お化けは、音もなく現れるかと思うとそうでもありません。
・宝化け物(子どもに語る日本の昔話3/稲田和子・筒井悦子/こぐま社/1996年初版)
化け物がでるという古い空き家に、武者修行のさむらいが泊まっていると、黄色い裃、白い裃、赤い裃を着た化け物があらわれます。
さむらいが、「ありゃいったいなにもんだ」と問い詰めると
「この家は昔、たいそうな分限者の屋敷じゃった。床下には大判、小判やたくさんの金をつぼにいれて埋けてあるんじゃが、今では誰も床下の宝のことなんか知らんとです。黄色い裃をきたのが金の精、白いのが銀の精、赤いのが銅の精でござります」という。
「早く世の中にでて、人々を喜ばせたいと思っても、自分の力ではそれができず、今まで苦しんじょった。あんたの力で、わしらをほりだしてくれないか」という つぼの精。
おさむらいは一人じめすることなく、その宝を村の人にあげます。
大分県の話で、分かりやすい方言ですが、今の子に、”裃”がうまくつたわるかが心配です。
・テイテイコヅチ(徳島のむかし話/徳島県教育会編/日本標準/1978年)
何人も泊まり込んだ人が、お化けに食べられてしまうという古寺に泊まり込んだぼうさん。
荒れ果てた寺で、台所のかまどのおおきな釜にかくれていると、トウリのバコツ(東里の馬骨)、サイチクリンのケイサンゾク(西竹林の鶏三足)、ナンチのリギョ(南池の鯉魚)、ホクザンのビャッコ(北山の城狐)がやってきて、食べられそうになり、「化けもんは明るい間はばけられん。朝がきたら、消えてしまうにちがいない。」と、ぼうさんが、ニワトリのまねをすると、化け物が、朝がきたとおもってあわてて帰ってしまいます。
つぎの日、ぼうさんが元気ででてきたので、よろこんだのは村人たち。
聞いたことがない化け物ですが、ちゃんと意味がありました。村人は、東の道端の馬の骸骨、西の竹林の三本足の鶏、南の池の鯉、北の山の白い狐をつかまえてきて、お経をあげ、全部焼いてしまいます。
村の人は、お寺を修理、掃除をして、ぼうさんに 住職になってもらいます。
・トントントン ていていこぼしは おやどにか(高知のむかし話/土佐教育研究会国語部会編/日本標準/1976年)
徳島版とほぼ同じですが、化け物が身の上話をするので、わかりやすい。
東里の馬骨ー殿さまに目をつけられ、むちゃくちゃとりあげられ、なんべんも戦に出たが、おしまいの戦で目に、矢が突き刺さると、山に捨てられ、寺の東の方の道端でいきだおれになってしまった。
西の林の鶏三本足ー三本足のニワトリに生まれ、飼い主に竹やぶにすてられて、なんとか生き延びたが、ある時、人間につかまり、食べられてしまった。
北山の白狐ー五匹の子ぎつねが、犬に襲われ、わたしも胸に一発弾を受けてたおれ、子ぎつねは、犬に食い殺されてしまった。
ぼうさんは、骨を集め、化け物の魂を鎮めるために、ぎっちりお経をあげてやります。
楽しいのは、化け物の登場の仕方。「宝化け物」では、裃を着た化け物が「さいわい、さいわい、さいわい」と三べんとなえ、この繰り返しが九回。
「テイテイコヅチ」では、「テイテイコヅチは、おうちにか。」と、音を立てて登場。
高知版では、「ていていこぼしは、おやどにか」。
どんな意味かと考えずに、リズムを楽しむことでしょう。