北海道のむかし話/北海道むかし話研究会編/日本標準/1978年
アイヌの昔話です。”パナンペがいた。ペナンペがいた”と はじまります。
ペナンペ(川上の者)はまじめな働き者で、やさしい心の持ち主。一方、パナンペ(川下の者)はなまけ者、ひがみやで意地のわるい男。
<海の水を飲むほす>
パナンペが、ペナンペをやりこめようと、魚をすっかりとるため海の水を飲みほしようにもちかけます。
「それは勘弁してくれ」とあやまるだろうと思っていると、ペナンペは「海の水だけならすぐにも飲みほしてやろう。けれど、あそこの川からも向こうの川からも、川の水が流れてくるので困る。お前がまえもって、川の水を全部せきとめて、一滴も海に流れ込まないようにしておくれ。」と、切り返しました。
<キツネがり>
ペナンペが河原の石の上に死んだマネをして、ねころびました。そこへキツネがやってきてパナンペのからだをゆすりますが、ペナンペはじっとがまんします。しばらくして、からだの下にかくしておいたこん棒で、キツネどもを打って打ちまくり、たおれたキツネの肉を毎日食べ続けます。
話を聞いたパナンペもおなじようにします。キツネが、わきの下やら首のまわりをかぎまわったので、がまんしきれず目をあけてしまいます。ペナンペが、こん棒でキツネを打とうとすると、キツネはいっせいにとびかかったり、ひっかいたり、かみつきます。
<金の犬と銀の犬>
ペナンペが川で釣りをしていると、カラスがやってきて「魚を一匹くださいな。」というので、ペナンペは、魚の中でいちばん大きなやつをつかんで、川の水できれいに砂をあらってカラスにあげます。
魚をとりながら川を上っていくと一軒の草ぶきの家がありました。ひと休みさせてもらおうとすると、金と銀の子犬がじゃれついてきました。そして、家から黒い着物を着た若い女がでてきて「おや、先ほどはありがとうございました。おかげでうちの年よりが、よろこんでいただきました。」といって、ていねいにもてなしました。
帰り際、黒い着物の女が金の犬と銀の犬のどちらかをつれていくかたずねます。ペナンペは銀の犬とウバユリだんご二つをもらい帰り道につきました。しばらくして子犬がなくのでウバユリだんごを一つやり、二つやりしながら歩くうちに、ペナンペの食べるウバユリだんごはなくなってしまいます。その夜、音がするのでペナンペがおきてみると、金のおかね、銀のおかね、美しい玉が部屋いっぱいにあり、銀の子犬のすがたはありませんでした。
パナンペも宝物を手に入れようと川へ出かけると、そこへカラスがやってきて魚をいっぴきくれるようといいます。パナンペは、いちばん小さな魚を、泥だらけのまま、投げてあげます。ここから先は同じような展開ですが、パナンペがもらったのは金の子犬。そしてはらをすかした子犬に、だんごをあげることもしません。
夜中になって音がするので、よろこんだパナンペがよくみると、ごつごつした砂と岩だらけ。さらっては捨て、とっては投げたが、きりがありませんでした。