歌舞伎座夜の部へ。
「石切梶原」 よく出る狂言。何度も何度も、飽きるほど見てきた。吉右衛門、仁左衛門、富十郎らの名舞台が強く印象に残っている。比較してしまうと、今回の幸四郎は、正直面白くなかった。爽快に、ぱぁっと発散するものが無いのだ。愛嬌の無さ、ハラの薄さはこの人の弱点だろう。決して下手ではないんだげど。初役に挑んだ歌六の六郎太夫と愛之助の俣野五郎が収穫。
「二人道成寺」 一昨年に話題となった玉三郎&菊之助のコンビで、早くも再演。わが家では前回上演時の舞台写真をしばらく玄関先に飾っていたぐらいだから、今回も夫婦共々楽しみにしていた。さらに工夫が凝らされ、練り上げられていた。「花子&桜子」ではなく「ダブル花子」という設定が活きていた。花子自体がそもそも霊的な存在なのに、さらに幻の花子を重ねるというとことん重層的な世界。時に一体化し、時に別人格化して女同士のエロティックな絡みを見せる。人間がこんなにも美しいものを表現できるとはと、男の私でも感嘆。歌舞伎としては、俗に堕するぎりぎりのところなのだが。
「小判一両」 これは久しぶり。見るのは3回目。テーマが今の時代に合わないのではとの見方を持っていたのだが、今回はわりと納得できた。こっちも年取ったせいか・・・。宇野信夫って、やっぱりセリフが良く書けてるなぁ。なにより当代の「菊・吉」に田之助を配した配役の良さが大きい。吉右衛門&菊五郎で見たい物はいっぱいあるのになかなか実現しないのだ。吉右衛門&仁左衛門も、吉右衛門&幸四郎も、そう。幕内の諸事情やら人間関係やらいろいろあるのだろうが。
終演後、楽屋口で吉右衛門に出くわしたが、迎えの車にも乗らず、携帯で誰かさんと楽しそうに話しながら、一人でうきうきと足取り軽く昭和通りの夜の帷の中へ去っていった、というのは全くの余談です(笑)。
camera: Olympus μ2 film: Konica JX400