今日も元気で頑張るニャン

家族になった保護猫たちの日常を綴りながら、ノラ猫たちとの共存を模索するブログです。

シリーズ「ノラと家猫と」 その2 事件勃発・高齢保護者の限界

2018年06月17日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
~本記事は全5話からなるシリーズです~

その1後編より続く;

灰白くん白黄くんは"自然時計"だから夏場は早い。ご飯をあげてもまずおかわり催促があるので寝直しもままならず、結局朝はボーッとした状態で日課をこなしていた。その日は家の猫どものお世話の前に2階でパソコン仕事をしていると、下からキーの声がやけにうるさい。何だか籠もったような響くような。確認に下りていくと、その声は風呂場からだった。よくあるのです、うっかり風呂場に閉じ込めちゃうことが。でも、あんなに騒いでたのに気付かないなんて、と思いながら風呂場を覗くと、換気用の小窓にキーのおしりが見えた。

「えっ?」と思う間もなく、キーが外に向かって飛び降りた。「また脱走だ!」
風呂場の出窓は上下2段になっていて、上部の換気用の小窓は常時半開だが網戸を固定していなかった。とは言えその小窓から出るには、まず飛びついて片手の爪をかけてぶら下がって、その状態でもう片方の手で網戸を開ける必要がある。これまでかつての3匹もニャーも何度か風呂場に閉じ込めたが、そすがにそこまではしなかった。身体能力が違うのだ。

妻が風呂を洗った後、興味を持って入り込んできたキーに気付かなかった。「キーが外に出た!」と叫びながら玄関から飛び出した。キーはまだ隣家の庭にいた。と、その少し先にクウがいたのです。脱走したのは2匹だったのだ。なるほど、身軽なクウだったらやりかねない、などと感心している場合じゃなかった。

姿勢を低くして何度も2匹を呼び止めたが、ほどなくクウは消えていった。キーは少しこちらに近づいてきた。しかしそのうち、呼びかける自分の声にも反応しなくなって、他のことに興味を持ち始めた。このままじゃまずい。いつまで待っても出てこない妻に見切りをつけて、一旦家に戻ってキーの好物を手に飛び出した。しかし、キーはもういなかった。

               
                 脱走したキー(隣地にて)

大変なことになった。よりによって一番人馴れしてない2匹の脱走だ。ひと月前の3匹、その直後のみうに続いての脱走だった。何ということだろう。思い返せば、大事には至らなかったがニャーにも随分脱走された。(「ニャー脱走の軌跡」参照) ご近所に迷惑をかけるばかりで、結局当のニャンコたちも幸せにできないじゃないか。我々夫婦の保護者としての能力、いや資格が問われているのだと思った。

ただ、前2回のときよりは落ち着いていた。あのときはクウもみうも、結局みな帰って来たからです。妻のように彼らを信じよう。実際こちらから保護できない以上、それ以外に方法はなかった。自分はその日店を休んで、テンちゃんの世話を妻に頼んだ。そして支度を整えて午後からの"ドア開け作戦"に備えた。

しかし、ひと月前とは決定的に違うことがあったのです。
その日の午前中は近所見回りの他、頻繁に勝手口の外を確認した。3時間ほど経った頃、扉を開けるとキーが来た。しかしキーは家裏にいた灰白くんに威嚇され、逃げていった。昼頃にもキーが顔を出したが、今度は白黄くんに追いかけられた。キーの甲高い声が公園の方まで尾を引き、その後はどうなったかわからない・・。そうなんです。ひと月前と違って、今は灰白くん白黄くんが家裏近辺に棲息していたのです。この2匹にとって、キー(とクウ)はまさに招かれざるよそ者でした。

それで意を決して、灰白くんと白黄くんを家裏から追い払うことにした。だが追い払っても隣地に移動するだけでまた戻って来る。2匹の姿が見えないときは、ニャーたちを部屋に閉じ込めて勝手口を少し開放した。でもいつの間にか灰白くんか白黄くんが戻っている。もどかしさを覚えながらも、そんなことを繰り返した。

               
                  脱走前のキー(右)とクウ

夕方になって、リビングの網戸の内側で寝ていたちび太が何かに反応した。クククッと鳴いて外を見つめる。見ると、窓の外にキーがいた。キーも網戸にしがみついてちび太と鼻ツンツンし始めた。中と外で寄り添う2匹。自分がおやつを持って外に出たときはキーはいなかった。が、それから1時間ほどして同じ場所にまたキーが現れた。外に出て、おやつを見せて名前を何度も呼んだが、キーは迷ったような表情になって、やがて消えていった。

でも、これは大きなヒントになった。灰白くんと白黄くんを避けてリビング側から誘導する手があったのです。夜になって遅く帰って来た妻が早速ご近所見回りに行って、戻って来るなり「道路の真ん中にクウがいた。」 すかさず確認に行くと、公園の前の道路にクウが座っていた。が、自分が近づくと同じ距離を保つように離れていく。しばらく見詰め合った後、クウは傍のお宅の敷地へと消えていった。でも、あれはクウだったのか、それとも灰白くんだったのか。

その夜はニャーたちを閉じ込めて、勝手口、リビング、和室(保護部屋)の3ヵ所に隙間を開けて2匹の帰還を待った。夫婦揃ってリビングに待機し、自分は30分毎くらいに灰白くんと白黄くんの動きをチェックしたので、うたた寝すらしなかった。しかしキーもクウも、気配すらなかった。

4時を回って辺りが白けてきたとき、このときとばかりに本格的な捜索を行った。見つけても保護することはできないが、所在が確認できれば心強い。それぞれのお宅の車の下や物陰を重点的に捜したが、時間だけが空しく過ぎた。徐々に不安が大きくなる。40分ほどしてとりあえず白黄くんたちの様子を見ようと家に戻り、玄関を開けると、廊下にキーがいた。

               
             キー(下)とちび太;もちろん超甘噛みです

家は3ヵ所が開いている。「キーだ、廊下にいる!」 うたた寝をしている妻に伝え、どうしたものか思案しているとキーがキッチンの方に移動した。勝手口の扉は開いている。祈る気持ちでキーを追いながらまず和室への入口を閉め、勝手口を閉めてリビングに向かうと、妻がリビングの窓を閉めていた。「キーは?」「ここから出ようとして、諦めて2階に行ったわよ。」 その瞬間、全身の力が抜けるほど安堵したのでした。

2階の部屋は全て閉まっていた。自分が上がっていくと、キーは廊下の隅で怯えていたが、近づくとこっちの足元をすり抜けてダッシュで1階へと向かった。各部屋を開放すると気配でわかるのだろう、4匹ともキーを追った。そしてキーはリビングで4匹にクンクンされ、手厚いお出迎え受けた。そのクンクンはかなり長く、やがてキーはバタンと横になって、目を細めて爆弾のようなゴロゴロを始めたのです。よほど不安だったのだろう。キーのゴロゴロはその日昼近くまで続いたのでした。

キーはリビングから入ったのだ。だから逃げようとしたとき、他の隙間には頭が回らなかった。今にして思えばまったく紙一重の結果オーライでした。さて、次はクウの番だ。キーと違って気配すらまったく感じさせなかったが、昨夜見た路上の陰がクウだと信じて、必ず近所にいると信じて、必ず帰ってくると信じて、それまでドア解放作戦を継続することとしたのです。

               
                   野性味溢れるクウ

その3 「ノラへの道・前編」へと続きます。

シリーズ「ノラと家猫と」
その1・灰白くん、白黄くんと地域問題(前編) 2018.6.13
その1・灰白くん、白黄くんと地域問題(後編) 2018.6.15
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シリーズ「ノラと家猫と」 その1・灰白くん、白黄くんと地域問題(後編)

2018年06月15日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
~本記事は全5話からなるシリーズです~

その1(前編)より続く;
※前編で書き忘れましたが、灰白くんも白黄くんも(未去勢と思われる)♂です。

自分も妻もそのときは本当に頑張っていた。とにかくBさんの安眠のために。深夜だろうが未明だろうが、外猫の喧嘩しそうな声を聞けばすぐさま飛び出して事前に収めた。早朝5時前におねだりの声が始まれば飛び起きてご飯を与え、30分後におかわりの催促あればまた飛び起きた。それはもう、自分たちの生活の崩壊でした。その結果として当家は、"周辺住民から非難されるエサやりさん"になっていたのでした。

それにしても7,8件の苦情とは。少なくともわが家の周辺では、先のお三方以外にはそれなりに事情を理解してもらっていたはずだった。そもそも飼い猫じゃなくてノラの話だ。自宅の周辺で鳴き喚いても、それがどんなに続いても、何もしなければよかったのか。2匹はここに来る前にも誰かの世話になっていたはず。同じ町内だったかもしれない。しかし何らかの事情でこの界隈に流れて来た。それは誰のせいでもないことだ。ノラの問題は地域みんなの問題なのに、誰かに押し付けて非難する方に回る。そんなご都合主義に空しさを覚えた。

いやいやいや、待て待て。そういう思考では当のニャンコたちはおろか誰も幸せにならない。みんなが困っている。そして当の猫たちに一番近いのが自分なのだ。苦情と言っても2,3週間前の、2匹の騒音が凄まじかった頃のものかもしれない。ここはひとつ、頭を働かせるときだと考えました。

苦情件数だけがやけに具体的で、回覧の内容が不明朗なことも気になった。おそらく新しい会長さんが誰も傷つかないようにと気を遣った結果なのだろう。だが、それがアダにもなる。ごく少数だがいまだに中外飼いのニャンコもいるのです。おとなしい老猫で、自宅の周辺だけ。界隈の人たちにも認知されていた。そのお宅もこの回覧を見ている・・・。自分は即座にある決意をしました。

自分名義で回覧を回そう。この問題を特定し、明確にして、町内の全員がその対策に参加できる形に持っていこう。役員さんの手を煩わせては申し訳ないので、自分の方から向き合う姿勢を打ち出すのだ。早い方がいい。一晩で作成して、明朝には会長さんのところへ持っていこう。そもそも「子ニャンを救え」の結末で書いたように、それが本来の自分の仕事なのかもしれない。

本ブログには「ノラ」と名のつくカテゴリーがふたつあって、それらの記事を書くときは本当にいろんな事を調べました。エサやり問題に関しては各自治体の取り組み方や裁判事例のみならず、ネット上の殆どのスレッドを読み漁った。特に多数を占める反対派の書き込みには過激なものが多く、理性ある書き込みもあるが、エサやりさん自体が(話の通じない変人として)怖れられているケースも目立った。一筆書くに際してはこれらの知識を生かして、読んだ人に理解してもらわなければならない。

目線の高い書き方も禁物。小池都知事や滝川クリステルさんのような有名人が「殺処分ゼロ」(ノラ救済)を訴えているのは心強い。実際、効果も大きいだろう。だが、ノラたちの窮状を訴えるのもいいが、「動物の命を大切に」だけでは人の心は動かない。正論であればあるほど反感を買う。なぜなら世の中では、「動物の命を大切にする」ことよりも「他人に迷惑をかけない」という通念の方が遥かに優先されているからです。開発によって住処を奪われたクマやイノシシが住宅街に迷い出ればためらいもなく殺処分され、それが当たり前のように報道されているのが現実なのです。

その晩、A4で2枚の文章を1時間ほどで書き上げた。その形式は詫び状。宛名は「町内の皆様へ」 タイトルは「猫の騒音についてのお詫び」 以下にのその要旨です。

1.お詫び。全編にわたって3度お詫びを繰り返した
2.自己紹介。個人で行うノラ保護のボランティア活動について
3.これまでの活動実績(特に保護したばかりのリン一家)
4.2匹のノラ(灰白くんと白黄くん)を特定する。柄や声その他、可能な限り由来を付記
5.2匹が家裏に来たいきさつ
6.駆除の考えのないことを明言
7.餌を与えるようになったいきさつ(自分以外の人には一切触れず)
8.騒音が緩和された現在の状況について
9.(餌を与えている以上)自分の管理責任を明言
10.今後の方針(なるべく早い時期に家中に保護)
11.トイレ、爪とぎ自邸内に強化したが問題発見したら遠慮なく連絡乞う
12.犯罪(動物愛護法違反)である猫捨て監視への呼びかけ
13.(当市や各自治体が推進する)地域猫活動の紹介

    
                   灰白くん(左)と白黄くん
               生きていくのに必死な2匹に幸せを

回覧ではお詫びはするが弁解はしなかった。自分では最後の方がちょっとウザイ気もしたが、まあまあか。早速妻に読んでもらったところ「ふーん」という素っ気ない感想。ちょっとイマイチかなと不安にもなったが、とりあえず自分が著名捺印したものを翌朝会長さん宅に届けてくれた。

近隣の反応はどうだろうと気になっていた2日後の晩、会長さん夫妻が訪ねて来た。まだお若い会長夫妻とはあまり面識がなかったが、とても気遣いのあるご夫妻だった。自分の詫び状はまだ回覧してないと言う。曰く、「個人名を出したままでいいのかと思いまして・・。」 しかも内容を読んだ限り、○○さんだけの問題じゃないと思うと。会長さんは、自分(私)が槍玉に上がるのではないかと気を遣っていたのでした。そもそも、苦情は当家の近隣よりもむしろ離れたお宅からの方が多かったとも言っていた。

かまわないですよ、と自分は即座に答えました。むしろオープンにしてもらった方が助かる。こういった問題は潜在化すれば必ずこじれるのだと。その後誰かと直接的な問題が起こったら必ず連絡する。会長さんにはそれで納得頂き、いよいよ回覧されることになったのです。

町内回覧物は、短期間で回るようにコピーを取っていくつかのルートで回される。が、わが家(最後の順番)に回ってきたのは3日後のことだった。さて反応は如何にと気になったけど、実際には何もなかった。でも正念場はこれからだ。 Bさんは大丈夫か、灰白くんや白黄くんはどうなるのかと、頭の中がそんな気がかりでいっぱいの時に、その事件は起こったのでした。

2度あることは3度ある。しかし3度目は、そんな単純な言い方では終わらなかった。


その2 「事件勃発・老齢保護者の限界」へと続きます。

               
            中から灰白くんと白黄くんを見つめるニャー


シリーズ「ノラと家猫と」
その1・灰白くん、白黄くんと地域問題(前編) 2018.6.13

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シリーズ「ノラと家猫と」 その1・灰白くん、白黄くんと地域問題(前編)

2018年06月13日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
~本記事は全5話からなるシリーズです~

久しぶりの更新となりました。
2週間前に前回の記事を書いた翌日からある事件が起きて、1週間翻弄されました。その事件はそれまで潜在的に抱えていた問題と密接に絡んだものでした。その後、自分は寄る年波のせいか寝込んでしまい、多少回復したこの3日ほどは貯めに貯めた店の仕事に打ち込んでいます。草木がぐっと生長を始めるこの時期、おちおちと休んではいられません。

ノラたちと向き合うようになってもうすぐ3年になります。家裏に現れたソトチビ、店に現れたポンがきっかけでした。その時はまだテツが存命だった。それから1年経ってテツが亡くなって、ノラ保護活動を意識するようになった。ただ、頼る人も教えを乞う人もいない中、試行錯誤の連続でした。最近になってわかってきたのは、当初の自分の考えが甘かったということ。ノラの問題はそんなに単純なものじゃない。多くの善良なる市民を巻き込んだ、とても根深い問題だったということです。

今回から5話続けて、「ノラと家猫と」というタイトルで書きます。このブログの全編を通してのテーマなので、ある意味縮図のようなものです。1週間に起きた事件をライブ形式で書こうと思いますが、今回はその前段(プロローグ)で、主人公はまだ出てきません。ダイフクの最新記事の最後で少し述べたように、灰白くんと白黄くんに端を発する住民問題がテーマです。

その前に、当住宅区について少し述べます。
バブルの最盛期に分譲された、田園風景に囲まれた20数世帯の小さな街でした。しかし町会として独立し、500世帯を超える大きな町会に対抗して地区運動会に独立参加。2年目には全員参加で、最下位定位置の予想を覆して優勝するという偉業を達成しました。それ以来お祭りや新年会やゴルフ大会など町内のイベントが盛り沢山で、住民の結束を固めていったのです。

バブルがはじけて、数年後には資産価値が3分の1以下になるという悲劇を共有し、殆どの人が東京まで通勤し、年齢も近く気心も知れていた。その後周辺の分譲があって世帯数も倍以上になり、入居世代も広がるに連れて、いつしかそれまでのような付き合いはなくなりました。でも、とてものどかで争議というものがまったくない平和な町です。実は自分は2年目に優勝したときの町会長、妻は昨年度まで役員をやっていましたがこの4月から隠居の身となりました。

これまでも何度か述べましたが、当初は中外飼いのニャンコが数匹いて、わが家の3匹組もリードでよく外にいたので、外来ノラの姿は殆ど見かけませんでした。しかし20年以上も経てば町の猫たちも代替わりし、完全中飼いが主流になってくると、ノラの姿をちらほらと見かけるようになったのです。猫はテリトリーを持つ動物なので猫密度の高い方から低い方へと移動する傾向がある。そして、相変わらず子猫を捨てて行く輩もいる。

               
                      灰白くん

灰白くんは、リン、クウ、キーの一家をようやく家中に保護して数日も経たないうちに家裏に現れました。子猫だった昨年の夏に何度か見かけたが、それ以来8ヶ月ぶりの再会だった。当初はご飯をねだるでもなくクウとキーの騒動に呼応して外で鳴いていた。問題は、その声が異様に大きいこと。これまで付き合ってきたノラたちは殆ど鳴かなかったので、初めての経験でした。灰白くんはそのうち家裏に現れる頻度が増し、早朝から深夜まで鳴き喚くようになったのです。

当時は3匹のノラを保護したばかりで当家にも余裕がなかった。はじめはそのまま放っておいたが(時には追い払ったりもした)、あまりにもうるさいのでご飯をあげたら静かになった。それから数日、灰白くんは家裏でご飯を食べ、自分の心配はむしろソトチビが来たときにどうやって迎えるかということだった。

               
                      白黄くん

ところがまた状況が変わった。白黄くんが現れたのです。白黄くんは静かな猫で、当初は灰白くんと一緒にご飯を食べたりしたが、そのうち灰白くんを追い払うようになった。その頃は灰白くんがかつてのみうやリン一家のように当家裏でくつろぐことが多くなっていたが、白黄くんはその場所(環境)を奪い取ろうとしたのだろう。その後は白黄くんが家裏に居着き、灰白くんは近づけずに周辺から声をあげるという構図になり、頻繁に起こる喧嘩声とともに、家裏界隈はこれまで以上に騒々しくなってしまったのでした。

その鳴き声の騒音はたいそうなもので、夜中も早朝も関係なし、自分も妻もノイローゼ気味になるほどだった。であれば、猫苦手の人にとってはいったい・・・。 過去記事「子ニャンを救え」で書いたように、わが家の周辺には猫苦手の方々が多い。わが家の隣、その裏、そしてわが家の裏、それぞれの奥様をAさん、Bさん、Cさんとすると、このご重鎮の奥様方はみな猫苦手なのです。特にBさんCさんは猫アレルギーで、Bさんは猫の声を聞き続けると過呼吸を起こしたこともあるほどの重症でした。

ある日、そのAさんとBさんが訪ねて来た。"重鎮"とはいえわが家の奥様とは親交があります。わが家の奥様も他ならぬ"重鎮"の1人で、自分にとってはまとめて怖い存在なのです。 話はやはり"苦情"から始まった。ただ、奥様方は当家の中の猫たちの騒動だと思っていたらしい。それで灰白くんと白黄くんの説明をすると、困ったような顔になった。でも、だからと言って納得してもらえるわけもない。

奥様方は当面、自分の家の周りが静かになって安眠できればいいのです。特にBさんにはそれはもう死活問題と言えるほど深刻だった。あれだけ社交的で他人に気を遣って、宴会の盛り上げ役だった明るいBさんの、あんなに悩んだ暗い顔は初めて見た。何とかしなければ、本当にそう思った。でもどうやって。追い払っても隣地に逃げるだけでまた直ぐに戻ってくる。食べ物をあげなければそのうちいなくなるかもしれないが、それまでの間は滅茶苦茶に鳴き喚くことが目に見えている。いったいどのくらい、本当に2匹が諦める保証はあるのか・・。

そのとき自分は、やけくそとも思える提案をしました。その前に、自分には駆除という考えのないことを伝え、人間の生活が優先されるべきだという考えに同意しました。だからできることは何でもやる。当面は潤沢に食事を与えてみる。今までは量も少なく時に追い払ったりと中途半端な与え方だったから、猫たちも不安を拭えなかったのではと思えたのです。ただ、この方法だと猫たちは確実に居着いてしまう。だから、折を見て家中に保護すると。

奥様方は怪訝な表情だったけど、静かになるならとその場は収まった。そして、当家の新しい試みが始まった。外猫用の食事は常時スタンバイして、2匹のいずれかが鳴けば食事を与える。早朝だろうが深夜だろうが喧嘩をすれば出て行って収める。当敷地に用意したトイレや爪研ぎを強化する。とにかく鳴かないように、猫たちが落ち着くように努めました。

               
           仲良く食事することもある灰白くんと白黄くん

この努力は功を奏したように見えた。少なくとも、灰白くんの声がだいぶ小さくなった。喧嘩も減った。これならあとは時間をかけてお友達になって、リン一家と同じように家中に保護すればいい。その頃までには家中の子たちも(里親さんが見つかって)減っているかもしれないし・・。 と、思い始めた頃でした。新しい町会役員の名前で1通の回覧が届いたのです。それはとても短い文章で、具体的な記述はひとつだけ。「最近、外飼いの猫の件で7,8件の苦情がありました。外飼いされている方はしっかりと管理されるようお願い致します。」

平和だった小さな町に波風が立ち始め、どうやら自分はその中心にいるらしかった。


その1(後編)に続きます。


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大難は小難に、小難はまた大難に??・・みうの巻

2018年05月18日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
お恥ずかしい限りなのですが、恥を忍んで書きます。
あの大脱走の災禍とハッピーエンドの一部始終を書き上げて気が緩んだのか、その翌朝に今度はみうが脱走しました。それは、油断の一言に尽きた。朝の6時頃玄関からニャーを外に出すときに、後ろからついて来たみうがするするとニャーの横を通って出てしまった。初めはポヤっとしていたみう、しかしこっちもポヤっとしていて、抱き上げようとしたがすっと逃げる。そのうち通りに出てしまった。途端ににみうの動きが変わった。水を得た魚のように素早くなって、しかもちょっと興奮状態に。そうなってようやく、事態の深刻さを認識したのでした。

強くは意思表示しないけど、みうがずっと外に出たがっていることは知っていた。いつも窓から庭を眺めてはキュウキュウ小声で鳴いていた。人の出入りでドアが開けば必ず寄って来る。でもニャー恐怖症のみうは、ニャーの出入りのときは近寄れなかった。それがイエチビを迎えて、さらに最近の大家族化の効果で2匹の関係が変わってきた。みうのニャーに対する恐怖心が少しづつ薄れていたのです。その変化に気付いていながら、しっかり対応できなかった。

みうは家の中でも半ノラ状態。こっちが座っていれば近づいて来るし、スキンシップもお手のもの。でも、こっちが動けばすかさず逃げる。そうなると捕まえることはまず不可能。通りに出たみうは、かつて1年半も家裏で暮らしていたときそのものだった。実は先日、みうを正式にわが家の子として迎え入れて1周年となった。何か書かなければ、と思っていた矢先のことでした。

               
         みうは外を眺めるのが大好き:キー(左),ちび太(中)と

みうはこっちの目と鼻の先を、お隣さんからさらにそのお隣さんへと冒険を始めた。そこで家の人が出てきて、驚いて今度はお向かいさんへ。門を挟んでしばらく対峙。手を伸ばせば届くのだがすっとかわされる。妻がシーバを持ってきたが見向きもせず。やがてみうは、そのお宅の向こう側にある高台へと向かった。回り道すれば4分はかかる。そのお宅の奥さんの協力を得て自分もそのまま高台へと追跡した。しかしその上にあるアパート付近まで来たとき、通り過ぎた車に驚いたみうは駆け足で坂下の方へと消えてしまったのです。

大変なことになった。みうの初めての脱走は、本格的な捜索へと展開したのです。妻が出かけた後、自分は店を休みました。外に出たみうは、よほど落ち着いたときじゃないと保護できない。クウのように自分から家に入ってもらうしかないと思えた。それで中のニャンコたちを部屋に閉じ込めて、玄関と勝手口を猫が通れる分だけ開放した。そして自分はできる限り町内を捜索。保護できなくても、所在だけでも確認したかった。しかし白黄くんと灰白くんが勝手口周辺に陣取ったこともあって、結局ドア解放作戦を諦め、夕方の再捜索に賭けることにしたのです。その日は真夏の炎天下、みうも休むに違いないと。

とは言え断続的に捜索しながらいろんなことを考え、そして調べました。1年間わが家に籠もっていたみうは、果たしてかつて飛び回った町内を覚えているのだろうか。猫の記憶力を調べてみると、よく目にするのは何かのテスト結果で10分だとか16時間だとか、しかし条件設定がいろいろあって当てにならない。飼い主をどのくらい覚えているだとか世間話的なものばかりで、記憶力についての信頼できそうな記述が見当たらない。それでも、みうがこの家に戻って来るという保証を藁にもすがる気持ちで探し続けたのでした。

その点で、その朝見失うまでのみうが、まるでかつて知ったるわが庭みたいな動きだったのは心強かった。最後に見たみうが駆け下りて行った坂の先は、左に回り込めば町内に戻り、右寄りに進めばバス通りへのショートカットで、その先の草原(休耕田)に点在する旧農家さんのいずれかにソトチビがいるはずだ。みうが家裏時代に2日ほど空けたことが何回かあったが、ソトチビの本拠地にお邪魔した可能性もあったのだ。みうはソトチビを覚えているのだろうか。あの坂を下りて、果たしてどちらに向かったのだろうか。

家の中のみうは、何を思って毎日外を眺めていたのだろう。自由がほしかったのか、自分の生活の場に戻りたかったのか、それともソトチビに会いに行きたかったのか。あれだけ仲睦まじかった2匹を引き裂いてしまった贖罪の意識が、またぞろぶり返してくるのでした。

               
            家裏時代:ソトチビとのツーショット(再掲)

それだけではない。自分の罪悪感を煽ることがもうひとつあった。それは妻も指摘していたこと。妻は、みうの保護(室内猫化)には最初から反対だった。家裏で自由に過ごし、食事も寝床もあって、ご近所の人々にもしっかり認知されている。今でこそ1匹だけになってしまったが、かつてこの町内には中外飼いのニャンコが数匹いた。管理もされていたし、猫嫌いのお宅も含めておおらかだった。猫にとってはこの上ない生活条件だったのに、家中に閉じ込める必要があったのか。

しかもだ、ひょんなきっかけでみうより先にニャーがわが家に来た。当初、中のニャーと外のみうはいい雰囲気だったけど、ニャーが脱走した際に何故かみうを追いかけて襲った。さらにそれを繰り返して、ニャーはみうの天敵になった。そのニャーと共同生活を強いられることになったのだ。それはベット下に隠れ、自分の部屋から出れないアンネ・フランクさんのような隠遁生活だった。自分が約束した、自由を奪う代わりの安心、安全、そして平和な生活とは程遠いものだったのです。

実を言うと、みうの保護には自分も迷っていました。しかしシャッポの失踪と、その後の強い後悔が自分を突き動かした。さらにお隣さんのリフォーム工事の騒動で、みうが当家裏に嫌気が挿す前に保護を決行したのでした。その結果、みうは家庭内ノラとなり、ニャーを避けての隠遁生活を強いられることになった。その日の朝垣間見たみうのはつらつとした動き、やはり自分は間違っていたのか。どんなに捜しても見つからないみうに、まるで自分の過ちを指摘されたような気分になるのでした。

みうはもう、帰って来ないかもしれない。ということはこのブログもいよいよ休止だ。あの大脱走の最中に決意したことは変わらない。みうが自ら野を選んだとしても、保護者の責務は消えないのです。

               
             家ではオジンの"くっつき"猫だったけど

日も下りはじめた頃、ニャンコたちの夕食準備へと動き始めた。まずは部屋掃除、トイレ掃除、食器を集めて洗い、外猫たちには早く消えてほしいので一足早く夕食。それから、みうも含めて6匹の食事準備。この一連の行動は一人だとだいたい1時間半くらいかかる。17時にはみうの本格捜索を始めたいので、時間を逆算して動いた。朝と同じように勝手口と玄関を少し開放する。自分がみうを見つけたら、家の方へと誘導する・・。

勝手口の外を確認すると、予定通り外猫たちが消えていた。家のニャンコたちをそれぞれ部屋に閉じ込め、再び勝手口を開けると、みうが現れた。ドアの中を一瞥するみう。ドアの内側に置いておいたみうの好物レトルトを差し出したが、見向きもしない。みうは勝手口を通り越して、かつて自分の生活の場だった寝床のダンボールや棚の上を点検し始めた。盛んに臭いを嗅ぐみう。何か思い出すかと期待したが、やがてその先へと消えた。

やっぱりダメか・・と思う間もなく、慌てて玄関から出てみうの消えた方から裏に回った。しかし、もうみうの姿はなかった。でもまあいいか。とにかく戻って来たのだ。そのうちまた現れるだろう。そう自分に言い聞かせて戻ろうとすると、駐車場の車の下でじっとこっちを見ているみうと対面した。そのみうの顔は、家中に保護する前の顔そのものだった。

ああ、と思った。やっぱりみうはこの家を自分の家だと認識しているんだ。そして、外に出ても自分を保護者だと認識している。それにしてもみうよ、お前はこんなにも自然な、明るい表情をした猫だったのか・・。安堵はしたものの、大きな問題が残っていた。どうやって保護するかだ。 と、そのとき、みうが自分の方に向かってゆっくりと歩いて来た。

慌ててシーバを差し出す。またも無視。朝も食べてないのに、この小食の猫はいったい空腹を覚えるということがあるのだろうか。すると、みうはゆっくりと自分の脇を通って家裏に行こうとした。自分の横に来たとき、咄嗟に背中を掴んだ。 「ギャッ!」と声を立ててみうが暴れだした。今度は「シャーッ」の連発。でもここで離してはならない。何が何でも確保しなければ、と両手でみうを押さえつけた。たちまち両手にできた引っかき傷から血が滲み出す。でも離さなかった。そしていつものみうが慣れた体勢で抱きかかえると、みうは安心したようにおとなしくなった。

まずは洗面所で、泥まみれになっていたみうの手足を洗って身体を拭いた。それから中の猫たちを開放して自分の両手の手当てをしていると、みうと出会った途端のニャーが全速でみうを追った。あわや勃発、という直前で遊び心のちび太が参戦して事なきを得たが、以前のみうに戻っていたことがニャーにはわかったのだろうか。その後しばらく、みうを見るニャーの目つきがかつての獲物を見る目になっていたが、やがてそれも解消した。

               
           ちび太(奥右)がニャー(奥左)との"緩衝材"に

みうは今、脱走劇前の状態に戻っています。自分の後追いで、自分が座れば遮二無二くっついてくる。そのポジションはニャーやリンとの奪い合い。でもお互いに遠慮し合って喧嘩することはありません。その周りをキーやクウ、そしてちび太が飛び跳ねる。家猫になれば、自分の意志に関わらず保護者に従わざるを得なくなる。それでも彼らは文句を言わない。自分が幸せかどうかなんて、考えたこともないだろうから。

このブログにシリーズで書いている「ノラたちとの共存を目指して。」 その予告編に書いたように、ノラの幸せについてまとめ上げる日がいつかやってきます。それが本ブログのテーマなのです。同シリーズを書き始める前から、「ノラの矜持」や「ノラの本懐」など、「ノラたちの幸せを願って」カテゴリーの中で模索してきました。千変万化の猫だから、その本意を見抜くのは難しい。でも、彼らにだって願いや望みはあるはずだ。

日頃おとなしいみうが、思い切った脱走で保護者に教えてくれたこと。 ~わたしはあなたについていきます。だから、わたしのことを忘れないでね。~ みうの願いは、きっとすべての家猫の気持ちに通ずるのだろうと、そう思えてなりません。

               
          懐かしそうに、そして寂しそうに外を眺めるみう
         (みう、お前の願いはしっかりと受け止めたからな)

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大脱走再び(後編) ~帰還、そして信頼と絆~

2018年05月13日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
前編からの続きです
この記事の写真は本文とは関係ありません

~保護猫母さんのオバンへ  母の日に捧ぐ~

前日までとは打って変わった寒い朝だった。
玄関の温度計は9℃。そのとき初めて、自分が薄いズボンに半そでシャツという軽微な服装だったことに気付いた。慌てて冬服に着替え、運動靴を履き、準備万端、やや高ぶった気持ちとともに門から踏み出した。

と、隣家の前の側溝辺りに何かが見えた。その影は自分に驚いたのか、あっという間にその先の角に消えた。 ちび太だ! 間違いない。こんなに早く見つかるなんて。はやる気持ちを抑えて、相手を驚かさないように忍び足で後を追った。角まで来るとその先には何も見えなかった。注意深く隣家の周りを探す。門を過ぎて駐車場の車の下を覗くと、怯えてこっちを見つめるちび太の姿があった。

ちび太は車の下の奥の方で身構えていた。が、3回ほど小声で名前を呼ぶと、こっちが誰だか認識したようだ。急に安堵した表情になって、少し近寄ってからゴロンゴロンと転がり始めた。かつてニャーもそうだった。保護者を認識して安心すると、もっと遊びたくなるんだな。でもこっちは必死だ。目を離せないので妻に電話してちび太の好物を持って来るよう頼んだその時、ちび太が何かを見つけて走り出した。

空を飛ぶ鳥だった。ちび太は向かいの家前の側溝まで追いかけて、消え去った鳥を諦めてウロウロしていた。そっと近づく。そーっとそーっと。まったくこっちを気にしないちび太のお腹に手を回して、ゆっくりと抱き上げた。そして外出の準備をしていた妻の元へと、送り届けたのでした。

          
                天真爛漫のちび太はいまだに赤ちゃん寝相

よっしゃー、でもまだまだ。ちび太の保護で元気も100倍になったオジンは、彼らの好物のシーバ小袋(チーズ味)を手に取って、すぐさま残り2匹の捜索に出たのです。まだ5時前のこと、往来に人影はない。一軒一軒の駐車場の辺りで、小声で声をかけて回った。自分の家の区画、次に公園や隣の区画、貯水池周辺、資材置き場・・・、しかしなかなか見つからない。可能性は低いと思われたが、家から反対方向になる山の手側にも足を伸ばした。が、高台の上から見渡しても何も見えない。

1時間ほど捜しただろうか、外猫が来る前に家に戻らなくては。帰宅途上の坂に差しかかった時、眼下のお宅のブロック塀の上で猫が休んでいるのが見えた。 クウだ! できる限り近づいて垣根の手前から小声で呼ぶと、その猫が振り向いた。そしてこっちをじっと見つめている。その顔がふっくらしていて、クウではなく灰白くんだと気付いたのです。そうだ、灰白くんは山の手の方から来るのだった。

それにしてもクウと似ている。しっかりと見極めるまで、灰白くんとはしばし見つめ合ってしまった。こんな所で何してるんだろう。これから"ご出勤"かな? それとも白黄くんとの鉢合わせを避けて時差出勤の調整中か。

家に戻ると、案の定白黄くんが家裏に来ていた。白黄くんは静かな猫だけど、こっちの姿を見ると甲高い声でキーキーと鳴き始める。その声をニャーに聞かせたくて、ご近所迷惑顧みず、しばし家裏で白黄くんと過ごした。しかしニャーは現れない。結局諦めて白黄くんに朝食を出しました。灰白くんは、やはり来なかった。

さすがに疲れていた。ふと、嫌な思いが脳裡を過った。ニャーはもうこの界隈にはいないのではないか。ニャーとは半分くらい以心伝心、自分を見れば鳴きながら近づいて来るはずだ。呼べば必ず返事もした。それがここまで音沙汰ないとなると、何かあったか、もういないか、普通ではない状態なのではないか・・。

携帯の歩数計は2万歩を超えていた。普段は2千も歩けばいい方なのに。が、店に行くまではまだ時間がある。家の猫どもの食事や掃除を妻に頼んでまた捜しに出ようとしたその時、妻が叫んだ。「いるよいるよ、ニャーがいる。いつものところに座ってる・・・。」

リビングから見ると、リビング前の台の上にチョコンと座って、ニャーが庭を見渡していた。確かにこの時間になると外に出て(リード付)、台の上から見渡すのがニャーの日課だった。まったくいつもと変わらないニャーに呆気に取られたが、玄関から回ってさりげなくニャーを抱き上げた。その途端に、ものすごい安堵感が押し寄せてきて全身の力が抜けていくのを感じたのでした。

          
          最近のニャーの定位置:庭を見渡す(左)と外猫の気配をチェック

さあ、いよいよ問題のクウの番だ。クウは無闇に捜したところで保護できる当てがない。でも、遠くに行くとも思えなかった。とにかくここでクウを諦めてはならない。何が何でも保護すると決めていた。なぜなら最近の記事で、なかなか馴れないクウのことを「困ったちゃん」と書いてしまったからだ。3匹のうちクウだけが見つからなかったとなれば、どんな後ろ指を差されるかもわからない。いや他人のことはどうでも、自分で自分を許せるのか、そして本当に自分を信じきれるのか。

その日は朝から店に行かなければならない。仕事もテンちゃんも待っている。それで、クウ保護のための方策を妻に伝えた。クウの保護は最初にそうだったように、やはり自分から家に入ってもらうしかないだろう。でも最初のとき、リンかキーが中にいないとクウは決して入って来なかった。今はクウが心を開くのはキーだけだが、キーを"呼び水"に使うわけにはいかない。そこだけは、クウの変化に期待するしかない。

つまり勝手口の外を頻繁に確認し、もしクウがいたら、中の猫たちを保護部屋以外の部屋に閉じ込めて勝手口を開放する。クウが入って来て、別の部屋(おそらく保護部屋)に移ったら勝手口を閉める。家に1人の場合はこれしか方法がないように思われた。それと、保護部屋は常に網戸にしてクウたちの臭いを発散させる。寒い日ではあったけど・・。 わかったような最初から諦めているような妻と、悲痛な声をあげてクウを探し回るキーを残して今一度家の周囲を見回り、それから風呂に入って顔を洗って、店へと向かいました。

店からは何度も、しまいに怒り出すまで妻に電話で状況確認した。そして午後になって、店長のYKさんと東京に向かった。下見と言っても、値段に関わらずほしい物があればセリ前に購入して持ち帰ることができる。だから市場に行くときは常にトラックだ。車内には眠らないための準備を万端整えた。眠らないためのじゅ文を常時つぶやき続けた。そしてふと横を見ると、YKさんが居眠りを通り越して熟睡していたのでした。みんな疲れきっていた。自分だけじゃないんだ。

市場は予想以上に大変だった。その日のうちに帰れるのかどうか、圧倒的な品数の前で途方に暮れるほどだった。それでも頑張ってチェックしているうちに、両足太腿の前側に異常を感じた。火を噴いたように熱くなって、触っても感じなくなった。そしてとうとう、歩くこともままならなくなってしまった。歩数計は、3万歩を超えていた。

その後は、YKさんには悪かったけどトラックで休んだ。帰路についたのは21時過ぎ。一度止んだ大嵐がまたぶり返していました。運転は自分が行った。ようやく店に戻ってトラックをしまい込んで家に向かったときは、もう23時近くだった。店に着いた時点で妻に最後の電話。やはりクウは現れてないようだった。

家に保護する直前の頃、クウは消息を絶つことが多くなっていた。長いときは2日も見ないこともあった。だから、まだまだわからない。この嵐が去れば、帰ってくる可能性だって十分にある。自分にそう言い聞かせて玄関を開けると、廊下の奥の方でシマシマ模様の何かがふっと隠れるのが見えた。え!? えっ?えっ? そのシマシマがクウの尻尾のように見えたのです。

えっ?えっ?えっ? ついに幻影を見た? 中に入ると妻が居眠りをしていた。慌ててクウを捜したがやはり見当たらなかった。1階にはニャーとみうとちび太、2階にはリンとキーが寝ていた。着替えて下りていくと妻が起きていた。「またクウの幻影を見ちゃったよ、」と揶揄されるのを覚悟で言うと、思わぬ返事が返ってきた。 「だって、クウいるもん。」

軽い食事をしながら妻から聞いた話です。
自分からの最後の電話の直ぐ後、勝手口を開けるとクウがいた。クウは白黄くんと灰白くんが消えるのを待って、勝手口から中の様子を伺っていたようだ。急にドアが開いて人影に驚いたけど、以前のように一目散に逃げるのではなく、50cmくらい後ずさりしただけで相変わらずドアの中を覗き込んでいる。中に入りたいのは一目瞭然だった。

そこで自分が言ったように、勝手口を閉めて他の猫を別室に閉じ込めてから再び開けるというのは、どうにも現実的でないと思えた。その間クウがその場に居続ける保証もない。幸い1階の猫たちは眠っていたし2階も静かだ。リスクはあったけど、そのまま1mちょっと後ずさりしてみた。すると、クウがドアの隙間から顔を出した。よし、とばかりに手の届くところにあったちび太のご飯を差し出した。小椀の中にはカリカリが5粒ほど。見事にクウに無視された。

それでさらなる冒険を試みた。つまりさらに2mほど、廊下への入口より後ろになるまで下がってみた。 もしその時、中の猫が廊下を回って勝手口に向かったらお手上げだ。クウよ、入って来い。祈るように見つめていると、クウが一気に滑り込んで、一目散に保護部屋に向かった。そこはクウたちの食事場でもあったのです。勝手口を閉めて、妻の役割が終わったのでした。

遅い夕食を終えた頃、2階でクウとキーが再会したらしい。何とも嬉しそうな2匹の声。それから例によってドタバタが始まって、キーとともに、クウがリビングに顔を出した。それは、まったくいつもと変わらない顔でした。

          
           とても珍しい:集団の中央にいるクウ(左)と尻尾を上げたクウ

自分はこの展開に心底感動したけど、妻は、ほら戻って来たでしょう? みたいなしたり顔は一切しなかった。妻にとってはあまりにも普通のことだったのだ。そう、信頼するってことは、感動でも何でもない。それが当たり前のこと。空気を吸うが如く無意識的なことなんだ。むしろ信頼、信頼と何度も気張って書いている自分こそが、本当は信頼の何たるかを知らない、あるいは疑うことしか知らない人間だったのではないか。

もしクウが戻って来なかったら、妻はクウに何かあったと確信するに違いない。それが信じるということなんだ。そのとき自分は初めて、妻と猫たちの間にある絆に触れた思いでした。それはなんともやさしく、自然で、そして心地よいものだった。

その晩、自分は珍しく口に出して妻の労をねぎらい、何度も礼を言いました。何だか本当に素直になれた気がした。 よかったよかった。ニャーは、自分との親交をさらに深めていくだろう。 よかったよかった。ちび太には、チビの分まで幸せになってもらわなければ。 よかったよかった。クウは、これからも家猫修行を頑張るに違いない。 よかったよかった。 よかった、よかった・・。 疲労の極致にあったオジンは、おそらくこの上ない幸せな顔をして、深い眠りについたのでした。

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