七曜工房みかん島

18年間の大三島暮らしに区切りをつけ、
滋賀大津湖西で、新たに木のクラフトと笛の工房
七曜工房を楽しみます

一人で建てる木組みの家~⑦刻み

2006年11月23日 | 『一人で建てる木組みの家』
1 刻みは地道な裏仕事
 材木の組手や継手の加工を行うことを刻みと言う。材木を少しずつ切ったり削ったりして刻んでいき、思う形態を作り上げる。刻みとはよく言ったものである。
 昨秋10月から始めて、刻みを終えたのが、今春3月末だった。間にみかんの収穫や発送作業が入ったので、半年程かかっているが、正味刻みにかけた日数は3ヶ月程だ。それでも、コツコツと大変な時間がかかった。屋外に積み上げてた材木を家の横の差し掛け屋根の下へ運び込んで加工し、加工が済めばまた屋外へ運び出して積んでいく。運搬距離だけでも相当な長さだ。骨組材だけでも、150本はあり、小さな材を加えるとゆうに200本は越える。1日に1~2本程しか刻めない時もある。始めの内はなかなか思うように進まず、いつになればこの作業が終わるのか気が急いた。また、この刻み方で果たしてきちんと木が組めるのであろうか不安も出てきた。それでも建前を夢を見ながら、半ばを過ぎれば少しは気が楽になった。終盤になれば要領も得て早く進むようになった。
 建前は1週間もすれば、目の前に忽然と大きな建物が現れるから、とても早く家が建ったと人は感心してくれるが、この刻みの期間は計算に入っていない。刻みは地道な裏仕事である。同時に最も大切な仕事でもある。

刻みが完了した柱


土台の継手調整


2 枘と枘穴
 材木をT字に組む場合、枘と枘穴で組む。土台と柱の長柄や梁や桁と柱の重ね枘がそうだ。この時、枘の寸法をどうするのかに大変迷った。枘と枘穴は同じ大きさに作ったのでは入らない。小さな材なら、同じ大きさに作っておいて、木殺しと言って枘の方を玄能で叩き締めればやせて入れられるし、木が元にもどれば、枘穴に密着して抜けなくなるという効果もある。しかし家のような大きな材では、これはあてはまらない。材がいくらか反ったり、ねじれているため枘がピッタリ枘穴位置に来るとも限らない。
 近頃の金具偏重の建前では、入り易いゆるい枘が歓迎されると聞く。反対に昔の建前では、カケヤで思い切り叩き込んでようやく入るぐらいの固さの枘だったと言う。本を見ても枘の寸法加減ははっきりとは書いていない。コキホゾと言って枘先を思いっきり細くして入り易くしたのをみたことがある。また墨線の太さだけ(0.5mmぐらいか)枘先を細くすると書いたものもある。しかし枘長によってその加減は変わってくる筈だ。結局12cmの長柄は幅で2mmずつ細くした。
 建前時には、カケヤで叩き込む時、少しずつ少しずつ締まりながら入って行く時の手の感触がとても快感だった。ゆるすぎず、きつすぎず、うまくいったのではないだろうか。

棟束の加工 小さい材ほど加工が難しい


3 角ノミ盤はとても重宝
 職業訓練校では、ノミと玄能で枘穴をあける練習をよくした。何回やっても表から彫った穴と裏から彫った穴がうまく合致せず、いつも食い違っていた。慣れてくればスピードだけは早くなった。
 だが本番ではノミと玄能ではなく、角ノミ盤を使おうと最初から思っていた。早くてきれいな穴が正確にあけられるなら数万円の機械代は充分にモトがとれると思った。その通りだった。早くできるのに加えて正確な枘穴あけられるというのは、強度に影響することだから、初心者には都合が良い。また手ノミでは彫りづらい込み栓穴のような細い穴も簡単にあけられるし、少し複雑な鎌形の穴もキリ先を少し回転させればうまく開けられる。刻みについては、角ノミ盤を使うことで、かなり工期が短縮できた。
 角ノミ盤を使っていて一つ困ったことがあった。同一平面にいくつかの枘穴をあける時に、角ノミ盤を次の位置へスライドして移動させるのだが、その時に木くずがローラーの下に入り込んで材の表面を傷つける。傷つかぬように木くずを吹き飛ばすのだだが、どうしても飛ばしきれないで、傷をつけてしまう。刻みももう少しで終わるという時に、解決法を見つけた。角ノミ盤を片側だけ少し持ち上げてスライドさせればよかったのだ。たったこれだけのことが思い付かなかった。当然取扱説明書にも本にも書いていないことだ。いつも使っているプロの大工に尋ねれば、すぐに答えてくれていたかもしれぬような些細なことだが、物作りにはこの些細なことを知っているか知らぬかで大きな差が出てくる。こんなところがプロとアマの違いだろうか。

角ノミ盤


4 丸ノコには要注意
 大きな家を作る大工と小さな家具を作る家具職人とを比べてみてどちらが大きな機械を使うと言えば、以外にも家具職人の方なのである。大きなモノを作るのに、大きな機械がいるのかと思うがそうではない。大きな材木をを加工するには、材木を置いて機械を動かすのである。小さな材木を加工するには、大きな機械の上で,材木を動かすのがうまくいくのである。
 大工は、肩にかつげるほどの道具箱一つで大きな家や塔を建てる。家具職人は、工房一杯の大きな機械に囲まれて色々の小物や家具を作る。
 材木を切断するにはノコギリを使う。家具作りでは昇降盤という丸ノコ盤を使って正確に挽き切る。大工は手ノコと手もちの丸ノコを使う。手ノコに比べて丸ノコは数倍のスピードとパワーがある。これも刻みの工期短縮の立役者である。
 しかしこの丸ノコはスピードとパワーがあるだけ、それだけ取扱いには注意が必要である。大工の機械道具で最も事故の多いのがこの丸ノコらしい。材木を切っている時、角度が曲がったりするとキックバックと言って、丸ノコがガンとはね返されるときがある。この時丸ノコをしっかり押さえておかないと怪我をすることになる。
 丸ノコだけは、長年使っていても慣れることがない。いつも真剣勝負の気持ちで立ち向かう。うまく使えば、これ程重宝するノコギリはない。まさに丸刃の剣?諸刃の剣である。

丸ノコ


5 カンナは名通訳?
 家を建てるに際して、新しく購入した道具がある。電動工具では枘穴をあける角ノミ盤と、敷居や鴨居の溝を彫るミゾキリ機であり、手工具では大工用の叩きノミである。
 ノミについては、こちらへ越してくる前に、大阪の道具屋筋であちこちの店を見て廻ったが、気に入ったものがなかった。こちらに来てからはインターネットで良さそうなのがあったのでようやく手に入れることができた。これが大変なスグレモノだった。小物作りに使っている薄刃の細工用の追入れノミより2~3倍も大きくて重いのに軽々とよく切れるのである。また使い続けてもなかなか切れやまないのである。追入れノミはいつも研いでいたのに、この叩きノミはめったに研がなくてもよい。
 大工の醍醐味は、刃ものがよく切れることに尽きる。サクサクスルスルと木が切れるととても仕事が楽しく疲れることがない。
 材木はほとんどが表面を仕上たものを購入したが、それでも仕上げには、カンナをかけた。切れ味はノミよりカンナの方がよく解る。ノミは玄能で叩くが、カンナは手で引くため、力の入れ加減や木材の表面の凸凹を手や腕や体全体で感じ取ることができる。ヒノキは軽快にスギは少し重めに感じる。同じ材種でも節があればゴツゴツと引っかかるし、柾目なら気持ちよく引き切れる。節のところは逆目立ってうまく仕上がらないが、刃を研ぎなおし、刃の出を最小限にし、裏刃も刃先に再接近させて、サッとカンナをかける。節も含めてツルツルに仕上がった時のなんと気持ちの良いこと。何度も指先で撫でてしまう。
 機械ではこうはならない。とりあえずそれなりの仕上がりになるだけだ。機械を通したのでは木のクセは感じとれない。木の持つ性質やクセを読み取れるのは手工具を通してである。ノミやカンナは木の言葉を伝える名通訳と言えそうだ。

カンナと叩きノミ


付記 妻・ひろより
 夫は、これらの道具で、きれいに削れ、スベスベになった材木を、
 手でなぜ、ほほを摺り寄せて、
 「ホラ、これ触ってみ、気持ちいいで」
 と私にも、触るように勧めてくれる。
 夫があまり気持ち良さそうな顔をしているので、
 「そうかな」と一緒に触ってみる。
 しかし、ヒノキ、スギと材が変わるごとに、
 毎回毎回違いを説明して、進めてくれる。、
 「本当、スベスベできもちいいなああ~~」 とは言うけれど。
 「変ってるぅ~、まあ、これ位木が好きやから、木工や家を建てたいと思うのやな」 
 とちょっと、あきれている。
 私には、材の違いによる、肌触りなんぞ、あまり解らない。
 それに勧めてもらっても、それ程嬉しくもないけれど。


コメント
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