越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

ロベルト・コッシーのキューバ紀行(12)どうなるキューバの二重経済(その1消費編)

2015年10月22日 | キューバ紀行
(写真:売り歩いていた漁師から買った真鯛二匹、約800円と900円)
 
どうなるキューバの二重経済(その1消費編)
 
キューバ国民は、二つの貨幣を使いこなしている。  

基本的には、キューバ・人民ペソで買い物をする。1ペソ(独立時の英雄ホセ・マルティの顔が刻まれた紙幣と硬貨)や3ペソ(チェ・ゲバラの顔が刻まれた硬貨)のほか、10ペソ、20ペソ、50ペソ、100ペソの紙幣があり、公営の商店や公営バスのほか、民営の野菜市場、民営の乗り合いタクシーなどで使う。  

そうした人民ペソの店のほかに、1993年から2004年までは「ドルショップ」と呼ばれる、主に外国人観光客向けの国営店があり、そこではアメリカドルを使っていた。いま、その店ではCUC(セウセ)と呼ばれる兌換(だかん)ペソで取引がおこなわれている。

いわば、二重経済制の世界だ。市民は国営の換金所で、キューパ・人民ペソと兌換ペソを交換し、巧みに二つの通貨を使いこなす。  

外国からの観光客は、換金所で自国の通貨(たとえば、円)を兌換ペソに換金する。世界の為替レート(対ドル)と連動していて、円高だと兌換ペソの取り分が多いが、円安になると少なくなる。観光客は、基本的に兌換ペソの店で買い物をするので、いわゆる「第三世界」での搾取をそれほど楽しむことができない仕組みになっている。(1)  

それはともかく、キューバ市民は配給制で基本的な食料を手に入れる。それで足りない分(パン、卵、肉、チーズ、石鹸、衣料品など)を人民ペソの店から買い、さらに贅沢品(シャンプー、化粧品、電化製品、ブランドの靴や服)を公営の兌換ペソの店で手に入れる。  

キューバ市民の平均的な月給は、500人民ペソ(2,580円)ぐらいである。人民ペソの店での買い物は、日本人からすれば、ひどく安く感じられる一方、兌換ペソの店の買い物は日本の店と変わらない印象だが、キューバ人からすれば、どうだろうか。  

たとえば、卵は1個1.1人民ペソ(5.5円)である。1日1個食べると計算すると、1カ月で33~34人民ペソ(165~170円)になる。その金額だけを日本人が見ると、とてつもなく「安い」と感じるかもしれないが、収入に占めるその割合を計算してみると、それは平均月給の6.6パーセントぐらいに当たる。いま月収が34万円の日本人がいるとして、その月収の6.6パーセントは、22,440円である。1カ月の卵代にそれだけかかったら、発狂するのではないだろうか。(2)  

兌換ペソの店で売っている商品は、おそろしく高く映る。挽いたコーヒー豆を真空パックの袋詰めにしてある「カフェ・クビータ」は、230gで3.20兌換ペソ(413円)もする。スターバックスのコーヒー豆よりは安いが、これだけでキューバ人の月収の16パーセントが消えてしまう計算だ。  

まして、闇市で小エビを買うとなると、1kgで10兌換ペソ(1,290円)である。それは月収の半分に当たる。  

とはいえ、キューバ人も、公営の兌換ペソの店で、けっこう買い物をしている。見ていると、バラ売りのキャラメル数個とか、料理用のパウダーとかトマトピューレとか国産ビールとか「プランチャオ」と呼ばれるラム酒の小箱とか、せいぜい1兌換ペソ以内の買い物が多いのだが・・・。

ペソの店と兌換ペソの店の値段比較表(2015年夏)  

<キューバ・人民ペソの店>

公営教育(小学校~大学)・・・無料

 公営病院・・・無料   

公営墓地での埋葬・・・無料   

公営葬儀屋での火葬代・・・380ペソ(1,960円)   

米450g(配給)・・・0.9ペソ(4.5円)   

白砂糖450g(配給)・・・0.15ペソ(0.75円)

電気代(1カ月)・・・5~7ペソ(25~35円)

丸パン・・・1ペソ(5円)

卵10個・・・11ペソ(55円)   

映画館(入場料)・・・2ペソ(10円)

プロ野球(入場料)・・・1ペソ(5円)

公営バス代・・・0.5~1ペソ(2.5~5円)

公営バス代(冷房付き)・・・5ペソ(25円)  

国産タバコ(「ポルラール」)・・・7ペソ(35円)

国産缶ビール(「カシケ」)・・・20ペソ(100円)

ラム酒700ml(「ロンダ」)・・・60ペソ(300円)

百円ライター・・・10ペソ(50円)

民営の野菜市場のアボガド(大)・・・7ペソ(35円)

料理用の青いバナナ(一房)・・・10ペソ(50円)

キャベツ、大1個・・・12ペソ(62円)

タマネギ450g・・・15ペソ(75円)

豚肉(背肉)450kg・・・35ペソ(175円)

豚肉(赤味)450kg・・・45ペソ(225円)

民営のピザショップ(チーズとハム入り)・・・20ペソ(100円)

民営食堂、炊き込みご飯とチキン1皿・・・35ペソ(175円)

民営カフェ、エスプレッソ・・・1ペソ(5円)  

民営カフェ、マンゴの生ジュース・・・5ペソ(25円)

民営乗り合いタクシー・・・10~20ペソ(50~100円)

公営の書店、芥川龍之介の短編集(スペイン語訳)・・・8ペソ(40円)

源氏物語(スペイン語の抄訳)・・・8ペソ(40円)  

チェ・ゲバラの演説集(460ページ)・・・20ペソ(100円)

 

<兌換ペソの店(闇市も含む)>  

公営店のヨーグルト4個パック・・・1.8~2.4CUC(232~310円)  

冷凍チキン(胸肉1kg)・・・3.5CUC(451円)  

ゴーダチーズ(1kg)・・・8.1CUC(1,044円)  

スパゲッティ(国産400g)・・・0.85CUC(110円)

コーヒー豆(「クビータ」230g)・・・3.20CUC(413円)

国産ビール(「クリスタル」)・・・1CUC(129円)  

外国産ビール(「ハイネケン」)・・・1.90(245円)

ラム酒700ml(「ハバナクラブ」)・・・3.80CUC(490円)  

国産シャンプー500ml・・・1.95CUC(251円)

外国産シャンプー350ml・・・1.75CUC(226円)  

外国製スニーカー(「ナイキ」)・・・100CUC(12,900円)  

外国製電動バリカン(Dayton)・・・31.50CUC(4,064円)  

国営タクシー(市内)・・・5~10CUC(645~1,290円)  

国営タクシー(ハバナ空港から市内へ)・・・20~25CUC(2,580~3,225円)  

闇市の小エビ1kg・・・10CUC(1,290円)  

漁師から、釣ったばかりの真鯛(大1匹)・・・7CUC(903円)  

漁師から、釣ったばかりの魚(中10匹)・・・5CUC(654円)

 

註1 2015年8月14日の為替レート、129円→1CUC(兌換ペソ)、1CUC→24人民ペソで計算

   2 「国税局 平成23年分民間給与実態統計調査結果について」によると、日本人(男女)の平均給与は409万円。それを12カ月で単純に割って月収に直すと、34万円となる。      

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 10月18日(日)のつぶやき | トップ | ロベルト・コッシーのキュー... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

キューバ紀行」カテゴリの最新記事