「人はどこから来て、どこへ行くのでしょうか...?」。先日、とある患者さんが、診察でこのような質問をされました。「答えなど、あるわけない!」と思うかもれませんが、実はそうでもないのです。その答えの一部は、以下の研究の中にあるかもしれません。
1957年にアメリカのヴァージニア大学精神科主任教授に就任したイアン・スティーヴンソンは、1958年より前世に関する研究を始めました。なお、ヴァージニア大学はアメリカの州立大学の一つです。スティーヴンソンは非常に優秀で、マッギル大学医学部を首席で卒業後、生化学などの研究に従事し、多数の論文を医学雑誌に投稿し、掲載されています。39歳という異例の若さで教授になっていますが、この時点で約70編の単著論文を発表し、前世の研究を始める前にすでに学問的な地位を確立していました。決して、怪しい人ではありません。
前世に関するスティーヴンソンの研究手法は、地道な面接調査に基づいています。これまでに40年間で、2500例以上の事例がスティーヴンソンの研究室に収められています。そのうち最初に登録された1100例について、取り上げてみたいと思います。
前世の研究では、前世と思われる人物やその人物に関する状況(その家族や、その人物の死に方など)を話す子どもを面接調査することから始まります。地域差はあるものの(東南アジアが中心)、世界中でそのような報告があります。子どもが前世の話を始める平均年齢は2歳11か月で、ほとんどは6~7歳で話すのをやめてしまいます。特徴的なのは、子供が語る内容は、前世の終盤で起こったことに限定されることが多いということです(約75%の子供が、前世での死に方について話すと報告されています)。そして、前世の死に方で特徴的なのは、前世の死に方が分かっている事例では、その70%が変死(殺人、自殺、溺死など)を遂げているということです。
さらに驚くことに、前世の人格の体にあった瘢痕(通常は致命傷)が、子どもの母斑や先天的欠損と一致する事例が少なからずあるということです。さらには、その裏付けとしてその18%の事例では病院のカルテが入手でき、両者が一致することが確かに確認されているということです。
前世の人格が死んで、現世で生まれるまでの間の記憶(幕間記憶といいます)を語る子どもの報告もありますが、数は比較的少ないです(1100人中、217名)。例えば、前世の人格の葬儀の模様や遺骨の取り扱いなどについて話されることがあり、これに関しても後に正しい情報であることが確認されています。中には、死後、どんどん上に昇って行き、天国では神と対面したり動物たちの姿を見たりしたと話した少年もいることが報告されています(ただし、こればかりは真実かどうか、確認のしようがありません...)。他にも驚くような報告が多々ありますが、詳細は“転生した子どもたち, ジム・B・カッター著(日本教文社)”などを一読ください(ジム・B・カッターはスティーヴンソンの後継者で、ヴァージニア大学精神科助教授です)。
さて、このような前世に関する研究が、医学的に世界でどのように評価されてきたかです。スティーヴンソンはまず、“生まれ変わりを思わせる20例;Twenty cases suggestive of reincarnation”を1966年に最初の著書として出版しました。その著書では、それぞれの事例がきわめて詳細に報告されており、これらの事例を客観的かつ公平に提示したうえで、その信憑性ばかりでなく、弱点についても検討しております。そして、一流医学雑誌の一つである“アメリカ精神医学雑誌;American Journal of Psychiatry”をはじめとする数多くの専門誌が、この著書に好意的な書評を載せました。そして1977年には、月刊の科学雑誌として最古の歴史を誇る“神経・精神病学雑誌 ;Journal of Nervous and Mental Disease”にスティーヴンソンの生まれ変わりの研究が特集として掲載されました(この医学雑誌もimpact factorを有する一流医学雑誌です)。
ただし、本研究から言えることは前世を話す子どもは極まれで、そしてその前世の人格の多くは非業の死を遂げているという特殊性があり、「現代の人々の一部に前世があるとしても、必ずしも全員にそれがあてはまるわけではない」ということです。著書の一つである“転生した子どもたち”の結論部分では、「生まれ変わりという考え方や、何かが前世から来世へと持ち越されるという考え方は、この方面の研究が過去40年間に渡って蓄積してきた証拠に基づく、最も適切な結論のように思われる」と記されています。
もうすぐお盆で、長崎では精霊流しの時期ですね。なんとなくタイムリーでしたので、“生まれ変わり”について言及してみました。