WHO(世界保健機構)は、DALY(障害調整生存率)という指標を用いて、世界49か国(主に先進国)において、健康な生活を阻害する要因となる疾患を挙げています。2008年では、1位はうつ病で、2位が虚血性心疾患、3位が脳血管疾患でした。2015年には、1位と2位は同じですが、3位にアルツハイマー型認知症が入ると予想されています。他にも、10位以内にアルコール依存症が入っており、精神疾患が健康な生活を阻害することが分かっています。これらは、社会的な不景気や高齢化社会などが背景にあると考えられ、社会全体で問題解決に取り組む必要があります。
以前、「非定型うつ病」について当ブログ上でふれたことがありますが、実は非定型うつ病は、単極型うつ病(いわゆる、一般にいう“うつ病”)よりも、双極Ⅱ型障害(*)のうつ症状として現れることが多いという報告があります。なので、非定型うつ病の治療は、単極型の場合はSSRIという抗うつ薬で治療を行いますが、双極性障害の要素を持ち合わせていると疑われる場合は、まずは抗うつ薬は使わずに、気分安定薬から治療を開始することもあります(理由は、当ページ上のウェブページ「気分障害の調査のお知らせ」をご参照下さい)。
(*)双極Ⅱ型障害とは、躁うつ病の病型のひとつで、過去にうつ病期と軽い躁病期を認める場合に、この診断名がつきます。ただし、「軽い躁病期」は、気分の高揚や睡眠時間の減少などを認めますが、あまり周囲に迷惑をかけることがなく、本人も「元気が良くて、調子がいい」くらいにしか思わないので、見過ごされることが少なくありません。しかし、軽い躁であってもきちんと治療をして「普通の気分」に戻さないと、いつか反動でうつ病期がやってきて、社会生活に支障をきたすようになります。
本日、市内で統合失調症と躁うつ病(双極性障害)に関する講演会がありました。統合失調症と躁うつ病は、最近のいろんな研究(画像研究、遺伝子研究など)から、実は根本の質的には同じ疾患であることが示唆されています。簡単に説明すると、脳体積(主に前頭葉)の減少が軽度にとどまるものが躁うつ病で、重度なものが統合失調症の症状を発現するということです。これは、統合失調症に有効なお薬の多くは、同じく躁うつ病にも有効ということの裏付けにもなっています。
また、最近では、躁うつ病とうつ病の連続性も示唆されており、診断名のみにとらわれず、より幅広い視野を持って治療に臨む必要性を感じています。