三連休の中日は、信濃大町で開催中の【北アルプス国際芸術祭 〜信濃大町 食とアートの廻廊〜】を、ほぼ一日がかりで回りました。芸術祭メインテーマは、「水、木、土、空。」。範囲がもの凄く広いので、観たい作品を厳選して、効率よく回ることが必要です。10時からとあったので、長男の勧めで、まず栂池高原の対岸の重要伝統的建造物保存地区の白馬村青鬼(あおに)集落へ行きました。いやこれがまた…。
(左)朝から雨が降ったりやんだり。前日登った栂池自然園も雨雲の中。(中)中部電力姫川第二ダム。1935年(昭和10年)運用開始。撮影は青鬼へ向かう通い橋から。(右)通い橋から見る大糸線の鉄橋。左に古い鉄橋のコンクリートの円柱が見えます。通い橋のダム側には古い吊橋のコンクリートの枠が残っています。青鬼地区へは、ここから山道をくねくねと登っていきます。
(左)観光客用の駐車場に停めて協力金を払い、まず青鬼神社へ。長い石段を登って到着。御神体は善鬼大明神(御善鬼様)平城天皇の大同元年(806年)岩戸山山腹の岩屋に奥の院として祀られ、毎年旧暦8月11日が吉例の祭日。その後、安政2年(968年)現在地に前宮として創立。明治19年、氏子の要望で青鬼神社に改名。明治15年火災で消失後に再建。毎年9月21日に例祭。(神社案内より)右の赤い屋根は諏訪社。(中)神社の下、集落の中にあるお善鬼の館。朝なので我々だけかと思ったら、次々と人が訪れてきました。(右)館の中にはツバメの巣があり、雛は巣立ったようですが、つがいが囲炉裏の上にいました。出られるように戸は開けておいてとの張り紙。床が糞だらけなのには参りましたが、オスの方かな、近づいても逃げません。悠然としています。農具や調度品も見もの。
そこから、まず木崎湖南岸にあるインフォメーションセンターへ。作品鑑賞パスポート(2500円)を購入。地図もいただきました。最初に訪れた作品。『ベールの向こうに』Caitlind R.C. BROWN&Wayne GARRETT 空き家を布で覆った作品。手前は民家。向こう側はドライブインだったもの。美しく無常を感じる作品です。
そこから少し歩いて空き家の民家二軒。北風に布が揺れていました。布は、農業で使う寒冷紗でしょうか。この背後には仁科氏の仁科城跡(森城跡)があるので訪れました。現在は仁科神社が鎮座します。湖畔にその城の「阿部渡(あべっと)」伝説の看板があるのですが、読んで絶句後吹き出してしまいました。
「承久の乱の後、北条軍の手に落ちた森城を仁科盛遠の家臣阿部五郎丸貞高が奪い返し一旦は城主になるものの、木曽義仲の遺児に攻められ落城。貞高は、湖底を潜り対岸へ落ち延びようとするが、城内の鶏や犬が後を追ってしまい、泳ぎ着いた貞高は捕らえられて打ち首になってしまう。村人は鶏犬を飼わなくなったという。」
『ウォーターフィールド(存在と不在)』アルフレド&イザベル・アキリザン 樹木の枝やプラスチックのゴミで作られたボートが揺れています。こういう作品はコンセプチュアル・アート全盛の頃からありますが、湖に浮かぶのが新しい。長男によると、小学校の美術の授業でプールに浮かべてやったと。今では小学校の美術の教科書にも載るような手法ではありますが。先進国になるほどゴミが増える現実。最たるものは原発の放射能と危険物質を含んだ産業廃棄物、廃棄食品、プラスチックでしょうか。
『アルプスの湖舟』杉原信幸 (木崎湖畔のお米と蚊帳を用いて、山間の湖面に映る倒立したアルプスを造形した作品。):以下、()内はプロフィールからの抜粋です。
蚊帳には米がたくさんついています。吊ってあるところの窪みには鹿の角があったり。地元在住の作家ならではの、大町の自然や暮らしに馴染んだ作品だなと感じました。ここは夏季学校の校舎らしいのですが、周囲を見ると削平地があったり、山城の跡かなとも思いました。
米粒の感じが分かると思います。欄間や障子の格子、畳の色合いとも非常に美しく溶け合っています。長男は、米なので布は杜氏が使う濾布かなと言っていましたが、蚊帳なんですね。皆さん間近で観たり、座ってゆっくり鑑賞したり。たるんだ布の中にも色々何かがあるのでそれも探してみるといいかもです。
個人的には最も楽しみにしていた作品のひとつ。『Arc ZERO』ジェームズ・タップスコット (仏崎観音寺の参道にかかる太鼓橋を、こちら側(現世)とあちら側の世界(彼の世)を通り抜ける「Gateway」ととらえ、橋を包み込む光る霧のリングをつくりだす。観客がリングを通り抜けると、ある種の浄化作用を体験する。)
結界を分ける橋ですね。聖と俗。神社でいえば神橋。光輪から水が霧状に吹き出す。まあそれだけの作品なんですが、この作品は現場で体験しないとその凄さは分からないと思います。
(左)インドのチャイ(スパイスミルクティー)の様な色の速い流れによく合います。可愛い少女が興奮して橋の上でぴょんぴょんジャンプしていました。彼女は現(うつつ)と幻の間で、恍惚感に浸っているのでしょう。(右)お母さんが小さな女の子の手をひいて結界を越えて行きました。私は、鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』を想い出しました。生と死の彼岸。この作品は、1980年に東京タワーの近くのシネマプラセットのテントで観ました。
現世で世俗を捨てられずに結界を眺める人々。冗談です(笑)。そう大げさに言わずとも、日常と非日常を明確に分け、意識させてくれる作品です。思考を止め、瞑想することもたまには必要です。感性と思考のリフレッシュのためにも。当たり前、常識と思っていることこそ見直すべきです。昔、政治家や経営者の入る末期患者のアンケートを見る機会がありましたが、金や世間体や権力などではなく、もっと自分に正直に生きるべきだったと応えた人がほとんどだったとか。人生は一度しかないですからね。
大町市の名店街へ来ました。こんなアーケードがあることは初めて知りました。『全ては美しく繋がり還る』淺井裕介
アーケードの地面にずっと描かれています。日常の中にこういう作品があるのは楽しい。彼の『土の泉』という作品があるのですが。遠いので今回は断念。常設になるという話を聞いたのでいつか観に行きましょう。入ってすぐ右手には、台湾の絵本作家ジミー・リャオの『私は大町でー冊の本に出逢った』の展示があります。また、この商店街には、素敵なレストランやお店もあります。
(左)『北アルプス 高瀬川庭園』高橋治希 (中国の隠者·宗炳の思想をもとに、伝統的日本庭園に見られる「自然環境のミニチュア化」と「山水画における三遠の法」を組み合わせ…。)
いやあ繊細です。最初女性の作品かと思いました。高瀬川流域に自生する植物がモチーフとか。儚さを絵画ではなく立体として表現する儚さ。上から撮影したカットが多いのですが、横から撮った方が浮遊感が出て魅力的だと思いました。(右)その展示場。表の街道かに面した屋敷の離れでしょうか。下に用水が流れ高床になっています。小さな男の子が、「もうここには来ない!絶対来ない」と泣いていました。何があったんだと思いましたが、左のカットの女性の向こうに、幅50センチもない外廊下があり、それが高いしゆらゆら揺れるのです。これだ!と長男と大笑いしました。しかし、この部屋は何に使われたのでしょう。
(左)『O = 1 change-and-conservation』栗山 斉 ランプの上に水盆があり、熱で蒸発し、上で冷やされて雨粒の様に落ちてくる。その繰り返しは自然の水の輪廻。絶えることなき(いつか絶えるだろうが)地球の営みを感じさせます。(右)『たゆたゆの家』原倫太郎・原游 (「たゆたゆ」は、ものがゆらゆらと揺れる様を表す「たゆたう」を擬音化した作家の造語。)
二階のシャボン玉製造機は人気でした。手前の綱を引くと、メッシュが上がり後ろの扇風機で大きなシャボン玉が舞い始めます。子供よりいい大人がはしゃいでいました。『シャボン玉』という童謡がありますが、野口雨情は、明治41年3月に長女みとりを生まれてすぐに亡くしています。はかなく散った娘への切ない想いが込められているとの解釈があるのも頷けます。シャボン玉は美しいけれど儚い。
これも観たかった作品のひとつ。『信濃大町実景舎』目 (鑑賞者は、建物の間取りや階層を無視するように無差別に延ばされた導線ヘ誘われ、座標的空間のなかで「何でもない家具」や「北アルプスの巨大な峰」と唐突に関係する。)
そうですね。荒川修作の『養老天命反転地』を想起させる作品ですが、ぶつけましたよ頭をあちこちに。ボランティアの方から制作の苦労も聞きました。なんでも展示後は現状回復するとか。ご苦労様です。日常の風景を非日常的なもので切り取って観る。
作品のある鷹狩山山頂へは、結構渋滞していました。この辺は考えないといけませんね。大町市にとっては想定外の大盛況だったかもしれません。よく知る長男も、大町の街にこんなに人が歩いているのを始めて見たと言っていました。ただ、駐車場で車の整理をする女性が、手際よく笑顔で応対してくれたのが素晴らしいと思いました。他の会場でも、ボランティアの人の的確な案内と笑顔が印象的でした。
在京中は近くだったので、荒川修作+マドリン・ギンズの『三鷹天命反転住宅』もサイクリンで行きましたが、こういうのは頭の柔らかい子供の方が喜ぶんですね。ある女性が座ってボーッとしていたのも分かります。頭の固い男性の方が訳わからんで終わるかも。二階もあって畳の部屋や梁を越えていくところも。体内空間(子宮)にいるような感覚が呼び覚まされるかもしれません。
『風のはじまり』リー・クーチェ (自然のメッセージを運ぶ媒介である風の力を借りた、激しい大爆風の姿をした作品が森に現れる。人間と自然の生態学的バランスの重要性を表した作品。)
いい作品ですね。自然写真家の視点で見ても非常に魅力ある作品です。雨が降ったことで濡れて、完全に森と同化していました。個人的な願望では、高さがこの二倍ぐらいあったらなと思いましたが、製作期間とその大変さを思えば…。
木の枝が絡み合ってダイナミックな動きを魅せています。ドームになった内部は歩けます。私も学生時代はコンセプチュアル・アートを制作していたので、大変さは想像がつきます。作品とともに周囲の森もぜひ見て欲しいですね。植生が豊かです。雨上がりなら粘菌(変形菌)も見られるかも。
最後は旧八坂村に向かいます。『集落のための楕円』フェリーチェ・ヴァリーニ 彼の作品は以前からよく観ていたので知っています。鷹狩山から山道をくねくね走って到着。しかも作品は駐車場から遠い。しかし、それだけの価値はあります。案内のおじさんが坂道を下ってくる人に、「左見ちゃだめだよ!右見て右!ここまで来たら振り返る」とわめいていました(笑)。そう、作品のビュー・ポイントはここだけなのです。彼に聞いた話。空き家でなく人が住んでいる。夜にレーザー光線を当ててアルミのテープを貼っていく。貼る位置の角度が異なるのでテープの幅も異なる。住んでるし夜の作業だし、えらい近所迷惑な話だわ。と。でも楽しそうでした。台湾からの女性が迷ったと来ました。案内所にボランティアで台湾の女性がいたのが幸いでした。今回は、台湾の絵本作家も参加しているし、海外の人もたくさん見かけました。
あのシャッターがいつも開いているガレージには軽トラが止まっているんだが、流石に軽トラの尻にはテープは貼らなかったな、と。
(左)たまたま居合わせた富山大学で美術を専攻しているという可愛い女の子達三人と話しました。いいですね、信州人でさえ来ないようなこんな山奥まで美術鑑賞に来るなんて。そういう好奇心や向学心が大事です。(右)つまりですね。観る角度を変えると。こんな風に全く意味をなさない造形になってしまうのです。
さて、最後は旧八坂村の中心地へ。これも必ず観たいと思った作品。『Bamboo Waves』ニコライ・ポリスキー (雪、木、干し草などの自然の素材で大きな構造体を手作業で制作し、2000年にはある村の住民との協働のもと、200以上の雪だるまを制作した「スノーマン」で注目を集めた作家。今回ニコライは初めて日本を訪れ、八坂地区にある竹林の美しさに深い感銘を受けた。)
想像していた以上に作品は大きいです。そしてダイナミック。非常に躍動感があります。竹という素材は均一に扱うのが難しい。その暴れ具合が絶妙な躍動感を生んでいます。制作には地元の人達も関わっています。大変だったと思いますが、貴重な経験になったと思います。
背景には城山や左手には金太郎伝説の大姥山。雲が流れて幽玄な雰囲気も。作品の真下にも入れますし、間に小径もあります。色々な角度から観ることをお勧めします。ここにもたくさん訪れていました。県外ナンバーも多かったですね。
さてここから長野へ帰らないといけません。前方の城山左の布川峠を越えて、とんでもない山道をくねくね走って、国道19号に出たのですが、仕事で長野県中の山村をまわっている長男も苦笑いするくらいの深山の中。私は『信州の里山トレッキング 東北信編』の取材で途中まで走っているので笑っていましたが、信州の山道は舐めたらいかんぜよ、の世界です。間違うと本当に遭難します。
ところで【北アルプス国際芸術祭 〜信濃大町 食とアートの廻廊〜】は本当に楽しいです。7月30日までなので、計画を立ててお早めに。コアな芸術マニアから面白いことが大好きな家族や若者から老人まで。好きな作品を好きなように観ればいいのです。ここで紹介した作品以外にも、たくさんあります。6月には、人気のテナーサックス奏者、東大講師でもある菊地成孔氏参加の山下洋輔スペシャルカルテットのコンサートもあったそうです。
◉『山下洋輔トリオ GUGAN』森山威男と小山彰太のドラムバトルが圧巻。若き日の菊地成孔も凄い!
◉北アルプス国際芸術祭2017 Japan Alps Art Festival Official site
今週末と来週末は、非常に込み合うのではないでしょうか。行ける方は平日がおすすめです。とにかく効率よく歩くことが肝要です。折りたたみ自転車を携行するのもいいでしょう。駅前の『はじまりの庭』では自転車のレンタルもあるようです。暑いので日傘や日焼け止めも。水分補給も忘れずに。今回まわった中で、写真撮影禁止は一カ所のみでした。ただ他の屋内もフラッシュは必ずオフにしてください。他の方の迷惑になります。場所によっては足場が悪いところもあるので、スニーカーなど歩きやすい靴で。幼児や老人は注意してください。
これだけの規模の展覧会はさすがに毎年は無理だと思いますが、ビエンナーレ(二年に一回)、トリエンナーレ(三年に一回)とかでできないでしょうか。信州の大町市が、現代芸術の聖地となればいいですね。
◆『信州の里山トレッキング 東北信編』川辺書林(税込1728円)が好評発売中です。郷土史研究家でもあるので、その山の歴史も記しています。詳細は、『信州の里山トレッキング 東北信編』は、こんな楽しい本です(妻女山里山通信)をご覧ください。Amazonでも買えます。でも、できれば地元の書店さんを元気にして欲しいです。パノラマ写真、マクロ写真など668点の豊富な写真と自然、歴史、雑学がテンコ盛り。分かりやすいと評判のガイドマップも自作です。『真田丸』関連の山もたくさん収録。
★本の概要は、こちらの記事を御覧ください。
★お問い合せや、仕事やインタビューなどのご依頼は、コメント欄ではなく、左のブックマークのお問い合わせからメールでお願い致します。コメント欄は頻繁にチェックしていないため、迅速な対応ができかねます。
インタープリターやインストラクターのお申込みもお待ちしています。長野県シニア大学や自治体などで好評だったスライドを使用した自然と歴史を語る里山講座や講演も承ります。大学や市民大学などのフィールドワークを含んだ複数回の講座も可能です。左上のメッセージを送るからお問い合わせください。
■村上春樹さんのジャズ喫茶 - 『国分寺・国立70sグラフィティ』目次 [CONTENTS]
(左)朝から雨が降ったりやんだり。前日登った栂池自然園も雨雲の中。(中)中部電力姫川第二ダム。1935年(昭和10年)運用開始。撮影は青鬼へ向かう通い橋から。(右)通い橋から見る大糸線の鉄橋。左に古い鉄橋のコンクリートの円柱が見えます。通い橋のダム側には古い吊橋のコンクリートの枠が残っています。青鬼地区へは、ここから山道をくねくねと登っていきます。
(左)観光客用の駐車場に停めて協力金を払い、まず青鬼神社へ。長い石段を登って到着。御神体は善鬼大明神(御善鬼様)平城天皇の大同元年(806年)岩戸山山腹の岩屋に奥の院として祀られ、毎年旧暦8月11日が吉例の祭日。その後、安政2年(968年)現在地に前宮として創立。明治19年、氏子の要望で青鬼神社に改名。明治15年火災で消失後に再建。毎年9月21日に例祭。(神社案内より)右の赤い屋根は諏訪社。(中)神社の下、集落の中にあるお善鬼の館。朝なので我々だけかと思ったら、次々と人が訪れてきました。(右)館の中にはツバメの巣があり、雛は巣立ったようですが、つがいが囲炉裏の上にいました。出られるように戸は開けておいてとの張り紙。床が糞だらけなのには参りましたが、オスの方かな、近づいても逃げません。悠然としています。農具や調度品も見もの。
そこから、まず木崎湖南岸にあるインフォメーションセンターへ。作品鑑賞パスポート(2500円)を購入。地図もいただきました。最初に訪れた作品。『ベールの向こうに』Caitlind R.C. BROWN&Wayne GARRETT 空き家を布で覆った作品。手前は民家。向こう側はドライブインだったもの。美しく無常を感じる作品です。
そこから少し歩いて空き家の民家二軒。北風に布が揺れていました。布は、農業で使う寒冷紗でしょうか。この背後には仁科氏の仁科城跡(森城跡)があるので訪れました。現在は仁科神社が鎮座します。湖畔にその城の「阿部渡(あべっと)」伝説の看板があるのですが、読んで絶句後吹き出してしまいました。
「承久の乱の後、北条軍の手に落ちた森城を仁科盛遠の家臣阿部五郎丸貞高が奪い返し一旦は城主になるものの、木曽義仲の遺児に攻められ落城。貞高は、湖底を潜り対岸へ落ち延びようとするが、城内の鶏や犬が後を追ってしまい、泳ぎ着いた貞高は捕らえられて打ち首になってしまう。村人は鶏犬を飼わなくなったという。」
『ウォーターフィールド(存在と不在)』アルフレド&イザベル・アキリザン 樹木の枝やプラスチックのゴミで作られたボートが揺れています。こういう作品はコンセプチュアル・アート全盛の頃からありますが、湖に浮かぶのが新しい。長男によると、小学校の美術の授業でプールに浮かべてやったと。今では小学校の美術の教科書にも載るような手法ではありますが。先進国になるほどゴミが増える現実。最たるものは原発の放射能と危険物質を含んだ産業廃棄物、廃棄食品、プラスチックでしょうか。
『アルプスの湖舟』杉原信幸 (木崎湖畔のお米と蚊帳を用いて、山間の湖面に映る倒立したアルプスを造形した作品。):以下、()内はプロフィールからの抜粋です。
蚊帳には米がたくさんついています。吊ってあるところの窪みには鹿の角があったり。地元在住の作家ならではの、大町の自然や暮らしに馴染んだ作品だなと感じました。ここは夏季学校の校舎らしいのですが、周囲を見ると削平地があったり、山城の跡かなとも思いました。
米粒の感じが分かると思います。欄間や障子の格子、畳の色合いとも非常に美しく溶け合っています。長男は、米なので布は杜氏が使う濾布かなと言っていましたが、蚊帳なんですね。皆さん間近で観たり、座ってゆっくり鑑賞したり。たるんだ布の中にも色々何かがあるのでそれも探してみるといいかもです。
個人的には最も楽しみにしていた作品のひとつ。『Arc ZERO』ジェームズ・タップスコット (仏崎観音寺の参道にかかる太鼓橋を、こちら側(現世)とあちら側の世界(彼の世)を通り抜ける「Gateway」ととらえ、橋を包み込む光る霧のリングをつくりだす。観客がリングを通り抜けると、ある種の浄化作用を体験する。)
結界を分ける橋ですね。聖と俗。神社でいえば神橋。光輪から水が霧状に吹き出す。まあそれだけの作品なんですが、この作品は現場で体験しないとその凄さは分からないと思います。
(左)インドのチャイ(スパイスミルクティー)の様な色の速い流れによく合います。可愛い少女が興奮して橋の上でぴょんぴょんジャンプしていました。彼女は現(うつつ)と幻の間で、恍惚感に浸っているのでしょう。(右)お母さんが小さな女の子の手をひいて結界を越えて行きました。私は、鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』を想い出しました。生と死の彼岸。この作品は、1980年に東京タワーの近くのシネマプラセットのテントで観ました。
現世で世俗を捨てられずに結界を眺める人々。冗談です(笑)。そう大げさに言わずとも、日常と非日常を明確に分け、意識させてくれる作品です。思考を止め、瞑想することもたまには必要です。感性と思考のリフレッシュのためにも。当たり前、常識と思っていることこそ見直すべきです。昔、政治家や経営者の入る末期患者のアンケートを見る機会がありましたが、金や世間体や権力などではなく、もっと自分に正直に生きるべきだったと応えた人がほとんどだったとか。人生は一度しかないですからね。
大町市の名店街へ来ました。こんなアーケードがあることは初めて知りました。『全ては美しく繋がり還る』淺井裕介
アーケードの地面にずっと描かれています。日常の中にこういう作品があるのは楽しい。彼の『土の泉』という作品があるのですが。遠いので今回は断念。常設になるという話を聞いたのでいつか観に行きましょう。入ってすぐ右手には、台湾の絵本作家ジミー・リャオの『私は大町でー冊の本に出逢った』の展示があります。また、この商店街には、素敵なレストランやお店もあります。
(左)『北アルプス 高瀬川庭園』高橋治希 (中国の隠者·宗炳の思想をもとに、伝統的日本庭園に見られる「自然環境のミニチュア化」と「山水画における三遠の法」を組み合わせ…。)
いやあ繊細です。最初女性の作品かと思いました。高瀬川流域に自生する植物がモチーフとか。儚さを絵画ではなく立体として表現する儚さ。上から撮影したカットが多いのですが、横から撮った方が浮遊感が出て魅力的だと思いました。(右)その展示場。表の街道かに面した屋敷の離れでしょうか。下に用水が流れ高床になっています。小さな男の子が、「もうここには来ない!絶対来ない」と泣いていました。何があったんだと思いましたが、左のカットの女性の向こうに、幅50センチもない外廊下があり、それが高いしゆらゆら揺れるのです。これだ!と長男と大笑いしました。しかし、この部屋は何に使われたのでしょう。
(左)『O = 1 change-and-conservation』栗山 斉 ランプの上に水盆があり、熱で蒸発し、上で冷やされて雨粒の様に落ちてくる。その繰り返しは自然の水の輪廻。絶えることなき(いつか絶えるだろうが)地球の営みを感じさせます。(右)『たゆたゆの家』原倫太郎・原游 (「たゆたゆ」は、ものがゆらゆらと揺れる様を表す「たゆたう」を擬音化した作家の造語。)
二階のシャボン玉製造機は人気でした。手前の綱を引くと、メッシュが上がり後ろの扇風機で大きなシャボン玉が舞い始めます。子供よりいい大人がはしゃいでいました。『シャボン玉』という童謡がありますが、野口雨情は、明治41年3月に長女みとりを生まれてすぐに亡くしています。はかなく散った娘への切ない想いが込められているとの解釈があるのも頷けます。シャボン玉は美しいけれど儚い。
これも観たかった作品のひとつ。『信濃大町実景舎』目 (鑑賞者は、建物の間取りや階層を無視するように無差別に延ばされた導線ヘ誘われ、座標的空間のなかで「何でもない家具」や「北アルプスの巨大な峰」と唐突に関係する。)
そうですね。荒川修作の『養老天命反転地』を想起させる作品ですが、ぶつけましたよ頭をあちこちに。ボランティアの方から制作の苦労も聞きました。なんでも展示後は現状回復するとか。ご苦労様です。日常の風景を非日常的なもので切り取って観る。
作品のある鷹狩山山頂へは、結構渋滞していました。この辺は考えないといけませんね。大町市にとっては想定外の大盛況だったかもしれません。よく知る長男も、大町の街にこんなに人が歩いているのを始めて見たと言っていました。ただ、駐車場で車の整理をする女性が、手際よく笑顔で応対してくれたのが素晴らしいと思いました。他の会場でも、ボランティアの人の的確な案内と笑顔が印象的でした。
在京中は近くだったので、荒川修作+マドリン・ギンズの『三鷹天命反転住宅』もサイクリンで行きましたが、こういうのは頭の柔らかい子供の方が喜ぶんですね。ある女性が座ってボーッとしていたのも分かります。頭の固い男性の方が訳わからんで終わるかも。二階もあって畳の部屋や梁を越えていくところも。体内空間(子宮)にいるような感覚が呼び覚まされるかもしれません。
『風のはじまり』リー・クーチェ (自然のメッセージを運ぶ媒介である風の力を借りた、激しい大爆風の姿をした作品が森に現れる。人間と自然の生態学的バランスの重要性を表した作品。)
いい作品ですね。自然写真家の視点で見ても非常に魅力ある作品です。雨が降ったことで濡れて、完全に森と同化していました。個人的な願望では、高さがこの二倍ぐらいあったらなと思いましたが、製作期間とその大変さを思えば…。
木の枝が絡み合ってダイナミックな動きを魅せています。ドームになった内部は歩けます。私も学生時代はコンセプチュアル・アートを制作していたので、大変さは想像がつきます。作品とともに周囲の森もぜひ見て欲しいですね。植生が豊かです。雨上がりなら粘菌(変形菌)も見られるかも。
最後は旧八坂村に向かいます。『集落のための楕円』フェリーチェ・ヴァリーニ 彼の作品は以前からよく観ていたので知っています。鷹狩山から山道をくねくね走って到着。しかも作品は駐車場から遠い。しかし、それだけの価値はあります。案内のおじさんが坂道を下ってくる人に、「左見ちゃだめだよ!右見て右!ここまで来たら振り返る」とわめいていました(笑)。そう、作品のビュー・ポイントはここだけなのです。彼に聞いた話。空き家でなく人が住んでいる。夜にレーザー光線を当ててアルミのテープを貼っていく。貼る位置の角度が異なるのでテープの幅も異なる。住んでるし夜の作業だし、えらい近所迷惑な話だわ。と。でも楽しそうでした。台湾からの女性が迷ったと来ました。案内所にボランティアで台湾の女性がいたのが幸いでした。今回は、台湾の絵本作家も参加しているし、海外の人もたくさん見かけました。
あのシャッターがいつも開いているガレージには軽トラが止まっているんだが、流石に軽トラの尻にはテープは貼らなかったな、と。
(左)たまたま居合わせた富山大学で美術を専攻しているという可愛い女の子達三人と話しました。いいですね、信州人でさえ来ないようなこんな山奥まで美術鑑賞に来るなんて。そういう好奇心や向学心が大事です。(右)つまりですね。観る角度を変えると。こんな風に全く意味をなさない造形になってしまうのです。
さて、最後は旧八坂村の中心地へ。これも必ず観たいと思った作品。『Bamboo Waves』ニコライ・ポリスキー (雪、木、干し草などの自然の素材で大きな構造体を手作業で制作し、2000年にはある村の住民との協働のもと、200以上の雪だるまを制作した「スノーマン」で注目を集めた作家。今回ニコライは初めて日本を訪れ、八坂地区にある竹林の美しさに深い感銘を受けた。)
想像していた以上に作品は大きいです。そしてダイナミック。非常に躍動感があります。竹という素材は均一に扱うのが難しい。その暴れ具合が絶妙な躍動感を生んでいます。制作には地元の人達も関わっています。大変だったと思いますが、貴重な経験になったと思います。
背景には城山や左手には金太郎伝説の大姥山。雲が流れて幽玄な雰囲気も。作品の真下にも入れますし、間に小径もあります。色々な角度から観ることをお勧めします。ここにもたくさん訪れていました。県外ナンバーも多かったですね。
さてここから長野へ帰らないといけません。前方の城山左の布川峠を越えて、とんでもない山道をくねくね走って、国道19号に出たのですが、仕事で長野県中の山村をまわっている長男も苦笑いするくらいの深山の中。私は『信州の里山トレッキング 東北信編』の取材で途中まで走っているので笑っていましたが、信州の山道は舐めたらいかんぜよ、の世界です。間違うと本当に遭難します。
ところで【北アルプス国際芸術祭 〜信濃大町 食とアートの廻廊〜】は本当に楽しいです。7月30日までなので、計画を立ててお早めに。コアな芸術マニアから面白いことが大好きな家族や若者から老人まで。好きな作品を好きなように観ればいいのです。ここで紹介した作品以外にも、たくさんあります。6月には、人気のテナーサックス奏者、東大講師でもある菊地成孔氏参加の山下洋輔スペシャルカルテットのコンサートもあったそうです。
◉『山下洋輔トリオ GUGAN』森山威男と小山彰太のドラムバトルが圧巻。若き日の菊地成孔も凄い!
◉北アルプス国際芸術祭2017 Japan Alps Art Festival Official site
今週末と来週末は、非常に込み合うのではないでしょうか。行ける方は平日がおすすめです。とにかく効率よく歩くことが肝要です。折りたたみ自転車を携行するのもいいでしょう。駅前の『はじまりの庭』では自転車のレンタルもあるようです。暑いので日傘や日焼け止めも。水分補給も忘れずに。今回まわった中で、写真撮影禁止は一カ所のみでした。ただ他の屋内もフラッシュは必ずオフにしてください。他の方の迷惑になります。場所によっては足場が悪いところもあるので、スニーカーなど歩きやすい靴で。幼児や老人は注意してください。
これだけの規模の展覧会はさすがに毎年は無理だと思いますが、ビエンナーレ(二年に一回)、トリエンナーレ(三年に一回)とかでできないでしょうか。信州の大町市が、現代芸術の聖地となればいいですね。
◆『信州の里山トレッキング 東北信編』川辺書林(税込1728円)が好評発売中です。郷土史研究家でもあるので、その山の歴史も記しています。詳細は、『信州の里山トレッキング 東北信編』は、こんな楽しい本です(妻女山里山通信)をご覧ください。Amazonでも買えます。でも、できれば地元の書店さんを元気にして欲しいです。パノラマ写真、マクロ写真など668点の豊富な写真と自然、歴史、雑学がテンコ盛り。分かりやすいと評判のガイドマップも自作です。『真田丸』関連の山もたくさん収録。
★本の概要は、こちらの記事を御覧ください。
★お問い合せや、仕事やインタビューなどのご依頼は、コメント欄ではなく、左のブックマークのお問い合わせからメールでお願い致します。コメント欄は頻繁にチェックしていないため、迅速な対応ができかねます。
インタープリターやインストラクターのお申込みもお待ちしています。長野県シニア大学や自治体などで好評だったスライドを使用した自然と歴史を語る里山講座や講演も承ります。大学や市民大学などのフィールドワークを含んだ複数回の講座も可能です。左上のメッセージを送るからお問い合わせください。
■村上春樹さんのジャズ喫茶 - 『国分寺・国立70sグラフィティ』目次 [CONTENTS]