外国の類例をみたことのない日本の昔話。
・鳥呑みじさ(かもとりごんべえ/稲田和子編/岩波少年文庫/2000年)
山へ焼き畑を打ちに行ったおじいさんが、くたびれて、鍬に寄りかかっていると、可愛い小鳥がきて桑の柄にとまると、「アヤチュウチュウ コヤチュウチュウ ニシキサラサラ ゴヨノサカズキ タベテモウソウ ウンピンカラリン ピピラビー」と鳴きはじめた。つぎにじいさのベロの上にとまって、同じように鳴いたので、じさは、こらえきれなくなって、ついペロリと、小鳥をのんでしまった。
ひとしきりして、へそのあたりがむずむずして、鳥の羽根がはえていた。じさがなんの気もなしに、羽根をひっぱたら、また、「アヤチュウチュウ コヤチュウチュウ ニシキサラサラ ゴヨノサカズキ タベテモウソウ ウンピンカラリン ピピラビー」と、腹がなった。ばあさまに話すと、「こんげに珍しいことはないから、殿さまにおきかせしたらいい」と、殿さまの行列を待って、木の上から鳥の羽根をひっぱると、まことにいいへがでて、ほうびに お金をいっぱい もらい、それからは身上がよくなって、一生安気に暮らしたと。
・鳥のみじい(鳥のみじい/子どもに贈る昔ばなし13 桃もぎ兄弟/小澤昔ばなし研究所/2012年初版)
各地の昔ばなし大学再話コースで、再話されたもの。土地言葉がうまく生かされているようですが、やはりすんなりとはいかないようです。鹿児島版「鳥のみじい」では、屁とともに「ホーホケキョ ホーホケキョ」と鳴くもの。
ほかの「鳥のみじい」では、舌にのった小鳥をおもわず飲み込んでしまうが、ここでは、弁当を忘れたおじいさんの前で、鳥(うぐいす)がバタッとたおれたので、おじいさんが焼いて(というから焼き鳥か)食べる。
すると屁をひろごなってきて、屁をひくと、ブッといわんで「ホーホケキョ ホーホケキョ」と鳴く。
やがてこの鳴き声で一儲け。
隣のじいさんが、同じことをすると、臭い屁で怒った男が、たたっちらけたという。
「ひろごなってきて」、「たたっちらけた」は、リズムでわかるが・・・・。
・鳥好きじいさん(福島のむかし話/福島県国語教育研究会/日本標準/1977年)
じいさまが呑み込むのはシジュウカラ。へそに出てきた羽を引っ張ると、「ツンツン カラカラ、ヒューヒューッ。」
面白い鳴き声だからと見世物小屋につれていき、子どもらに引っぱらさせると、やっぱし、「ツンツン カラカラ、ヒューヒューッ。」と鳴く。そうしたら大人たちもやってきて羽を引っ張り、金はいらないというじいさまに、お金をいっぱい おいていきます。
火を借りに来た隣のじいさまも、まねをしますが、子ども、大人が羽を引っ張っても、いっこうに鳴きません。面白くないと誰も金をおいていきません。
じいさまはシジュウカラに、おまんまをあげて大事にしていたが、隣のじいさまは、ろくに食べ物をあげず、呑み込んだのでした。
・シジュウカラ(兵庫のむかし話/兵庫県小学校国語教育連盟編/日本標準/1978年)
タイトルだけではわかりにくいが、同型の話。
シバかりにいったおじいさんのべんとうを、シジュウカラが食べはじめたので、おいはらったおじいさん。
おじいさんが、おべんとうにシジュウカラの”ふん”がついていたのを知らずに食べると、しばらくして、おじいさんのおなかのなかが、ぐるぐるにぎやかになって、つぎからつぎへとおならがでてきた。
「シジュウ ドンガラ ドンカラ カアカ スッポンポン シジュウガラ ピイッピイ」と、シジュカラの鳴き声と ようにとったそうな。
鳥の鳴きかたが、語る人によってさまざなリズムがあって、そのリズムに引き込まれました。しかしこの鳴き声もさまざまです。
・新潟県牧村の昔話(松浪久子 岩瀬 博 編著/和泉書院/1998年初版)では、同じ村でも語る人によって微妙に違っていました。
「あややちょうちょう、こえやちょうちょう、こがねざらざら、こえのしょうじき、ぴぴらぴっともしょたえな」
「あややちょうちょう、こえやちょうちょう、ほがにさらさら、こいのしょうじき、ぴぴらぴっとしったいの」
「あややちょうちょ、こえやちょうちょ、こいのしょうじくぴぴらぴっともしょたえな」
たまたま、この本では語り手がことなる同じ話が三つのっているので、わかりやすいのですが・・・。
・子どもに語る日本の昔話2/稲田和子 筒井悦子/こぐま社/1995年初版)
「アヤチュウチュウ コヤチュウチュウ ニシキサラサラ ゴヨウノサカズキ モッテマイロウカ ビビラビン」
・日本昔話大成4(関 敬吾/角川書店/1978年初版)
「綾チューチュー コヤチューチュー 錦サラサラ 五葉の松 タベテ申せば ビビラビーン」
・日本の民話11 (越後・佐渡編/未来社/1977年初版)
「あや ちょうちょう、こや ちょうちょう、こがねさらさら ごよのよざかり キミラピー」
・日本昔話記録4(新潟県南蒲原郡昔話集/柳田國男編 岩倉市郎採録/三省堂/2006年)
アオアオワ チヨチヨ 五葉の宝松 チンチクリン
・群馬のむかし話(群馬県昔ばなし研究会編/日本標準/1977年)
「オチャピンチャンプー」というタイトル
「きみのごゆわい、オチャピンオチャピンプー」
・さて さて、きょうの おはなしは・・(瀬田貞二再話/福音館書店/2017年)
「あやちゅうちゅ こやちゅうちゅ にしきさらさら ごようのまつ こがねざらざら びびらびんちょん」
瀬田さんの再話には、よくばりじいさんもでてきますが、その鳴き声。
「びっきべっき、ぐうちゃぐちゃ こいしころころ、あかいべべ おおいしごろごろ、うんざりこん」
・ガイドブック日本の民話(日本民話の会・編/講談社/1991年初版)
これだけではなくじつにいろいろです。
「ちちんぷいぷい、ごようの御宝」福島
「ちちんぷよぷよ、ごようのおんたから、ちゅうちゅう」長野
「ひょうがらぶんぶん、ひょうがらぶん、びんびん、そこそこ、にっきりこ、黄金の音もぴりりや、ぱらりやぷうー」大阪
「ちんぷんこがねや、あわやおててこ、おちちんぷんぷん」高知
「ちんかん千代鳥、ちんかんぽん」愛媛
「ちちんぷんぷん黄金のまんじゅは、すととんとんりゃどどんがぶーん」(熊本)
鳥の鳴き声は、語り手の方が楽しみながらいろいろ工夫されたのでしょうか?