どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

ブレーメンのおんがくたい(私家版)

2014年02月25日 | 私家版

 むかし、ある人が、ろばを 一ぴき飼っていました。その ろばは、これまで長いとしつき、休まずせっせと 麦の袋を 水車小屋に運んでいました。けれども、いまでは からだが弱って、だんだん仕事ができなくなってきました。
 そこで、飼い主は、もう餌をやってもいてもしかたがないと思いました。
 すると、ろばは、風向きが悪くなったのに、気がついて、家をとび出し、ブレーメンの町をめざして、ひとりで歩きはじめました。そこへいけば、町の音楽隊に入れるだろうと思ったからです。

 ろばが しばらく行くと、一匹の猟犬にあいました。犬は道に寝そべって、まるで 走りつかれたように、はあはあ息をしていました。
「おい、なんだって そんなに はあはあいってるんだ、かみつきやくん」と、ろばは聞きました。
「ああ、ああ」と、いぬはこたえました。「わたしが 年をとって、ひましによわり、いまでは 猟にでても、走れなくなったものだから、飼い主が おれをぶち殺そうとしたんだよ。だから、ひっしになって 逃げ出してきたんだ。でも、これから どうして 暮らしていったらいいだろうねえ」
「それじゃ」と、ろばが いいました。「わしは ブレーメンの町の音楽隊に入るつもりだが、おまえさんも一緒にいれてもらったらいいよ。わしは、太鼓をたたく。お前さんはラッパを吹きたまえ」
 いぬは それはいい考えだと思って、ろばと一緒にいくことにしました。

 しばらくいくと、一匹のねこにあいました。ネコは 道端に座って、雨が三日も降りつづいたような、なさけない顔をしていました。
「よう、なにを そんなに ふさいでいるんだね、ひげふきばあさん」と、ろばは 聞きました。
「自分の命が 危ないというのに、誰が うきうきしていられるものかね」と、ねこがこたえました。「実は、わたしは としをとって 歯が弱くなり、ねずみを おいかけるよりは、ストーブのうしろにすわって、のどを ごろごろならしているほうがよくなったんだよ。それで、うちのおかみさんたら、わたしを川へぶち込むと いうのさ。そこで こうして 逃げ出してはきたものの、さて、どっちへいけばいいのやら、うまい考えもうかばなくてね」
「それじゃ、わしらと一緒に、ブレーメンへいこうじゃないか。お前さんの夜の歌はすてきだから、きっと、まちの音楽隊にはいれるよ」
 ねこはそのとおりだと思って、みんなと一緒に いくことにしました。

 やがて、この三匹の宿無しが ある屋敷のそばを通りかかると、一羽のおんどりが 門の上にとまって、声をかぎりに ないていました。
「おいおい、きみのなき声は、骨のずいまで ひびくなあ。いったいどうしたんだね」と、ろばがたずねました。
「今日は、いいお天気になるとしらせたのだよ」と、おんどりがこたえました。「今日は マリアさまのひで、マリアさまが おさなごイエスさまの シャツをあらって かわかそうと なさる日なんだからね。ところが、明日の日曜日には、この家にお客がたくさんやってくる。そして、ねえ ひどいじゃないか。このわたしを スープにしろとおかみさんが、料理番にいいつけたんだ。 今晩、わたしはくびをちょんぎられてしまう。だからこうして なけるうちに、のどをふりしぼってないているのさ」
「それじゃ、あかあたまくん、わしらと一緒に いこうじゃないか。わしらはみな、ブレーメンへ いくところなんだ。どこにだって、死ぬよりましなことなら ころがっているさ。きみはいい声をしているし、わしらが一緒に 音楽をやれば、すばらしいものになるよ」
おんどりは、ろばのいうことが気にいったので、ついていくことにしました。でも ブレーメンの町は遠かったので とても、一日ではいけません。日が暮れる頃、大きな森へやってきたので、四匹は、森で、一晩をすごすことにしました。

 ろばと いぬは、大きな 木の下に 横になりました。ねこは その木の枝に のぼりました。けれども おんどりは、木のてっぺんに とびあがりました。そこが 一番 安全だと 思ったのです。
 それから おんどりは、眠る前に もう一度、四方八方を ながめました。すると、ぽつんと一つ、明かりがみえます。そこで 仲間たちに、明かりがみえるから、あまりとおくないところに 家があるにちがいないと、おしえました。
「それじゃ、いってみよう。ここは いごこちが よくないからねえ」と、ろばがいいました。
いぬは、「そこに 肉のついている骨が、二,三本あったら なおいいがなあ」と、いいました。
 みんなで 明かりのみえるほうへ歩きだしました。歩いていくと明かりだんだんあかるくなり、だんだん大きくなりました。そしてとうとう、こうこうと明かりをともした家につきました。
 そこはじつは 泥棒の家でした。
 一番体の大きな ろばが、窓にちかよって なかをのぞきました。
「なにか みえるかい、あしげくん」と、おんどりが たずねました。
「なにか 見えるかだって?」 ろばが こたえました。「すてきな食べ物や 飲み物が ならんでいる テーブルに、泥棒たちが ずらり すわって、ごきげんで 食べてるんだ」
「それが わたしたちのものだったらなあ」と、おんどりが いいました。
「そうとも そうとも。なんとかして そのテーブルにすわりたいね」と、ろばがいいました。そこで みんなは、泥棒をどうやっておっぱらったらいいだろうと相談して、とうとう いいことを思いつきました。
 ろばが まず 窓に前足をかけました。それから、いぬが ろばの 背中に とびのり、 ねこが いぬの背中に よじのぼりました。そして、最後に おんどりが 飛びあがって ねこの頭にとまりました。
 さて、すっかり用意ができると、4匹は、いち、にの、さんでいっせいに音楽をはじめました。ろばは、ひんひんとなき、いぬは大声でわんわんとほえたて、ねこはにゃあにゃあとわめき、おんどりは、こけっこうと、ときをつくったのです。それからみんなが窓から部屋の中へなだれこみました。窓ガラスががらがらと割れました。

 泥棒たちは、このものすごい叫び声を聞いて とびあがり、ばけものがきたのだと思って、びっくりぎょうてん、森の中へ逃げていきました。
 4匹の仲間たちは、テーブルをかこんでごちそうを食べること、食べること。このさきひと月食べないでいてもいいくらい、どっさり食べました。
 
 4匹の楽隊は、おなかが一杯になると 明かりを消して、めいめいにすきな寝床をさがしました。
ろばは、庭のわらのやまのうえに、いぬは戸のかげに、ねこは暖炉の あたたかい灰のなかに、うずくまり、おんどりは、屋根の上にとまりました。そして、みんな旅の疲れで、まもなくぐっすりと眠りました。

 さて、真夜中もすぎたころ、逃げ出した 泥棒たちは、ようやく家のあかりが消え、音も しずまったのに気がつきました。
親分は、「あんなに あわをくうのではなかったわい」と、いって、手下を一人えらびだして、家をさぐりに やりました。
でかけた手下は、家中 ひっそりしているので、台所にはいって、明かりを つけようとしました。そして、ぎらぎらひかる ねこのめを、まだ炭が燃え残っているのだと思って、そこへ、マッチをおしつけて火をつけようとしました。
 こうなると、ねこは すましていられません。泥棒の顔へとびかかり、ふーっと うなって、ひっかきました。
泥棒は たまげて 裏口から 逃げ出そうとしました。ところが そこに寝ていた いぬが とびおきて 足に がぶりと、かみつきました。泥棒は 庭へ出て、わらのやまのそばを かけぬけようとしましたが、ろばが 後ろ足で、ちからいっぱいけとばしました。
そのうえ、この騒ぎで 目をさましたおんどりが 屋根の上から、「こけこっこう!」と、大声でなきました。
泥棒は、無我夢中で 親分のところへ 逃げもどって こう 話しました。
「いやはや、あの家には恐ろしい悪魔のばあさんがいますぜ。そいつが、あっしに息をふきかけ、長いつめで 顔をひっかきやした。おまけに 戸口には、ナイフを持った男がいて、あっしのことを 突き刺しやがるし、中庭には まっ黒のおばけがいて、こん棒で、あっしをぶったたくんで。そのうえ、屋根の上には裁判官がいて、「「泥棒をつれてこい」」と、どなるんでさ。あっしはもう命からがら逃げ出してきやした」
 
 これを聞いて、泥棒たちは、二度とこの家に、よりつこうとしませんでした。
 そして、四匹の音楽家たちは、ここが、たいそう気にいったので、それからずっと、そこにすみつづけたということです。

 このお話は、いま、聞いたばかり。話してくれた人の口からは、まだゆげがたっていますよ。



 お話を語る場合、最初はテキストの選択からはじまるが、あまりあたりはじれ?がないのは、グリムの昔話。ただ、多数の訳がだされており、どれを選ぶかに悩む。
 どの訳にもよさがあり、いいとこどりをしていくと、わかりにくくなることもあって、私家版として整理しています。
 この話は、福音館書店の同名絵本、岩波少年文庫グリム童話集上、こぐま社の子どもに語るグリムの昔話4を参考にさせていただきました。


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