越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

ロベルト・コッシーのキューバ紀行ーー2015年(2)男女の付き合い方

2015年10月04日 | キューバ紀行

(写真:サンテリアの入門者であるイデ=腕輪を見せる少年@ハバナ旧市街)

男女の付き合い方

越川芳明 

 ハバナのような大都市では、子供の数が多い。セントロと呼ばれる街の中心部を歩いていて、なんとなく活気を感じるのは、そうした若い熱気が溢れているからだろう。十代後半で子供を産んでいる女性も少なくない。日本には「子宝」という表現があるが、キューバにも「子どもは、最高の家宝である」という格言がある。

 ところで、キューバ人は一生のうちに何度くらい結婚し、離婚しているのだろうか? 

 身近にいる友達を見ていると、一生のうちに、少なくとも3~4回は伴侶を替えているような気がする。キューバ人の平均寿命は、男76歳、女80歳なので、子供が産めるのをだいたい16歳以上とすると、だいたい16~20年に一度は結婚相手を替えていることになる。もちろん、これは一般論であって、都市部のインテリ層や貧困層では、パートナーを替える頻度は平均値より高くなるかもしれない。

 面白い統計がある。キューバ人の離婚率を扱ったものだ。ハバナ大学人口統計学研究センターのマリア・エレーナ・ベニテス研究員によると、1970 年には 結婚した100 組につき 22 件余の離婚があったが、1981 年には 39 件、2009 年には 64 件と増えた。つまり、離婚率は1970 年から 2009 年までに、ほぼ 3 倍になったという。結婚したカップルの6割以上が離婚しているのである(1)。

 スペインやイタリア、南米の諸国では、カトリック教会で結婚をすると、あとで厄介なことになる。カトリック教会が離婚を認めていないからだ。キューバ社会も、革命(1959年)以前はカトリック教会の支配が強い家父長制社会だった。そんな社会では、結婚は女性にとって、一種の「就職」だった。女性は経済的な安定を得るために結婚したのだ。「革命前の結婚は、愛情でするわけではなかったから、逆に長くつづいた」。そういう逆説を述べるのは、私の親友で、彼自身これまでに5度結婚したというマリオ・ピエドラ教授(ハバナ大)だ。

 だが、革命後、富裕層と結びついていたカトリック教会は権力を失う。結婚や離婚は公証役場への届け出だけで済むようになる。しかも、革命社会は、貧富の差をなくすことをめざし、女性の社会進出をうながす。カトリック教会の「倫理」や、生活の糧というくびきもなくなり、女性が経済的な力をつけ、離婚し易い社会へと移行する。結婚は「打算」ではなく、愛情だけでするようになる。愛は熱しやすく冷めやすい。

 身近にいる若いカップルを例にとってみよう。ハビエル君(22歳/1993年生まれ)は、キューバ生まれの白人で、4歳のときに両親と共にコロンビアに移住。ボゴタ育ちだが、国籍はキューバだ。両親は離婚し、母親と共に2008年に帰国。父親はいまフロリダのタンパでハビエルの祖父と住み、レストランで料理人をしている。ハビエルは一度米国で暮らしたことがあり、グリーンカード(永住権)も取得。だが、移民したいとは思わない。母親はリゾート地に家を建て、観光客向けの民宿を経営する予定。ハビエルは年に20度くらい、外国に女性服やアクセサリーの仕入れに出かける。

 一方、アンナさん(25歳/1990年生まれ)は、英語も話す頭の回転の速い早い白人女性。大学では心理学を学んだという。両親ともに医者だ。母親は麻酔医としてベネズエラに派遣されたあと、米国のネブラスカ州オマハへ移住。父親はハバナで整形外科医をしている。彼女は、ハバナの郊外ボジェロ地区にあった祖父の家を相続している。ハビエルとは約1年の付き合いで、いわばビジネスパートナー。ハビエルが海外で仕入れてきた服などを、彼女が女性のネットワークで売りさばく。夢は結婚と子供を作ること。実は一度、祖父の家を相続するために書類だけの偽装結婚をしている。子供も、いままでカネ稼ぎで忙しく作っている暇などなかった。来年の9月にハビエル君と結婚し、海外にに仕入れを兼ねてハネムーンに行く予定という。

 これまでの革命社会と違い、二人のあいだには「商売」という思惑が絡んでいる。だから、その思惑がうまく行っているかぎり、二人の関係は安泰かもしれない。いま、キューバでも個人ビジネスが解禁になって、そうしたカップルが増えてきているように思える。

 註

1 サラ・マス(安井 佐紀訳)「キューバ式離婚事情」、キューバ女性連盟機関誌『女性たち』第 538 号、2011 年 5 月 12-18 日号。とはいえ、この離婚率の算出法には問題があり、ある年の婚姻届出件数を離婚件数で割っただけで、婚姻したカップルが離婚したとは限らないのである。国連は別の算出方法を取っていて、年間離婚件数を10月1日現在の人口総数で割り、それに1000を掛ける。それによれば、2010年度の世界の離婚率のリストは、1位ロシア(4.7)、2位ベラルーシ(4.1)、3位ラトビア(4.0)とつづき、キューバは、ベルギーと並び7位(2.9)にすぎない。ちなみに、離婚が多いとされる米国は4位(3.6)、日本は圏外(2.0)である。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ロベルト・コッシーのキュー... | トップ | ロベルト・コッシーのキュー... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

キューバ紀行」カテゴリの最新記事