風景を置いて
おれたちはワイセツに美しく
唇をかさねる
天候/曇・強く暖かい風
背景/港・船・乗客・帽子
遠まきの群衆
(白いからだ)
数歩歩き ああ と言う
両手を拡げふりかえる
そのまま言葉が失われ
おれはおまえを凝視する
風景を置いて
おれたちは猥雑に美しく
体をさぐりあう
荷揚場に扉 . . . 本文を読む
自然に素直にそして
幸せになろうね 一緒に
海を見たかったあなた
森で暮らしたかったわたし
太平洋に沿った国道四十五号線を南下するオートバイが
一旦追い抜いていった4WDを抜きかえして止まる
急ブレーキを踏んだ4WDからドアを開けてちょっときゃしゃでひげあとの濃い眼鏡の男が
ブルージーンにスニーカーで降りてくる
皮ジャンのライダーがヘルメ . . . 本文を読む
ワイン付きの食事のあとの蒸留酒
― 今夜はずっと一緒にいたい
― 今夜が明日にならないうち
ならねと女は退屈そうな顔でいう
― あとたった一時間か?
― ええあとたっぷり一時間も…
ホテルのまどからベイエリアの
あかりを見下ろしていた
― 午前零時の鐘が鳴ると
シンデレラの魔法はとけてしまうの
パパとママが目をさまして継母みたいな怖 . . . 本文を読む
エレベータ・ガール
金属の重いとびらが開くと
きみが笑っている
(いらっしゃいませ)
(おやおやどうも固苦しいごあいさつを)
とことばには出さずに往来を見通す箱のなかにぼくは進んでいく
(何階をご利用でしょうか?)
(いちばんうえの天井をつき抜けたてっぺんまでそれから降って床の下の地下3階までそれを百回繰りかえしてほしい . . . 本文を読む
図書館はどこですか?
図書館へ行く道はこの坂道ですか?
この坂道は市民会館の前をとおり右に折れると図書館に行く
港が見える
亀山が見える
春には桜が咲き乱れ青葉が吹き出す
秋には落ち葉が風に舞う
無彩色の鉄塔をのせた電報電話局が真下にあり魚市場の展望台(シャッターに鍵かけられてのぼれない)が見える
おじさん!
図書館はこの草ぼうぼうの土堤の桜並木の . . . 本文を読む
田中前 ホビーラ・ホビーレ(アレヤ・コレヤ 趣味の店)
店員はミシン掛け・毛糸巻き
アヴェックが入ってきたらいらっしゃいのあと また
ミシン掛け・毛糸巻き
あんまり売る気ないみたい
そこがいいのよ
ゆっくり見られるし
ね こっちの薄いピンクのと焦げ茶色のと
どっちがいいかな
焦げ茶色のコーデュロイ
ノースリーブ・U首・ダブダブ
. . . 本文を読む
とある珈琲屋の一角に
とろとろと黒いストーブが燃え
ちんちん沸きたつ銅の薬缶と
テーブルに並んだ珈琲カップから湯気がたち煙草の煙がたちのぼり
ここには暖かな空気がある
スピーカから流れるCDの音楽が
ジャズであろうとなかろうと
それは珈琲の香りがする
それと同じようにこのストーブは
もう何年も前からここで燃えているようだ
店の奥に据えられた黒いピ . . . 本文を読む
この店は天井に歴史がある
重層した時間がそこに場所を占める
わたしたちふたりはときどき
海沿いの国道を北上し
県境を越えて隣のまちへ遊びに行く
駅前通り突き当りすぐ右のこの店で
珈琲を飲む
縦長のお2本のスピーカと何枚かの油絵が壁面に場所を占め
あごヒゲにリボンを結んだマッシュルームカットのマスターとマッチ箱の絵からもぼくらを見つめている長い髪とめがねの奥さんが奥の . . . 本文を読む
四季亭の奥さんは力持ちだ
自分でそう言っている
ピザのパイ生地をこねたり
ワインの栓抜きこわしたり
ぼくたちから見れば
色白で華奢な女の子だが
五歳の元気な男の子(ワタルくん)の母親だ年齢のことを言っていいかどうかもうすぐ三十歳だそうだ
ご主人はヒゲで恰幅がいい
十年前には外国航路の船乗りだった
スパゲティのトマトソースつくったり
ヱビスビール飲 . . . 本文を読む
街の背後のふたつの山
湾の対岸から眺めるとよくわかる
あれはこの街の美しい胸
ああ 向かって右は手長山
左は 市民の森のある山
黒森山へ抜ける通り道の尾根
それで名前はなんて言うの?
熊山だって
※詩集湾Ⅱ Ⅰ感傷旅行 から . . . 本文を読む
ここは
この港のまちのへそ
港の奥の正面玄関
湾のまん中に浮かぶ島と
湾の東を区切る半島への
汽船の桟橋
そのまん前の公園
そのまん中の
初夏には淡いツツジの咲く丸い花壇の中心に沐浴する婦人の裸像が
大人しく落着いて遠慮がちに腰を落としている
その恥ずかしげな婦人の尻を
笑門来福
とばかりに満面の笑みをたたえ
じっと見つめるストレンジャーが . . . 本文を読む
○プロローグ(アフタヌーン)
コーヒーカップに一杯分のコーヒーを淹(おと)し絵付の皿にクッキーを三枚並べる
妻は仕事に出かけ息子は優雅な午睡を眠る
今夜の食事の準備はとりあえず考えない
遠くで踏切が鳴っている
息子のかたわらに寝そべってともに優雅な午睡をまどろむのも悪くはないが
そろそろ踊りはじめよう
時間は無制限ではない
可能性はいつまでも可能性ではいてくれない
. . . 本文を読む
風がささやかに流れている
奥深い湾のなかを
波がわずかにたっている
桟橋を離れた船のまわり
気仙沼は海のまほろば
東の道の行きどまり
白い漁船たちの母なる港
終わりにして始まり
造船場の赤さびたクレーンと上架した漁船
湾奥に注ぐ川
魚市場
神明崎の猪狩神社と海のうえの浮見堂
気仙沼は海のまほろば
「なーんにも . . . 本文を読む
港に建つ小さな白い洋館
― どなたのお宅?
あるいは
― 往来する船を借景する喫茶店?
(珈琲商のワゴン車がしきりに訪れていたという)
半円を乗せたはめ込みの窓が六つ並んだ下はレンガを積んだ花壇で
低木が植え込まれ
正面にまわるとチャコールグレイの屋根に二つの屋根裏めいた天窓が設けられる
まん中に真鍮の風見魚
は立っていない
船着場にカーフェリーが着くたび
紳 . . . 本文を読む
白い漁船たちが船尾を押し合う港の午後
岸壁と道路の間に低いコンクリートブロックで囲まれたアスファルト舗装の空間
そこは何と呼ばれる場所か知らない
青いプラットホームのような屋根の下に同じく青い木のベンチが並んでいる
だれがそこにすわるのか知らない
片側二車線の湾岸道路を走り抜けるたび
肩をよせて時を過ごす恋人たちを探すが
そこにはだれもいない
ああ恋人たち
船尾を . . . 本文を読む