トルストイの民話/トルストイ 藤沼貴・訳/福音館書店/1989年初版
トルストイの思想があらわれている民話。
二人の兄弟は人がとどけてくれる物を食べて暮らしていました。
二人は貧しい人のために朝から晩まで働きずめ。
病人やみなしごや夫に死なれた女がいると、兄弟はそこにいって働き、お礼はもらいませんでした。
普段は別々に過ごし、日曜日だけはふたりとも家にいてお祈りをしたり、話をしたり。すると天使がふたりのところに降りてきて、祝福をあたえてくれました。
ある月曜日、兄弟は別々の道をあるいていましたが、兄はかわいい弟と別れるのがつらくて、うしろをふりかえります。すると弟が何かをみつけたように、じっと手をかざして離れた所を見つめ始めると、急にわきにとびのいて走り去ります。
兄が不思議に思い、そこにいってみると、草に上に金貨の山があります。兄は弟がなぜとびのいたかふしぎでした。
兄は、金貨に罪はないと、金貨をもちかえると、町の中に土地をかい、三軒の家をたてます。
一軒目は夫を亡くした女とみなしごを住まわせるための施設。
二軒目は病気や体の不自由な人たちのための病院。
三軒目は、浮浪者や物乞いをしている人たちの家。
兄は信仰にあつい老人をみつけて、三軒の家を取りしまりをさせます。
そして残った金貨は貧しい人に直接てわたしします。
兄は自分のした方がいいはずと考えましたが・・・。
ところが天使がいうことには
「でていけ。お前は弟と暮らす資格がない。弟は金貨のそばから飛びのいた。お前が金貨を使ってやったことより、尊いのだ。」
兄がどれほどたくさんの人を世話をしたか話しはじめると、天使はさらにいいます。
「お前を誘惑するために金貨を置いた悪魔が、お前に今の言葉をいわせたのだ」
そこで、兄は良心がめざめ、自分の間違いに気がつくのですが・・・。
トルストイは民衆に根差した独特の信仰を人々に伝えること、その信仰を実践することに全量をそそいだといいます。
そして軍隊や税金を否定し、ロシア正教会から破門されます。
82歳の時、自分の主張を実践するために家も財産も捨てて家出をし、旅の途中で病気になり、小さな駅で生涯をとじています。
自分では、当たり前と思っていたお金について根本的な疑問をなげかけています。