モリモリキッズ

信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

カブトムシの樹液バトルとオオムラサキの片想い(妻女山里山通信)

2013-07-28 | アウトドア・ネイチャーフォト
 オオムラサキとともに今年はカブトムシが大発生の妻女山山系です。オオムラサキに関しては、冬場の気象条件がよかったということもあるのかもしれませんが、カブトムシに関しては昨年の夏に大鋸屑やチップで、カブトムシの産卵場を三カ所に作ったのも大きいかもしれません。その内の一カ所は野積みの状態だったのでイノシシに荒らされましたが、残りの二カ所は囲ってあるので無事でした。
 普段は夜行性で昼間は樹の高い所で休んでいるカブトムシですが、昨日の大雨まで日照りが続いたので樹液の出が悪く、夜の吸汁だけでは不足したのでしょう。真っ昼間から樹液バー(樹液酒場)は、どこも超満員です。ここでも三匹のカブトムシが、樹液を巡って壮絶な戦いを繰り広げていました。ところで、カブトムシ(甲虫、兜虫)は、本土では一種しかいないのですが、写真の様に大きな赤茶色のものと、やや小さな緑褐色のものと2タイプいます。種は同じなのでしょうが、どうしてこの様な差異がでるのか知りたいところです。幼虫時代の餌のせいでしょうか。

 左のやや小さい方が、場所取りをしようと何度も大きな赤茶色に攻撃を仕掛けました。赤茶色は最初脚でいなしていたのですが、余りにしつこいので下の写真の様についに正面切って勝負することになりました。カブトムシの樹液バトルの始まりです。右側に居た小さいのは、そそくさと逃げ出しました。オオムラサキとカナブンは、後ずさりして見物。勝負は最初にやや小さい緑褐色が角を下にもぐりこませて放り投げようとしましたが、やはり無理でした。するとすぐに赤茶色が角を緑褐色に引っ掛け、あっという間に放り投げてしまいました。投げられた方は、宙を舞って地面に落ち、ひっくり返ったまま脚をばたばたさせていました。落ち葉や小枝等掴まるものがないと、そのまま餓死してしまうこともあるのです。
 実はこの樹の根元には、カブトムシの7匹の屍骸が転がっているのです。アリがたくさんたかっていました。成虫になったカブトムシの天敵は、イノシシ、タヌキ、カラス、フクロウなどの鳥類や蛇ですが、頭が残っていて胸部腹部が食べられていたらほぼ間違いなくカラスです。今回は全てカラスの仕業でしょう。腹部が翅ひとつしかなく、胸部の肉もない頭だけのカブトムシが前脚だけを動かしていました。脳(脳神経節)だけが残っていて信号を送っているのでしょうか、自然のリアルな側面が見られました。

 ライバルを追い払って樹液を吸い始めた所へ、オオムラサキのメスが2頭やってきました。メスも羽化してから日にちが経ってきたので、翅が傷んできました。交尾を終えたかどうかは分かりませんが、来るべく産卵のために充分に栄養を摂っておく必要があります。ただ、そんな時に限って交尾をしたいオスが迫って来るのです。右上のオスはこの後、交尾器(ゲリタニア)を出して背後からメスを捕獲しようとしました。気づいたメスは体制を入れ替え飛び去ることも多いのですが、この時はそのまま見合ってお見合いに入りました。

 見合った2頭は、触覚を合わせて相手を確認した後、くんずほぐれつで舞いながら別の樹の葉上に留まりました。再び触覚で探りああってからオスが下唇鬚(かしんしゅ)でメスの匂いを嗅いでいました。その後写真の様にオスがメスの上に乗る様な格好になったので、これは合意が出来ていよいよ交尾に入るかなと思ったのですが、この後オスは何を思ったのか飛び去ってしまいました。男心と夏の空・・。

 ひとり葉の上に残されて呆然としている?メス。オスはこのメスの何が気に入らなかったんでしょうね。メスが拒絶するのではなく、こんな風にオスが拒絶するというのも何度か目撃しています。一昨年には、オスがメスを振って別のメスに求愛中に、振られたメスがすがりつくという修羅場に遭遇しました。すがりつかれたオスは、メスを足蹴に(実際は翅蹴)にして追い払っていました(『金色夜叉』か)。結局、そのとき新たに求愛されていたメスも、その騒動に驚いてか飛び去ってしまいました。オスにとっては、身から出た錆とはいえ踏んだり蹴ったりの出来事だったに違いありません。

 振られたメスは、また気を取り直して腹が減っては恋の戦もできぬと、樹液を吸っていると、背後から別のオスが海老の尻尾の様なゲリタニア(交尾器)を出してメスを捕獲しようとしています。捕獲に使う海老の尻尾の様なものはバルバといって、これでメスの交尾器を挟んで交尾します。実際は、このまま交尾に入る事はなく、メスが気づいてオスと対峙。そこからお見合いに入るので、この行為は誘い、つまり交尾したいという意思表示と見るべきなのでしょう。この時は、メスはもう求愛より樹液を吸う方にベクトルが向いていたのか、このオスがはなから気に入らなかったのか、すぐに飛び去ってしまいました。オオムラサキの婚活の道も、なかなか厳しいようです。

 蝶の研究家のT氏から、妻女山から千曲市一帯のハヤシミドリシジミ(蜆蝶の一種)が、この2年激減しているとメールが来ました。冬に卵がほとんど見られなくなったと。氏は千曲市のネオニコチノイド系に変更された農薬空中散布を疑っているようです。消えたのはミツバチだけではないようです。確かに見た目にもシジミチョウが激減しています。
 トウモロコシにミツバチが来たので見たらセイヨウミツバチでした。近くの果樹園の養蜂場のものでしょう。ニホンミツバチやハナアブはいません。テレビは絵にならないものを取り上げないので、ニュースにもなりません。問題そのものが表面化して来ません。ホームセンターでは、ヨーロッパ各国では禁止されたベトナム戦争の枯れ葉剤・ラウンドアップがビデオ付き解説で売られている異常。グリホサート系の除草剤はなんと100円ショップにも売られている有様。なにも知らずに庭の除草に使う人もいるでしょう。恐ろしいことです。沈黙の破滅現象が始まっていると言わざるを得ません。

 自然というのはリアリズムの世界です。未だにアニムズムやシャーマニズムの観点で自然を理解しようとする人がいますが、それは歴史として学ぶのであればいいのですが、人類が積み重ねて来た膨大な思惟の成果としての自然科学を全く学ぼうとせずに、安易にそういう世界を信ずることは、思考の停止を意味し、オカルティズムや神秘主義に陥る最も危険な道程です。自然を絶対視したり最高のものと賛美したりする人は、一度湿度100パーセントのクロメマトイとヤブ蚊とスズメバチや蛇のいる里山に一日中居てみるといいのです。自分の考えがいかに観念的なものか分かるでしょう。エアコンの効いた快適な人工空間にいたら絶対に分からないことです。里山の写真も、遠目で見る分には美しいのですが、それでは真の姿は見えて来ません。先日仲間と帰化植物のオオブタクサとヨウシュヤマゴボウ、ハルジオンの除草をしました。放っておくと在来種が駆逐されてしまい、生態系が破壊されてしまいます。元来里山と言うのは人の手が入って維持されて来たものですが、グローバリズムによるかつて歴史上ないほど多種多量の帰化生物の流入は、看過できない重大な問題なのです。
               
 自然というのは24時間一年中ニッチ(生態学的地位)のせめぎ合いが起きている現場です。非常に微妙なバランスで成り立っているもので、ちょっとした変異でバランスが崩れたりします。修復力もあるのですが、環境の変化に対応できずに絶滅して行く種も出ます。そういう微妙なバランスの危うさや強かさが、里山に通い続けると少しずつ見えてくるのです。普段から観察を通して、リテラシー(読解力)を獲得する努力が必要なのです。自然は、不完全な人間が直ちに理解できるほど単純ではないのです。人類はまだたった一枚の葉を零から作る事も、オオムラサキが次にどの樹に留まるかも予測すらできないのです。チンパンジーとさして変わらない進化の(進歩ではない)過程にある地球上の一生物に過ぎません。
 信じた瞬間に思考は止まります。自然科学は万能ではないからこそ、知ろうとすることを止めてはいけないのです。

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