どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

おやじのおしえ・・東京

2023年10月03日 | 昔話(関東)

        東京のむかし話/東京むかし話の会編/日本標準/1970年

 

 裸一貫で大店をきづいただんなさんでしたが、それでもじっとしなくて、お客の応対や、庭掃除、ふきそうじにくるくるとよくはたらいていた。

 ところが、だんなさんのむすこときたら、地面にはいつくばるようのはたらくおやじをみて、「金をもって死ねるわけではなかろうに。ああしてまで金をためたいもんかねえ。あーいやだ、いやだ。この世に生きるのはたった一度っきり。のんびり金を使ってあそんでくらすのがいちばん・・」と、帳場から大番頭の目をかすめては、金を持ち出し、あそんでくらしておりました。

 ある日、ふところ手をしたむすこが、酒のにおいをしてかえってきたのをみただんなが、血相を変えてむすこにつめより、庭の真ん中にどんっとむすこをつきたおすと、松の木にのぼるように 怒鳴ります。むすこはおやじの剣幕におされて、しぶしぶ松の木にとりつくと、のぼりはじめました。「もっとのぼれ・・。もっとじゃ。」「へいへい。」

 まわりには番頭たちが口をあけみあげています。「こりゃーいいながめだわい」「こりゃ-。のぼれーっ」「へいへい」。「こんどは、そのえだにぶらさがれ・・っ」

 「いいか、よっくきけ。まず、小指をはなせ。「へいへい。」「つぎは、薬指をはなせ。」「へいへい。ちょっとあぶないな。」「こんどは、中指をはなせーっ。」「へーっ。おっとあぶない。」「こんどは、人差し指をはなしてみろ。」

 人差し指をはなしたら、おちてしまうと悲鳴をあげるむすこに、だんさんはいいます。

 「せがれや、その指のかたちをよっくおぼえておけ。それはなんのかたちじゃな」「お、お金ですよ・・っ」「わかったな。人差し指と親指で、まるくつくったもの。そいつをはなすと、おちてしまう。金は大事に使え。どんなことがあっても、はなすじゃないぞ。」

 番頭や手代は、いっせいにかんしんしていいました。「なーるほど、さすが、おやじのおしえ」

 

 あまり見られない昔話です。芥川龍之介に「仙人」という短編があります。仙人になりたいという男が、20年ただ働きをしたら、仙人になる術をおしえるといわれ、期限がくると、松の木にのぼります。木へのぼると、右手、左手を離すようにいわれ、そのとおりにすると、宙にうき、高い雲のなかへのぼっていってしまいます。昔話では、天からむかえがくる話もありますが、「おやじのおしえ」のほうがリアルでしょうか。


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