図書館総合展運営委員会 ―TSUTAYAが公共図書館の運営を!―
図書館総合展アニュアルブック2013 雄松堂書店
2012年の図書館総合展の際の主催者フォーラム「指定管理者制度の最前線」の記録全文である。
昨年11月横浜で開催された図書館総合展の会場で、買い求めたもの。当時の佐賀県武雄市長樋渡啓祐氏の基調講演、カルチャー・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYAの運営会社)の高橋聡氏、神奈川大学の南学教授、コーディネータは、立命館大学湯浅俊彦教授である。
樋渡前市長の、最後の発言から、長くなるが引いてみる。
「僕はいろいろな図書館があっていいと思います。だから、直営でこんなに素晴らしい図書館はOK、あるいは丸善さん、TRCさん、いろいろな図書館で指定管理者、あれもOK。だから、それが、僕は競い合うべきだと思うんですよ。オープンにして、競い合って、しかも組めるところは連携する。今までの蛸壺は僕はだめだと思います。足りないところは県立図書館と僕らは連携しますので、足りないところは補って、僕らが秀でたところは、他のないところと連携するというような、そういう意味で、地方の一図書館が底上げ、レベルアップすることによって、全体の図書館に対する日本国民の信頼が僕は高まっていくと思います。
確かに、僕らはロールモデルに成りたいと思っているんです。首長さんたちと話をすると「どういう図書館行政をやったらいいかわからない」と言う人たちがほとんどなんです。なので、僕らは一つのロールモデルとして定義はしますけれども、受け入れやすいようにしますが、行政レベルで言うと、だけど、それが全部とお考えないほうがむしろいいと思います。
ですので、そういう意味で言うと、いかにも、僕は敵対するとか、そんな感じじゃないんです。心やさしいんです。なので、ぜひ皆さんとも組みたいし、司書の方々、名簿を見ていたらたくさんいらっしゃいますけれども、僕らは司書の方々、あるいは今度、社員と言うふうになりますけれども、ほんとうに働きやすい、生きがいのある環境を目指してつくっていく。これは、酸いも甘いも、ではないですけれども、そういう姿勢で行きたいと思っています。(拍手)」(33ページ)
なるほど、ここで述べられていることは真っ当なことで、私も全面的に賛意を表したい。樋渡氏も、このロールモデルに全ての公共図書館が従うべきだなどとはおっしゃっていない。市町村ごとの最適のモデルを選択すればよいということだ。
市町村ごとに、地元の意志として、最適な図書館をつくればよいのである。
この前段を読んでみると、カルチャー・コンビニエンス・クラブ(C.C.C.)の高橋氏と、樋渡市長とがっぷり4つに組んで、新しい図書館像を作り上げるために共同作業を行った様子が読みとれる。
樋渡市長にとっても、市立病院のことに引き続き、新しい図書館づくりが、彼自身の政策実現の突破口であったようである。
高橋氏は、執行役員クラスの人材のようであるが、東京本社からのリモートコントロールではなく、武雄市の現地に住み込んで、陣頭指揮に当たっておられた。
武雄図書館を成功例に、その後、C.C.C.は図書館事業の全国展開を図られているようであるが、武雄におけるように、高橋氏クラスの意欲と能力のある人材を投入し、かつ、地元に、必要な図書館像について明確なイメージを持つカウンターパートが得られるのであれば、それぞれに地元にふさわしい良き図書館が実現することは間違いないことと思われる。
C.C.C.は、海老名図書館において、すでに指定管理で実績をもつ丸善系の図書館流通センター(TRC)とタッグを組み、ノウハウの共有化、司書人材の確保を図っているようにも聞いている。やはり、図書館には、実績ある司書が必要で、新しい図書館の場合、その確保にどこでも苦労しているようである。
ちなみに、市町村において、全く新しく図書館を立ち上げると言う場合は、TRCなど実績ある民間会社に指定管理者として委託することは充分にありの選択であると私は考えている。ノウハウのない市町村が、新規に専門職人材の採用を行うというリスクを冒すよりは、良き図書館が実現する可能性が高い。その委託先が、C.C.C.であっても、面白いことになるかもしれない。
ただし、その地元に、その土地なりの良き図書館を明確にイメージできるカウンターパートがいなければ、あまり、有効なことにはならない。(もっともTRCあたりであれば、無難な選択にはなる。)
C.C.C.がせっかく高橋氏クラスの人材を、現地住み込みで派遣すると言ってくれたとしても、世の中に良くある、有名なコンサルタントを入れたが、装丁は立派な、いわゆる先進事例の「コピペ」の報告書が出来上がったみたいな話になるのが落ちである。
逆に言えば、高橋氏のカウンターパートになりうるような、良き図書館のイメージと知識と意欲を持つ人材が地元にいるとなれば、実はC.C.C.と組む意味というのもあまりないということになるのだが。
樋渡氏は、その後、知事に転身を図られたようだが、全国の、それまで図書館にあまり関心を抱かなかった市民や首長の関心を掘り起こしたという意味で大変大きな功績を上げられたと思う。また、武雄市自体に、よき図書館をつくり、全国的に知名度を上げ、交流人口を増やしたという功績も素晴らしいものである。この評価は誤りないようにして置きたいものである。
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