での人間関係などで無理をすることから生じやすいので、時には周囲に弱みを見せる心のゆとりと勇気を持つことが大切です。ただ、それができるのならそもそも「うつ病」にかからないのかもしれませんが、自分を守るのは自分自身であることを忘れないでいたいものです。
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道徳の評価について №204

2013-11-21 15:29:19 | インポート
 文部科学省の有識者会議「道徳教育の充実に関する懇談会」は平成25年11月11日、正式な教科となっていない小中学校の「道徳の時間」を教科に格上げするべきだとする報告書案を示しました。ただし、評価については、他の教科と異なり、「数値による評定」は不適切とし、児童生徒が成長を振り返ったり、学校側が指導の改善に生かしたりするため、「記述式の評価」を検討すべきだとしています。また、指導に必要な教員免許は設けず、授業は小中ともに担任が受け持つとされています。
 現行の学習指導要領では「道徳教育は、教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭、学校、その他社会における具体的な生活の中に生かし、豊かな心をもち、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し、個性豊かな文化の創造を図るとともに、公共の精神を尊び,民主的な社会及び国家の発展に努め、他国を尊重し、国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓く主体性のある日本人を育成するため、その基盤としての道徳性を養うことを目標とする。」とされています。
 反対する立場の人達からは、特定の価値観を教えることにつながりかねないという反発があるほか、いじめ問題にこと寄せて政府のいう「愛国心」をかなめとする国家主義的な道徳教育のいっそうの徹底をはかろうとするものではないかという批判が出ています。
 そもそも道徳は評価になじむのかという疑問を抱く人も多いかと思いますが、アメリカの心理学者ローレンス・コールバーグ(1927年~1987年)は、「道徳性発達理論」の中で、人間の道徳的判断は3つのレベルと6つの段階をもつと述べています。
 レベルⅠは、前道徳的あるいは、慣習以前のレベルと呼ばれるものです。その第1段階は道徳発生以前の無道徳の時期であり叱られなければ良いという段階です。第2段階は、罰を恐れ、権威のある者に服従する段階です。つまり、この水準にいる就学前から8歳位までの子どもは、規則を守り大人が求める規則に従いますが、それは、そうすることが正しいことというよりは、罰を避けたり報酬を得るために行動する段階だといわれています。
 レベルⅡは慣習的レベルと言われる段階です。第3段階の自己の利害を考えて行動する日和見主義的段階と、第4段階の周囲の期待に応えて行動しようとする段階です。このレベルでは先生や親からの承認を得ようとしてそれに同調し、「よい子」としてふるまうようになるといわれています。
 レベルⅢは自律的、道徳的原理による判断の段階です。第5段階が契約と民主的に受容された規則に従う段階で、第6段階は、それぞれの小さな規則よりも、もっと根本的・普遍的な原理から自律的な行動ができる段階です。このレベルでは法や規則にしばられずに普遍的な原理にしたがって道徳性を判断できるようになるといわれています。
コールバーグは道徳性の発達レベルを測定するために、愛する人を救うために犯罪を犯してしまうというような、「モラルのジレンマ」がある物語を使って考えさせ、どの道徳レベルで認知するかによって道徳性の発達レベルを決定するように提唱しています。
 簡単なことではありませんが、発達段階の目安があれば評価することも可能ではないかと思いますが。
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おひとりさまの老後とソリチュード №203

2013-11-07 14:53:45 | インポート
 上野千鶴子さんの「おひとりさまの老後」を読みました。その中で、日本語の「孤独」という言葉は、英語では、「ロンリネス(Loneliness)」と「ソリチュード(Solitude)」という2つの言葉で表わされるという一節がありました。
 「ロンリネス」は、友達がいない、交友関係がないというような場合の、寂しいとか心細いという時に使われる言葉で、「ソリチュード」は、むしろ独りでいることが快適で、静かにくつろぐことができるというようなニュアンスで使われるようです。
 上野さんは、「おひとりさま」だからといって「ロンリネス」とは限らない。むしろ「おひとりさま」だからこそ、「ソリチュード」の人もいると言っています。趣味のサークルやデイケアセンターにでかけて寂しさを紛らわしたいと言う人もいるでしょう。独りきりで読書をしたり、音楽を聞きながら自分だけの世界に浸り、食事も入浴も就寝も誰に気を使うことなく自分のペースで生きていくことで充実感に浸れる人もいるのです。
 イシドロ・リバスというイエズス会司祭は、『同じ孤独でも「ロンリネス」と「ソリチエード」とはその意味するところはたいへん違う。両者は無関係なのではなく、むしろ深い関係があるとも言える。「ロンリネス」に陥って寂しくなる時に、もしそれをごまかさないで正面から見つめれば,多くの場合「ソリチュード」へのきっかけとなる。すなわち寂しい時に一人になって考えたり、本を読んだり、黙想したりして、深い「ソリチュード」を味わうことができるようになる。
 現代人の多くの不安と寂しさは、「ソリチュード」の時間がほとんどないところからくるのではないか。「ロンリネス」に悩んで仲間を求めるが、「ロンリネス」になるのは仲間がいないからではなく、心の底からの本当のコミュニケーションが足りないからだ。いつも他人と共にいて「ソリチュード」がないから、本当の自分を失って、本当の自分を分かち合うことができなくなってしまいる。一言で言えば、「ロンリネス」になるのは「ソリチュード」が無いからだ。』といっています。
 私たちはともすると一人でいることが不安で、さして関わりたくない人達と群れることで寂しさを紛らわせていますが、ふと我に返ったとき言いようのない虚しさや不安を感じるときがあります。あえて「おひとりさま」を選ぶこともありませんが、一人でいても、自分が世界や周囲の自然の中で人として生き、生かされていることを感じられることができるようにありたいものです。
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「ひきこもり」と「孤立無業者」 №202

2013-10-29 17:05:10 | インポート
 景気が上向いてきたとはいえ、学生の就職状況はまだまだ厳しいものがあります。20社~30社、多い学生は50社前後受験します。それでも内定をとることができずに自信を失い、そのまま「ひきこもり」状態になってしまう学生もいます。自分が社会から必要とされていないのではないかと暗澹たる気持になるのは良くわかります。「どうにかなるさ」と楽天的に考えられればよいのですが、「どうにもならない」と悲観的になり、自分の部屋に閉じこもり、外出もしなくなり、昼夜が逆転してきます。
 厚生労働省は「ひきこもり」について次のように定義しています。「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊)などを回避し、原則的には、6ヶ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしている場合も含む)。」2010年の内閣府調査では69.6万人いると推計されています。
 それでも、学生のうちは、学校にいけば何らかのかたちで人と接する機会もありますが、いったん社会人となってしまうと、仕事に就いていないとほとんど人と接する機会がなくなってきます。年齢が高くなればなるほどそうした傾向は強くなります。東京大学の玄田有史教授は、「20歳以上59歳以下の在学中を除く、未婚、無業者のうち、ふだんずっと1人か一緒にいる人が家族以外いない人々。」を「孤立無業者(Solitary Non-Employed Persons:SNEP(スネップ))」と呼んでいます。 2011年の調査で162万人いると推計しています。「孤立無業者」の約9割が6ヶ月以上無業を続けていて、めったに外出しない人もいることから、20歳以上の「ひきこもり」の人は「孤立無業者」に含まれているといってよいでしょう。
 「ニート」は求職活動をしない若年無業者ですが、「孤立無業者」は消極的ではあっても求職活動をしています。ただ、産業構造が変化していく中で、社会の求める新たなスキルを手に入れることはなかなか難しいことです。玄田教授は「孤立無業者の増加は、生活保護受給者の更なる増加など、社会の不安定化と財政負担の要因となり得るものであり、アウトリーチの充実や福祉から就労への移行支援など、早急な 政策対応が求められる。」と語っています。
 私たちの国が成熟した豊かな社会となるためには、「ひきこもり」や「孤立無業者」の人達に働く場所を提供できるよう、いったん社会人となった後でも、職業能力を開発し、新たな技術や知識を手に入れられるリカレント教育の制度的な仕組みをつくっていく必要があります。
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強迫性貯蔵症という病 №201

2013-10-26 12:46:35 | インポート
 あまり必要でもなさそうなモノをため込んで、片づけたり、捨てることができない人がいます。これが高じると、いわゆる「ゴミ屋敷」状態となり、家族や近隣の人たちに迷惑をかけるようになり、本人の健康被害も心配されてきます。
 これは強迫性貯蔵症(ホーディング)という病気で、アメリカではおよそ300万人がこの病気に該当すると言われているようです。強迫性貯蔵症(ホーディング)の人をホーダー(Hoader)といいますが、この人たちがなぜモノをため込み、捨てられないのかについては、以下のように説明されるようです。
①今拾って(集めて)おかないと、後で二度とそのチャンスがなくなるのではないかという強迫観念から、必要もないモノを集めてしまう。
②集めた個々のモノに愛着を持ち、それらに囲まれていることでくつろぎや安心を感じる。
③捨ててしまうことで、そのモノを無駄にしてしまうのではないか、という不安や罪悪感 があって捨てることができない。
 ホーダー(強迫性貯蔵症の人)は、その行為による不安や罪悪感を感じつつも、病気であるという意識が希薄であるために自ら受診するようなケースは少ないようです。ホーディングを行う本人にも、それなりの考えがあるため、周囲の人には、本人の話に耳を傾けるなどコミュニケーション、信頼関係が重要だということです。
 海外ではホーダーを対象にした専門的治療を行っている機関もあるそうですが、日本国内ではまだまだ認知度も低く、現在、そのような溜めこみを対象にした専門治療を正式に行っているところはないと思いますが、最近、金子書房から五十嵐透子上越大学教授の訳でゲイル・スティケティー/ランディ・フロスト共著の「ホーディングへの適切な理解と対応 ~認知行動療法的アプローチ~」という本が出版されました。セラピストガイドの他に、ホーダー(強迫性貯蔵症の人)のためのワークブックも出版されています。
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「なりたい職業」と「なれる職業」 №200

2013-10-21 17:03:02 | インポート
 一般的に職業選択には三つのプロセスがあるといわれています。第一段階が、「興味・関心」です。第二段階が、「能力・適性」です。スポーツに例をとってみればわかりやすいと思いますが、野球やサッカーに興味・関心があり、そこそこ上手くても、それだけではプロになれません。プロとして報酬を得るには、興味・関心があるだけでなく、高い能力や適性が要求されます。
 第三段階が、「環境因子」です。環境因子というのは、自分の成育環境をめぐる様々な要因のことです。例えば、長男であるとか、一人っ子であるとかという家庭環境であれば、保護者の面倒をみるため、自宅通勤可能な職場を選ぶということになります。また、医師や先生になりたいと思っても、経済的な要因で進学そのものを断念せざるを得ない人もいます。
 子どもの頃、「将来どんな仕事をしたいの」と聞かれると、たいがいの子どもは素直にあこがれの仕事を言うことができます。ベネッセ教育総合研究所が行った「子ども生活実態基本調査」のアンケート結果(20009年)によると、小学生の男の子が「なりたい職業」の上位は、①野球選手②サッカー選手③医師④大工、ゲームクリエイター、大学教員の順で、5年前とほとんど変わっていません。女の子は①ケーキ屋さん・パティシエ②保育園・幼稚園の先生③芸能人④看護師⑤デザイナーの順です。漫画家の人気が落ちてデザイナーがあがっています。
 同じ調査で高校生男子が「なりたい職業」は、①学校の先生②公務員③大学教員④医師⑤SEの順で、高校生女子では、①保育園・幼稚園の先生②学校の先生③看護師④薬剤師⑤理学療法士、臨床検査技師、歯科衛生士の順となっています。当然のことながら、高校生になり、自分の能力・適性や家庭環境などが客観的に把握できるようになるにしたがい現実的で安定的な志向が目立ってきます。
 問題は、能力・適性等から判断して、「なりたい職業」に就くことはほとんど不可能だと周囲の人には思えるのに本人が「現実と妥協」することなく、「夢」を追い続ける場合や、「なりたい職業」を見失い「現実逃避」してしまう場合です。
 ベネッセの調査によると、5年前に比べて「なりたい職業」が「ない」と回答する子どもの数が増加しているということです。特に、高校生男子の54%が「なりたい職業がない」と答え、5年前の調査に比べ18%も増加しています。女子でも39.3%が「なりたい職業がない」と答え、14%も増加しています。
 就職そのものが難しい時にあって、「なりたい職業」を選択する余地はほとんどなく、とりあえず「なれる職業」を選択せざるを得なくなっているというのが現実です。そこで問われるのは、「適性」よりもむしろ「適応力」といった方が良いのかもしれません。
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