来週の12日になれば、この風景に牛の姿が加わる。入牧したばかりの牛たちはまだ畜舎での汚れ、それを「鎧」と呼ぶ人もいる、を付けていても、1ヶ月もすれば雨風に洗われ、ホルスは白黒がスッキリとして緑の草原に映える。和牛も来るが、たった1頭しかいない種牛の雄牛は、よりふてぶてしくなるだろう。
そのころになれば調教も進み、呼べば牛たちは大きな身体をゆすぶって走ってくる。自由と引き換えにではあるが、昼夜とも完全な野外、塩以外は牧草だけとなる。それでも、恐らく自由の方がいいだろう。これからの梅雨の時季、それに秋の長雨や台風には、人も牛と同じく気を抜くことができない。
最近の牛の繁殖方法はもっぱら人工授精が主流であるが、ここ入笠牧場では自然交配しか行っていない。そのため種牛である雄の和牛の役割、責任は重い。もっともこれは人間の勝手な考えであって、牛はそんなことはお構いなしだ。本能のまま行動しているに結果に過ぎない。
自然交配の場合、まずは大人しい牛であることが大事な条件である。狂暴な性格で、人間が襲われるという事故がままあるからだ。その点では、以前にいた「雪豊」、通称マッキーは、種牛としての評価はさて置き、扱いやすい牛で安心して接することができた。
残念ながら、病気を発症して殺処分されてしまい、その後釜として来た種牛は、大人しいとは聞いていたがそうでもなかった。環境が変わったせいもあってか、何度か威嚇するふうを見せたことがあるし、それでコンサルタントのY氏は冷や汗をかかされたこともあった。その種牛が今年も上がってくる。
霧ヶ峰、遠く美ヶ原、雲に隠れた北アの上に大きな青空が広がっている。下からは、これから長く続く鬱陶しい季節を前に、エゾハルゼミが今は初夏の午後を一番謳歌しているように鳴いている。その声を聞くともなく聞かされる者は、つい眠気を催す。
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