・夢見小僧(子どもに語る日本の昔話①/稲田和子・筒井悦子・著/こぐま社/1995年初版)
でっかい庄屋で働いていた灰坊太郎。
正月二日に、旦那さんが家で働いているおおぜいのものをあつめて、いい夢を見たら銭をだして買ってやるからと話します。
翌日、ということは正月三日。番頭から順に見た夢を話します。ところが灰坊だけは夢の話をしません。
旦那が高く買うから聞かせろといっても話しません。
灰坊は川流しにあってしまいます。灰坊がはいっていた箱が岩にぶつかって壊れ、岩の上で日なたぬくもりしていると、そこにあらわれたのはカッパ。
カッパは水の上をツーイツーイとあるきだします。カッパは川たびをはいていたのです。
灰坊は、カッパの川たびをかりると水の上を歩き回ります。
カッパが川たびを返せと言っても、灰坊は「面白くて返せない」と返そうとしません。
カッパは、川たびのかわりに針を二本くれます。
死んだ者を生き返させる生き針、生きている者を死においやる死に針でした。
もとの庄屋の家の方に帰る途中、ある村の金持ちの娘が重い病気で、たったいま亡くなったところにであいます。
ぼろを着ていた灰坊はとても信用されませんが、とにかく頼み込んで、生き針で娘を生き返させます。
なにかの縁だから婿になってもらいたいと頼まれますが、おれは人助けをして歩く人間だからと、これを断って、旅を続けます。
するとまた金持ちの家で、おおぜいの人が泣いています。ここでも一人娘が亡くなっていました。ここでも娘を生き返させた灰坊は、婿になってくれるように頼まれます。
これも断ってかえったところに、二人の娘がやってきて、婿になってくれとどうしても帰りません。
すると灰坊は、二人に両手を引っ張ってもらって、よけいに引っ張ったほうの婿になると、橋の上に立ちます。
どちらも力が同じくらいで、なかなか自分の方に引き寄せることができません。そのうち、一方の娘が、この人の手がぬけたらかわいそうだと、握っていた手を放します。
すると、灰坊は手をはなした娘のほうが情があると、手をはなした娘と結婚することに。
「夢見小僧」の最後は、育ての母親と実の母親が、子どもをめぐって、手を引っ張り合うところを思い出させますが、納得できる結末です。
ところがおなじ「夢見小僧」でも、月の前半は朝日長者の娘婿となって東のお屋敷で暮らし、月の後半は夕日長者の娘婿として西のお屋敷で暮らすというのもあります。
こぐま社版では、夢を話さないとすぐに川流しにあうのですが、あれれという感じ。
ところで、この「夢見小僧」は各地に分布して、こまかなところではいろいろです。
こぞうのはつゆめ/てのひらのむかしばなし/長谷川摂子・文 長谷川善史・絵/岩波書店/2006年
おしょうさんと、ちりん、ほこりん、もっこ-そーと、楽しい名前の小僧さんがでてきます。
おしょうさん、めでたい初夢をみても、誰にも言うなといっておきながら、上の二人には、甘い言葉をかけ、初夢を聞いてしまいます。
ところが、もっこ-そーは、こづかいやる、まんじゅうやるといっても、「やんだ やんだ」と、どうしても話しません。
おこった和尚さん、もっこ-そーを箱に入れて、川に流してしまいます。
どんぶらどんぶら流れて着いたところは、鬼が島。
鬼も、初夢を聞きだそうとしますが、ここでも もっこ-そーは、だんまりを続けます。
どうしても聞き出したい鬼が、短い針をちくっとさすと、コロッと死ぬ、長い針で ちくっと させば 死んだ人でもコロッと 生き返る針で、夢と とっかえっこ しようとしますが、これではまだまだ。
鬼は次に、千里走る車と、二千里走る車を持ってきますが、もっこ-そーは、のってみないと うそか わからんと 鬼が島を脱出。
このあと、朝日長者の娘、夕日長者の娘の命を救い、二人の婿になるという、うらやましい結末。
絵が長谷川善史さんで、文も長谷川さんとあるので長谷川摂子さんで検索してみたら、摂子さんは67歳の若さで亡くなられていました。「てのひらのむかしばなし」を、楽しく読ませていただいているので、まだまだ、活躍してもらいたかった方です。