入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

冬山の夕暮れ

2015年01月08日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 夕闇がそこまで迫ってきていたが、急ぐことはなかった。ただ気持ちの上では、この日はもう充分に雪の上を歩いたから、早く小屋に入ってゆっくりとしたかった。
 小屋へ至る雪道は緩い下りが続く。さっきまで時折突風のような風が吹いたが、いつしかそれも止んでいた。厳冬期の山の静かな、音の消えてしまったような夕暮れだった。足跡の消えたふかふかした雪を、膝まで潜りながら薄闇の中を進んでいた。ふと、雪面に幾本かの小梨の影が生まれた。折しも東の山際から昇ったばかりの凍てる冬の月が、黄色い光を放ち、影絵を作り出したのだった。
 つられるようにして一息入れた。色の薄い銀色の冬空が闇の中にゆっくりと消えようとしている。その一瞬、最も深い静寂が襲ってきた。張りつめた冷気の中で、時間さえも止まってしまったかのような沈黙だ。圧迫されるほどの孤独感の中で、引き込まれるような無音の底深さだけを感じていた。「歯に沁みるような孤独」だと、あの人は言った。
 
 再び、今度は自分の影も連れて、判然としない雪原を進む。しばらくすると見慣れた小屋が、林の手前にぼんやりと見えてきた。暗い淋しい小屋だ。雪の重みになんとか耐えていたが、何年か前の大雪の年は、雪の重みで入口の戸を開けることができなかった。
 灯りの点いていない冷え切った小屋を開ける。上手く開いた。靴を脱ぎかけると、指に付いていた雪が融けて手を冷たく濡らす。ストーブを燃やし、雪を融かし・・・、そして長い時間が過ぎてようやく、何もしなくてもよい夜が来た。冷え切ったビールを開けて、飲む。同時に2分30秒、レンジで燗をした日本酒も呑む。この小屋なら、山にいても酒の流儀だけは変えないですむ。しかし、あれほど心に沁みた「冬の山の夕暮れ」に続くはずの感動的な小節も、旋律も、その夜はかすかにしか聞こえてこなかった。

 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては、昨年の11月17日のブログなどをご覧ください。
 Chiyさん、K.ママさん、メッセージありがとうございました。
 
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
«       アサンジ・アジ... | トップ |         牧人の休日... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

キャンプ場および宿泊施設の案内など」カテゴリの最新記事