ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

2016-11-30 22:38:38 | 詩集 湾Ⅲ 2011~14

鉄の塊

くすみきった赤と青の漆黒の

不安定な形態で

H型鋼の支柱でようやく支えられ

いつまで

いつまで

そこに居座っているのか

抗うように

ざらざらと無数の刺のように

 

軽々と海に浮かび

巨大な群れをなす生命を追い求め

透明な水を切り裂き鮮やかに光る刀の塊りを

一網打尽にすくいとって

数多の生命を奪った

数多の生命を供給した

人間の生命をつなぐために

そしてこのまちを養った

 

自然の

魚類の生命によって

人類の生命をつなぐ生業で成立したまちが

自然の

海の鳴動によって

たくさんの生命を失ってまちも死に瀕し

そこから立ち上がるときに

 

そこに異物がある

そこに異物がある

異物になり果てた禍禍しい遺物がある

風景に溶け込むことのない異物がある

かつてはこのまちを養った鉄の塊が居座る

 

祈れ言祝げ鎮魂せよ

現存する形のある記憶として

手をあわせよ

 

※湾Ⅲ2011~14掲載の決定稿



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