天気:快晴、気温:零度(昼)
山は雲ひとつない素晴らしい天気。風もまったくない。ただし牧場に入るまでは、ほとんど日の射さない林道をひたすら歩く。前日につけた車の跡も貴婦人の丘までで、そこからは気持ちのよいパウダースノウの上を快調に行く。富士見方面と戸台方面に分岐する弁天前の三叉路には、この時期例年だと富士見から登ってくる猟師の車の轍があるものだが、今年はいつもより早い大雪で、それもない。北アルプスは北部の三国境辺りまで見え、中でも穂高と槍がほどよい位置におさまっている。
小屋までは1時間半から2時間位とみていたが、実際には2時間を10分ばかりオーバーして、昼を少し回っていた。冷え切った部屋のストーブを点け、早速ビールを飲む。朝あまり食べずに来たから、空腹に効く。室内が暖まるまで外に椅子を出して、周囲の見慣れた風景を眺めるともなく眺める。小屋の周囲にはいろいろな動物の足跡が残っているが姿は見えない。前回来たときは、小鳥が幾羽も忙し気に小梨の枝の間を飛び回っていたが、その姿も今日はない。
当初の2泊の予定なら、2日目を好きなだけ使って周囲を歩き回ればよいが、1泊だけとなると何もしないで小屋の中にいては勿体ない。まだアルコールのぬけない身体に、無理してそう言い聞かせる。そして面倒な支度をして、第1牧区へ行ってみることにした。二重靴を履き、スパッツを付け、スノーシュー(ズ)を履いて、手袋だ防寒衣だと・・・。そのとき撮った写真が、昨日の3枚と今日の1枚である。4枚の写真が多くを語ってくれるだろうから、余計なことを言うのはよそう。
夜が来た。オリオン座が東の山から時間をかけて登ろうとしている。目が慣れるまで外にいるのが、高所用の羽毛服を着ていても堪える。気温はマイナス10度かそこらだ。情けない。
穏やかだ。聖夜に相応しい。何かしたいとも、しようとも思わない。それでいて、いい夜が満ち、溢れ、酔いとともにゆっくりと過ぎてゆく。
翌朝早くに、電話で天気が下り坂だと知らせてもらう。
「祭は終わった。蕩児の帰還の時が来た」と、あの作家は言ったものだ。登ってきたときに残した雪の上の足跡をたどりつつ、また同じ道を帰ろう。
ど日陰の曲りを少し下ると、そこまで除雪がされていてまたもや驚く。ここからだと、小屋まで1時間と少々で行けそうだ。後で知ったことだが、高遠興産の間伐は、その辺りの谷だという。また来よう。山の方がよく眠れる。