ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

実物の銀幕  港町・Kポートにて

2016-11-30 22:34:32 | 詩集 湾Ⅲ 2011~14

切りとった大きな窓

床面からの掃き出しの大きな窓

窓際に二人がけのテーブルとイスが並んだ

その向こうに内湾の狭い水面が見える

対岸にコンクリートの建物

4階建てや3階建てが数棟

流された木造家屋が跡地のなかに残り

小高いところに

屋内体操場を上に乗せたコンクリートの校舎

かまぼこ校舎と呼ばれたランドマーク

(エッフェル塔もできた当時はかまびすしいパリっ子の不平のタネだった)

この春の卒業生で廃校になる高校

その手前の内湾の水面

曇り空の下の鈍い水面

 

大きく解放された窓の向こう

都会のビルのカフェの壁面にしつらえられた巨大なスクリーン

ではなくて

映し出されただけの映像ではなくて

大きな窓のガラスの向こうの実景

虚構の映像にも重ねられる

実物の景観

 

記憶の中の

船主や魚問屋や

家ごとの印を壁面に飾った

港街の整えられた建築のファサードの連なり

からはまだ遠い

まだ着工されない

流されたまちの跡

 

右手には

もうひとつの大きな窓

内湾の出口の

神明崎の浮見堂があったあたりの景観

 

二方面の大きな窓

ガラスを通した大きな景観

実物のスクリーン

 

やがて工事が始まり建築が進み

昔と今の記憶に重ねて

悲しい別離と新しい邂逅の夢も映り

想像するひとびとには

過去と現在と未来の映像があわせて映し出される

美しいスクリーンとなる

 

この椅子に座って

コーヒーのカップに触れて

実物の

想像の

銀幕を見る

 

銀幕の向こうを

フェリーボートがゆっくりと

水面を滑ってゆく

 

※詩集湾Ⅲ2011~14掲載の決定稿


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