無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

食屍鬼島 -10 (ネタばれ注意)

2023年07月22日 | 食屍鬼島
「ところでグラトニー、何故シークレットドアを無視するのだ?」
ネヅコがグラトニーの背中から声をかける。
「あん? どこにあるんだ?」グラトニーは唐突な質問に不機嫌さを隠さず答える。
「そこの壁にあるだろう」
「隠されているからシークレットドアと言うのだ。見えるのは唯のドアだ」
ザローが言われた壁を調べると、確かに隠された扉があった。開けた先は小さな部屋となっており、
ファルジーンの民から奪い取ったのが明らかな貨幣、絵画、その他の貴重品の山が部屋中に散らばっている。また、部分的に貨幣に埋もれた3つのチェストが確認できる。
「シークレットドアの中に財宝と宝箱とは、まったく陳腐の極み。シークレットの名が泣くというものだ」ネヅコは既に興味を失った。
「アホか。シークレットドアの中にお宝。これこそ世界のあるべき姿だろう。神話典籍など適当に本箱に突っ込んでおいても、だれも手に取りはしないから、わざわざ隠す必要はない」
宝物をよく見ようとザローが部屋に入りると、3つの宝箱の蓋が突然開き、ムチのような長い舌が襲い掛かってる。

「ミミックです」素早く後ろに飛び去りながら、冷静にザローが警告する。
「くそが!」激しく罵りつつ、拳を構えてグラトニーがザローの前に出る。
「ミミック! これは唯の宝箱よりずっと興味深い。”神秘なるχ”というベテラン冒険者は『宝箱が本物の可能性はゼロではないが、そんな可能性に賭けてはならない』と言ったのを知っているか? その忠告に従えば、無造作に本箱に入れられた典籍の方が価値があるとは思わないか?」激しく戦うグラトニーを余所に、背中にくくられたネヅコが尋ねる。
目にもとまらぬ連打を撃ち込む合間に、グラトニーが答える。
「まったく思わないね」

「ところでグラトニー、反対側にもシークレットドアがあることを知っているよな?」とネヅコ。
グラトニーは舌打ちをしながら、ザローの方を見る。
ザローはプロフェッショナルな態度で、反対側の壁を調べる。少しの間、繊細な手つきで壁のあちこちに触れた後、言った。
「開きました」
部屋に満ちるオゾン臭で目が潤む。その上、部屋の寸法が刻々と変化し、曲がっているように見え、頭痛が始まる。この部屋の主が誰であれ、あるいは何であれ、現実世界そのものに消えない痕跡を残すような力のある魔法を働かせている。書物、バラバラの上質な羊皮紙、秘術の紋様、その他の妖しい道具が部屋を埋め尽くしている。床の中央には、象形文字や異界の文字に囲まれたアダマンティン製の紋様がはめ込まれ、各方位には燃え尽きたろうそくがある。
「素晴らしい。この部屋はあらゆる接触呪文、儀式を強化することが出来る。分かるか? そこの紋様は星の落とし子に関連している。しかも魔法円を囲む象形文字は外なる存在との交信に関連しているようだ」ネヅコは興奮していつもに増して口数が多い。
「正に悪の中枢といったところか。さっさと出口を探そう」
「待てグラトニー。そこの巻物を見せてくれ」やれやれと言った様子で、グラトニーはネヅコの前で巻物を広げて見せた。
「これは毒牙の式文、チョー=チョー人の肉体改造術の術式だな。グラトニーお前向けだ」
「なんだそれは?」
「牙や爪から毒を分泌できるようにする術だ」
《やめなさい、増々怪物じみてくるわよ》
「いいね、それ」グラトニーは牙をむき出して笑った。

この部屋は三人が目を覚ました部屋とまったく同じ作りだ。各アルコーヴには数え切れないほどの死体が入っており、互いに支え合うようにして立っている。前の部屋にはまばらに物があるだけだったが、この部屋にはガタノソアの機嫌を損ねた人々のミイラ化した死体で溢れかえっている。食屍鬼たちが既にこれらの不幸な人々の肉片を収種し始めた形跡がみてとれる。その中に、ひときわ異彩を放つ死体-頭蓋骨からはほとんどの肉がきれいに剥がされ、かつての面影はわずかに残っているだけ、胴体、腕、脚はかなり手荒な扱いを受けている-がある。ガタノソアの戦懐の凝視による呪いの硬直がなければ、切り苛まれ、溜り尽くされた骸骨は床の上でバラバラになっているはずだ。
骸骨の形を保っているのと同じ奇怪な力によって、この人物は意識を保ったまま自分の体を食われ続けたのだ。イレニアに助け出されなければ、自分の身に降りかかっていた可能性がることに気付くと、毛は逆立ち、眉間には冷たい汗が流れる。肉のない顔の輪郭には見覚えがあり、心の奥底に微かな痛みが走る。これは女鉱司祭ポンペアに違いない。屍肉喰らいたちはの聖なる力を与えられた彼女の肉を試食せずにはいられなかったに違いない。そして、あまりの美味に彼女の全身をほとんど食い尽くしてしまったのだ。
「恐ろしいことです。ガタノソアが復活してしまったら、世界中にこのような恐怖が広がってしまいます」いつも冷静なザローの声が、心なし震えている。
《この島のグールは貴方とは好みが違うみたいね、グラトニー》
「ああそうだな」、グラトニーは不意に飢えのようなものを感じ、唾を飲み込んだ。

その後城塞中を歩き回り、ついに外につながる扉を発見した。そっと外を覗くと、周囲には食屍鬼とその同盟者の大群が、砦の周りを警戒しているのが見えた。とても、強行突破できる数ではない。
「ここから脱出するのは無理ですね。グラトニーさんどうしました?」扉を閉めながら振り返ったザローは、心ここにあらずと言った風のグラトニーの表情を見て言った。
「…、いや大丈夫だ。さっきの水中トンネル-深きものどもが使用していると思われるトンネルを行こう」
「私は泳ぎはそれほど得意でないですが、大丈夫でしょうか?」
《ずいぶん確信があるのね、いいわ、私についてきて。私の同盟者は水には強いから、何とかなるわ》
「深きものたちの神より強いのですか?」ザローは不安げに問いかけた。
《どうかしら、でも向こうの神様は死ぬまで寝ているという噂よ》
「このような場所でアレについて話をするのは、とても危険なことだ」突然ネヅコがしゃべり出した。
「アレにとって生死はただの状態異常でしかなく、肉体的、精神的にも静止した状態であっても、存在自体が定命のものに影響を与える。”死ぬまで寝ている”という表現はアレの超越性をあらわすのに、相応しい表現だ。このような言い回しができることから、クレシダがただの猫ではないことを示している…」
ヒゲを震わせて、一言鳴き声を上げたクレシダはザローとグラトニーを見て言った。
《まったく失礼な石頭だこと。さあこれで大丈夫だからトンネルを進みましょう》

3人は水中トンネルを抜け、やがて海に出た。そこからファルジーンまではジャングルを抜けていく。途中、現住の怪物と出会うが、今の一行の敵ではない。その日のうちに町に到着し、光の女神像の奪還を広く知らしめた。ドムニク、ロタール、オーベッドらファルジーンのリーダーたち、そして多くの島民は希望を取り戻し、邪教徒と戦い抜く厳しい決意を新たにした。

「ポンペアが夢の中に出てきたのです」静かに言ったドムニクの言葉は震えていた。
「そして、彼女はとても近くにいて、必要なのは踏み止まることだけです。光の女神像が重要なのです」彼の言葉にグラトニーが同意する。
「彼女の意志は生きている。お前は為すべきことを為さねばならない」
ロタールも力強く頷きながら言った。
「守りの巻物は明日には用意できる。君たちはゆっくり休んでくれ、友よ。これから先、君たちに全力を尽くしてもらわなくてはならなくなると思う。トウシャの話は気がかりだ。我々にはあまり時間がない」
一行はアホウドリ亭に連れていかれ、部屋を与えられた。モマオ、オーベット、その他の者たちが休息中の3人を守ると請け負った。
「俺は少しやることがあるので、別の部屋を用意してくれないか?」グラトニーが言った。
「本当にやるのですか、グラトニー?危険ですよ」ザローが心配そうに言う。
「食皇道は修羅の道。危険に尻込みする暇はない。我が血肉となったもののためにも」
《あなた・・・、好きにしなさい》
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次に意識を取り戻した時、傍には食屍鬼とレンの民、そして小さな黒猫がいた。スミスはその3人がグラトニー、ザロー、クレシダだと知っている。
ザローは状況が分からず、左右を見回しながら困惑したように言った。「ここはどこでしょうか?」
「ここは幻夢境だ」そう言ったグラトニーの牙は以前より鋭さを増しているように見える。
《良く分るわね、そうここは幻夢境。その入り口と言ったところね。あそこに門番がいるわ》

クレシダが示す方を見ると、目に見えない周囲を取り囲む光によって照らされた広大な洞窟の中央に、紫緑色の炎の柱を背にした、とても背の高い人物が2人立っている。背後にある大火にもかかわらず、彼らの前にはまったく影が差していない。それどころか、影はどこにも見当たらない。
しわだらけの顔の男たちは、髭を生やし、祭服を身にまとい、身長はゆうに8フイートはある。司教冠のような頭飾りが身長をさらに高く見せていて、その見事な髭がなければ、彼らを互いに見分けることはできないだろう。ぼさぼさの鉄灰色の髭を生やした男が話し始める。 「私はナシュト」彼はそう言ってから、目に見えない微風になびく、雪のように白い立派な髭の相棒を身振りで示す。「そして、こちらがカマンーターだ。君たちが来るのは承知していた」
「夢見人ボンペアの要請により、君たちをここへ連れてきた。彼女は君たちを必要としている。七百段の階段を下りていけば、幻夢境に至ることができよう」ナシュトが身振りで示した一続きの階段は、さきほどまで間違いなく洞窟の壁の一部だったはずの場所にあり、暗闇の中へと下っている。

最初の一歩を踏み出すと、カマンーターが一行を引き留める。「出発する前に準備を整えると良い」そう言って彼は歯を見せて笑う。最初は彼の言ったことが何を意味しているのか分からなかったが、やがて意識が遠のいていき、使い慣れた荷物の心強い重さが、まるで初めから存在しなかったかのように消えてしまう。どうやら、自身の装備品はこの旅についてくることができないようだ。カマンーターがウインクして言う。「恐れるな友よ、『求めよさすれば幻夢境が与えよう』」


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