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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

オオムラサキの求愛 その悲しい顛末・・・(妻女山里山通信)

2011-08-01 | アウトドア・ネイチャーフォト
 その悲しい顛末は、フォト漫画でご覧ください。
 オオムラサキの求愛行動は、まずオスが縄張りを確保する事から始まります。自分のテリトリーに侵入して来た他のオスを、執拗に追いかけて攻撃し追い出します。この格闘はかなり激しいもので、翅も傷つきます。その攻撃性は、自分より遥かに大きな鳥にも向けられ、ヒヨドリやツバメを猛スピードで追いかけるのを目撃したことが幾度もあるほどです。

 オスは飛んでいるメスを発見すると、求愛飛行に入り、メスを自分の縄張り内の木の枝に留まらせようとします。メスが枝に留まってくれると求愛を開始するのですが、この時オスは、腹部を内側に曲げて交尾器(ゲリタニア)をメスに向かって突き出す仕草をします。これでメスがOKだとオスがメスの背後に回り込んで交尾が始まるのですが、拒絶の場合メスは正面を向いたままで、やがて飛び去ってしまいます。メスのOKのサインはよく分かりません。

 向かい合っている時に、お互いに触覚で触れ合って相手を確認しているようです。匂いや味で相手を確認しているのでしょうか。チョウは紫外線が見えるので、オスは視覚的にもメスを確認できるのかもしれません。モンシロチョウなどは、オスもメスも人間の眼には同じ白に見えますが、紫外線で見るとメスが白でオスはグレーに見えます。そんな違いがオオムラサキにもあるのかもしれません。

 お見合いが成立すると、いよいよ交尾です。オオムラサキのオスの尾には、把握器(バルバ)があり、これを使ってメスと結合します。オスはメスより早く羽化するので、メスの羽化直後を狙って強引に交尾にもっていったり、葉や枝で休んでいるメスを捕捉して交尾したりします。メスが既に交尾を終えていると必ず拒絶するので、いくらオスが追いかけても無駄になります。22日の記事で書いたように、交尾を終えたと思われるメスをオスが追いかけて、そのオスを交尾がまだと思われるメスがすがるという場面を目撃しましたが、メスがオスを追いかけるという珍しい行動も、例外的かもしれませんがあるようです。

 オオムラサキの交尾は、短くて3時間、普通は5、6時間、長い時は10時間から20時間にも及ぶそうです。これは、大量の精子を細い管からメスの腹部にある交尾嚢に入れるのに時間がかかるからともいわれています。オスの腹部を見ると、それほど大量の精液を常に蓄えているようには見えないので、精子を作りながら交尾しているのかもしれません。直径約2ミリの無精卵は一定量成熟すると産卵口に送られ、蓄えられた精液で受精し体内受精します。産卵された卵は精液が接着剤となりエノキの葉に固定されます。蛹から羽化してから3週間余りの期間に、これだけのことをするのです。

 里山の荒廃や雑木林の減少によって絶滅が心配されたオオムラサキですが、現在は各地で保護活動が盛んです。それはいいことなのですが、ある特定種のみを守ればいいというものではありません。クヌギやエノキだけを守ればいいというものではありません。信州の長野市や千曲市では縦割り行政の弊害からか、獣害駆除のための除伐や林道や登山道整備のための除草の際に、他のチョウの食草であるイボタノキやコクサギ、クララなどが産卵されているにもかかわらず全て均一に刈られてしまうという現実があります。おそらく他の自治体でも同じでしょう。
 また、千曲市は松枯れ病対策に空中散布を行っていますが、もしネオニコチノイド系の農薬であれば、ハチやハナアブ類に決定的なダメージを与えてしまい、いずれ麓の農業にも壊滅的な悪影響を及ぼす事になります。チョウが子供達やマニアによる昆虫採取により絶滅することはありませんが、このように卵ごと食草が軒並み刈られてしまったり、危険な農薬の方が、はるかに生態系への影響は大きいことをぜひ知って欲しいのです。

「オオムラサキの一生」

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