キバラカと魔法の馬/さくまゆみこ・編訳 太田大八・画/富山房/1979年
むかしむかし、ディキシという荒々しい巨人が、とある大きな村を、人びとも動物も、そっくりそのまま飲み込んでしまった。巨人は一つ目で、腕と足が一本ずつ。
ディキシのおなかから抜け出そうと、賢者が鉄を鍛えるときにつかうふいごで、火をおこしはじめた。おなかのなかで火が燃えあがったので、巨人はのどが渇いて水が飲みたくなり、沼へ走って、水をのみはじめた。ところが巨人のからだが、あまり熱くなっていたので、飲もうとするそばから水がどんどん蒸発し、一滴も巨人のおなかのなかには入らない。
巨人は、この沼はあきらめて、水をまんまんとたたえた別の沼に行くが、巨人が水を飲もうと口を近づけると、この沼もたちまち蒸発して、水はすっかりなくなってしまう。やがて六番目の沼も、同じようにすっかり干上がってしまう。
おなかのなかの賢者は、「このぶんじゃあ、あんたはとても、七番目の沼までいきつけないよ」と、巨人に取引をもちかけるが、巨人は賢者には耳を貸さず、七番目の沼のほうへと、はっていったが、途中で力がつき、倒れてしまう。
熱い砂の上に死んで倒れている巨人をみつけた村人たちが、「こいつは、あの賢者ムブクタの村を、そっくりそのまま飲み込んだディキシじゃないか。」と、ディキシのおなかをひらいてみることを決めました。
まず最初に呼ばれたのはライオン。ライオンが、デイキシの大きなおなかにかぶりついて、切りひらこうとしてみたが、どうにもかたすぎて歯がたたない。こんどはヒョウが呼ばれたが、鋭い爪も、うまくいかない。チータは、手に負えないと、見ただけで帰ってしまう。
ハイエナもハゲワシもうまくいかず、村人たちが、斧でディキシのおなかを切りひらこうとしたが、かたすぎて、どうにもあけられない。ゾウが、長く鋭い牙でおなかをつきさしてみたが、やっぱり、あけることはできなかった。
村人たちが思いあぐねていると、小さな赤い鳥が飛んできて、すぐ上の枝で「アワの ごちそう くだされば わたしが おなかを あけましょう」と、歌を三度繰り返します。
村人たちが、赤い小鳥のために、アワをたいてやると、もっていた薬とアワで、なんとなんと、ディキシのおなかは、ばっくりざっくりとひらき、たくさんの人々や、家畜や、ゾウやヤギや、その他の動物もどっさり出てきたのだった。
目が一つ、腕と足が一本ずつの巨人が村をそっくり飲み込むでだしに、びっくり。沼が蒸発するのが六回。さらに動物たちがでてきて、小さな鳥が救い主になるという、まさにアフリカらしい話です。