今野 晴貴(NPO法人POSSE代表)
これまで見てきた、就活生や転職者を騙そうとする手口の数々。「よりよい企業に人が集まり、劣悪な企業は淘汰される」という、本来あるべき労働市場の機能が喪失してしまったのはなぜなのか? 根本的な問題点を探ります。
求人詐欺やオワハラは、待遇が低いまま新卒や中途採用者と契約する、ある種の労務管理のテクニックとして発展してきた。その背景には、人手不足のなかで労働者を騙し、安く長く働かせ、利益を最大化させたいという企業の思惑がある。だが、それでは労働市場は健全に機能しない。求人詐欺は、労働市場を撹乱し、日本社会全体に大きな問題を引き起こしている。
すでに厚生労働省には、年間1万2000件もの求人詐欺に対する苦情が寄せられているという。にもかかわらず、減少する気配はまったくない。この件数ですら、氷山の一角に過ぎないだろう。いったいなぜ求人詐欺はなくならないのか。どうすればなくすことができるのか。日本の労働市場に今何が起こっているのだろうか。
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労働者が「選択不能状態」にさせられている
これまで見てきたように、求人詐欺では、内定の段階や入社後になって、求人段階で聞いていなかった労働条件が提示される。これは、いわば企業の一方的な契約の書き換えである。新卒や転職者が合意したはずの労働条件が、実際の労働条件とは異なっているわけだ。その結果、求職者は、よりよい企業を選ぶことができない「選択不能状態」に陥っている。
すべてが詐欺企業ではなくても、求人詐欺が紛れ込んでいるだけで不信感は広がり、選択は困難になる。今見ている求人情報や説明会の内容があてにならないのであれば、もはや合理的に企業を選ぶ行為自体が不可能だ。
求人詐欺にオワハラに… なぜこんなことになったのか 第10回<就活の「新常識」>