確かにページを三つ四つの柱(コラム)に区切って、複数の登場人物の物語を共時的に展開するような形式の小説は、そう多くない。
だが、「作者の死」を宣言するメタフィクションの仕掛けや、本の中に真っ黒な部分が出てくるようなタイポグラフィカルな試みによって過剰に彩られた反秩序のバロック小説は、十八世紀末のローレンス・スターン『トルストラム・シャンディ』を嚆矢として、現代アメリカ文学でも、フェーダマンの『嫌ならやめとけ』からダニエレブスキーの『紙葉の家』に至るまで、これまでにもあった。
だが、単に作者の権威だけでなく、バチカンの権威や男のマチスモもこなごなにする、エルモンテの「神話」を創造したという点でユニークであり、作者は僕の心地よい既視感を吹き飛ばしてくれたのだ。
本書がデビュー作であるこの小説家の真価は、第二作で試されるだろう。(了)
(『文学界』2011年11月号308 -309頁)