どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

かしこい証人・・ポーランド、ゆで卵からヒヨコはかえらない・・プエルトリコ

2020年12月22日 | 昔話(外国)

かしこい証人(世界むかし話 東欧/松岡享子・訳/ほるぷ出版/1989年)

 一人の若者が旅の途中、とある宿屋に泊まって、朝ご飯にゆでたまごをいくつか注文しました。

 宿屋の主人は、まっていましたとばかり、ゆで卵を一ダースもってきて、代金は、こんど、あたなたがとまるときに払ってもらえばいいといいました。

 なかなか親切な宿屋とおもったかどうかは定かではありませんが、それから二年たって宿屋の主人から請求書が届きました。

 その請求書には、一ダースの卵から生まれるはずだったはずのヒヨコの代金、さらに、そのヒヨコがうむ卵、その卵からかえるヒヨコと、二年間のわたってなんどもくりかえされる卵とヒヨコの代金が全部つけてあり、その総額は莫大な額になっていました。

 請求書を追いかけるように裁判所から通知がきて、代金未払いのかどで、裁判にかけられました。一ダースの代金なら喜んで払うと若者はいいましたが、裁判官は若者の訴えを受け入れません。若者は、この事件を上告しましたが、証人がいません。二年前、だれがその場にいたかなど覚えてもいませんでした。

 裁判の前の日、若者はひとりの老人にあい、証人になるといわれます。

 裁判の日、老人はあらわれず、証人がいないので裁判官はすぐに判決を読み上げようとしました。そのとき扉が開いて老人がはいってきました。

 老人は「でがけに大事な仕事があったもんで。そいつがまた、やっかいな時間を食う仕事でしてね。畑にまく豆を三十ブッシュルほども煮なくちゃならなかったですよ」

 すると裁判官は「年をとりすぎて、ぼけたのか。煮た豆が芽を出すわけがなかろう」と、いいます。これをうけて老人は「さよう。ならば、ゆで卵についてもおなじことがいえましょうが。」「ゆでたまごから、ヒヨコがかえりますかな?」。

 裁判官は、この理屈の正しさを認めないわけにはいかなかったのです。

 昔話では訴えられた方が勝利します。お年寄りの知恵をあなどってはいけません。

 

ゆで卵からヒヨコはかえらない(ラテンアメリカ民話集/三原幸久・編訳/岩波文庫/2019年)

 プエルトリコとポーランドは、だいぶ離れていますが、こちらのタイトルが明快でしょうか。

 ひとりの貧しい男が、金持ちの店で、ゆで卵を三個とバナナ一本をたべ、代金は貸してくれるよう頼みます。この男が別の地主のところで四年間働き、卵を食べた店に代金を払おうとします。店の主人は、三個の卵から、いかにおおくのメンドリが利益をあげるかを計算し、四年間の代金は800ペソといいます。男が四年間働いてもらったのは400ペソでしたから足りません。男はもう一度、前の地主のところで働こうとしますが、警察に相談するようにいわれました。そのとき一緒に働いていた友人が裁判の弁護をかってでます。

 裁判官が裁判をはじめようとしますが、弁護人はあらわれませんでした。

 男が弁護人をよびにいって裁判官の前にあらわれると、弁護人は「種をまこうと思って、インゲン豆をいっていた」といいだします。

 裁判官は、「ばかなことをいうな。いったいどこの世界に、いったインゲン豆を、畑にまく人があるだろうか。」というと、弁護人は「いったいどこの世界で、ゆで卵からヒヨコがかえるでしょうか。」といいかえし、裁判は店の主人の負けと決まります。


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